今回の配信によって影響を受ける若いバンドが出てきて欲しい
──メンバーの変遷もあって、初期のロックンロール、パンクからニューウェイヴ、グラムロックと、作品ごとにどんどん変わって行きますよね。
やっぱり、大江慎也さんの存在が大きいじゃないですか? だから、初期から中期にかけては、彼がだんだんいなくなっていく感じがわかりますよね。それで、いなくなったあとに『NEON BOY』(1985年/ THE ROOSTERZ名義)が出て、そこで花田裕之さんがヴォーカルとしてやっていくわけですけど、まだそんなに確信的なモノがあるわけじゃないなと思っていて。その後、下山淳さん(Gt)が存在感をだんだん増してきて、音楽的に深化していって、最後にバンドとして成熟して終わるっていう。中期の混沌とした時期、大江さんがいなくなりそうなときの感じがこれまた独自の世界観を出している。全部聴くと、常にルースターズはトガリ続けているということがよくわかる。
──花田さんについてはどのような印象をお持ちですか?
花田さんは、あんまり語らない印象ですね。寡黙なわけではないですけど、ことルースターズのことに関してはあまり語ってないんじゃないかなあ。花田さんは最初から最後までバンドに在籍していた唯一のメンバーですから全部知ってるわけだし、色々訊いてみたいですけどね。大江さんは今回も東京新聞で話してくれたりとか、喋ってくれますけどね。他のメンバーはあんまり語ってないですね。井上さんも池畑さんもあんまり語らないと思います。
──最終的に、作品としては下山さんのカラーで終わった印象です。そこはいかがですか。
『FOUR PIECES』は下山さんプロデュースと言っても過言ではないんじゃないでしょうか。細部にまでかなりこだわってやられたそうです。下山さんギターにも傾聴して欲しいですね。最高にクレイジーなギタリストだと思います。

──大江さんが抜けて花田さんがヴォーカリストになったことで、下山さんが持つ音楽性の比重が大きくなって行ったのでしょうか。仮に大江さん、花田さん、下山さんが共存して続いていたら、後期はああいう作品になっていなかったと思いますか?
なっていないでしょうね。この間、大江さんと話していたらおっしゃってましたけど、中期ぐらいから、当時のプロデューサーさんの意見が入っていたみたいです。中期に所謂ストレートなナンバーがだんだんなくなっていったのは、そのご意向も結構あったのかなと思います。その方向性とギタリスト、下山淳のスタイルがハマったんでしょうね。
──中期以降の曲は、ギターの音をはじめすごく幻想的なエフェクトがかかっていたりしますよね。
確かにサイケデリックですね。そこもプロデューサーの好みも入ってるんじゃないかと思います。それとこれは勝手な推測ですけど、「ロックンロール一辺倒じゃ売れないな」っていうのが見えてきちゃったんじゃないかなって。もうちょっと売れそうなことをやろうと思って、プロデューサーさんやエンジニアさんがやりたいことをやっていたんじゃないですかね。
──その時代の曲で、特に印象的な曲はありますか?
『C.M.C.』(1983年)に入っている“カレドニア”ですね。なんだこれ!? っていう感じの曲が平気で入っているという(笑)。余談ですけど、当時『C.M.C.』のジャケットに、“カレドニア”の歌詞が書いてあって、そこに〈とんで行く とんで行く すばるの方から〉って書いてあるんですよ。でも、歌詞カードを見ると〈とんで行く とんで行く スカルノ峰から〉って書いてあるから、どっちが正しいのか大江さんに訊いたんですよ。そしたら、これはカレドニアに“スカルノ峰”っていう山があって、それのことだって説明してくれました。もうひとつ今回解決したこととして、“C.M.C.”の綴りにドットがなかったり中黒だったりとか表記がまちまちだったんですけど、今回“C.M.C.”で正式決定しました(笑)。それと、“C.M.C.”の出だしの歌詞で、〈しゅわくのホリデイ サマービーチ〉って歌っているんですけど(歌詞には「魅惑」と書いてあるものもある)、“しゅわく”なんて言葉はどこを探してもないんですよ。それで大江さんに「“しゅわく”ってなんですか?」って訊いたら、「あれは俺が作った言葉だよ」って言ってました(笑)。
──オリジナルの言語だったんですか(笑)。サウンドも曲調も歌詞も、同時代の“めんたいロック”と呼ばれるバンドのなかではちょっと異色ですよね。中期~後期に行くにつれて、よりそこが深くなっていくという。
おっしゃる通り、そこがルースターズの深いところじゃないですかね。現代にないエネルギーがすごく存在していると思いますし、そういう部分をいまの若い人たちに感じてほしいんですよね。たぶん、最近の音楽にはない刺激があると思います。
──ルースターズの音楽が、後に出てきたロック・バンドに与えた影響についてはどうお考えでしょうか。
もちろん、何かしらの影響を受けているバンドはいたとは思うんですけど、いまのロック・バンドにはいないんじゃないですか? 本当に、今回の配信によって影響を受ける若いバンドが出てきて欲しいです。
── 一言では言い表せないとは思いますが、敢えて訊きます。ルースターズってどんなバンドだと思いますか。
“世の中に妥協しなかったバンド”じゃないですかね。ちょっと語弊はあるんですけど、私は“ロック”と“売れ線”って逆にあると思っているんですよ。ルースターズも、「GIRL FRIEND」(1981年の4thシングル)で売れ線を狙ったかのような曲もあったものの、メンバー自身はなんかそうじゃないところでずっとやりたいことをやってきたんだと思います。「ロックって何なのか? ロック・バンドって何なのか?」それが私にとってのザ・ルースターズなので、本当に全部聴いていただきたいです。
編集 : 高木理太
PROFILE
ザ・ルースターズ
北九州で結成、1980年に「ロージー」でデビュー。初期メンバーは大江慎也(ボーカル・ギター)、花田裕之(ギター)、井上富雄(ベース)、池畑潤二(ドラムス)の4人。ストレートで骨太なロックンロールと、大江慎也の過激な歌詞やパフォーマンスで話題となり、当時の「めんたいロック」ムーヴメントにも乗って東京へ進出、全国のロックファンから支持され、数々の伝説を残す。THE ROOSTERSからTHE ROOSTERZに表記を変更、ある日の東北のライブでサインを頼まれた大江がたまたまTHE ROOSTERZと書いたことで変わった(ご本人談)と言うが、大江の脱退と共に初期のパンク、ロックンロールから、ニューウェーブの影響を受けたサウンドへと変化していった。何度かのメンバーチェンジを経て、1988年の渋谷公会堂でのライブで解散。 90年代終わり、ミッシェル・ガン・エレファント、東京スカパラダイスオーケストラ、the pillows、THE BACK HORNらが参加したトリビュートアルバムが発売された。2004年、フジロックフェスティバルにオリジナルメンバーで登場した。メンバーは現在もソロやバンドなどで活躍中。