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INTERVIEW : 緑黄色社会

リョクシャカに漠然としたイメージを持っているリスナーはきっとニュー・アルバム『pink blue』の1曲目であり、タイトル・チューン“ピンクブルー”に驚くんじゃないだろうか。国民的なバンドを目指し、またメンタリティとしては現代を生きる人を前向きに鼓舞するメッセージを放ってきた4人が、より音楽的に貪欲で従来のイメージに囚われていないことが明快にわかるオープナーなのだ。結成10周年以降のバンドに起こった変化を導入に、インタヴューをスタートしてみた。
取材・文 : 石角友香
写真 : 西村満
らしさを良い意味でぶっ壊していくターム
──昨年は結成10周年を迎えて日本武道館公演(2022年9月16日・17日開催)、紅白初出場というひとつの節目だったと思いますが、それ以降バンドのマインド・セットに変化はありましたか?
長屋晴子(Vo / Gt)(以下、長屋):武道館、紅白と大きなイベントがあって、もっと次をみたいと思ったし、次をみるにはなにか新しいことをしないととか、それまでの自分たちを超えていかないとみたいな気持ちはすごく強くなりましたね。
小林壱誓(Gt)(以下、小林):いままでのリョクシャカらしさみたいなもののイメージを良い意味でぶっ壊していくタームかなと思ってます。
peppe(Key):武道館当日とかその辺から、もうみんなそういう感情が沸々と出てきてたんじゃないかな。各々の表現の仕方は違うにしろ、そんなニュアンスを感じてて、曲にした時にちゃんと現れていて、まさに曲で体現したなって感じがします。
穴見真吾(Ba)(以下、穴見):いかにバンドが気持ちよく進み続けられるかってことを考えた時に、その場に安住してはいけないですよね。同じことばかりやってても楽しくないっていう考え方の4人なんで、そのためにはいろいろインプットも必要だし、牙を磨く努力をしなきゃいけない。大きな意味での軌道にちゃんと乗れないと長くはやっていけないんで、そういう意味では今回も挑戦っちゃ挑戦ですけど、ひとつのピースとしてすごい大事なような気がしますね。
──すでに昨年4月に“陽はまた昇るから“、11月に“ミチヲユケ“がリリースされています。特に“ミチヲユケ“は、端的にバンドの新しさが出ていましたが、新曲を作っていくなかで皆さんの基準みたいなものはありましたか?
長屋:今作の収録曲のなかでは、新曲が生まれたパターンもあるんですけど、ストックから選出されたパターンも結構多くあって。それもいままでだったら選ばなさそうな曲を選んだりだとか、選ぶ基準が変わったのかもしれないです。新しく作るという意味でも、タイアップのお話をいただいて作ることが多かったんですけど、自分たちの受け入れ方というか表現の仕方がまた変わってきたように思いますね。
──タイアップ楽曲も相当おもしろいですね。“ジブンセイフク“は作詞家・小林壱誓節が爆発してる感じがしました。「操られているような寒気がして / 途端に踵を返しスケートボード飛ばした」(“ジブンセイフク“より)とかすごいですよね。どんなインスピレーションだったんですか。
小林:これはもう本当に言葉と同時にメロディーが出てきたパターンで。なんか常にこういうことばっか考えてます。
──長屋さんは歌う際にどんな感触でしたか?
長屋:曲から少年心みたいなのをすごく感じたので、そういった空気感をなるべく表現できたらなあと。自分らしさと新しさみたいなものを織り交ぜながら歌ったというか、温度感は結構気をつけながら。そうしたことで曲の持つ神聖さや繊細な部分も歌には出せたと思います。
──ちなみに(ストックから)選曲された曲というのは?
長屋:“ピンクブルー“もそうなんですよ。3年前ぐらいにデモがあって、当時からちょっとみんな気にはなってて。「アルバムやるぞ」ってタイミングでアレンジだったりをやり直したっていう。
小林:この曲はコロナ直前のころに作ったんです。僕たちが東京に出てきてすぐの頃。そのときの人間にもやっぱこういうブルーな感情ってあったんだなって。
──コロナ直前にもそんな感情があったと。
長屋:コロナ禍で書いた歌詞のようにも思えるかもしれないですけど、実はそれよりも前なんです。だからもうこの曲で歌っていることは、人間のテーマとしてずっとあるんでしょうね。

──1曲目なのでインパクトが大きくて。元々こういう音像を目指してらっしゃったんですか?
長屋:当時はここまでの音像にはなってなくて。私が作ってた時は弾き語りベースというか、エレピとシンセと歌みたいな簡易的なものしかなくて。で、自分の想像してた“ピンクブルー“は、もうちょっと緩くてカオスでシュールな部分があって、ちょっとクスッとしちゃう部分もあるんだけど、ちょっと可愛らしい要素があるイメージだったんですよ。でもアルバムに入れるって時に、(穴見)真吾が「アレンジをしたい」って言ってくれて託したら、すごいカッコいい曲に生まれ変わって。自分のイメージとは違いましたけど、そのカッコよさが板についてたというか、この曲に合ってた感じがあって、むしろその方向でよりカッコいい曲に仕上げようぜっていう。もともとリード曲ではなかったんですけど、真吾がカッコよくアレンジしてくれてからは、曲に派手さも出て、リード曲らしくなったっていうところで先頭に持ってきました。
──それでアルバム・タイトルにもつながっていったと。穴見さんはアレンジのビジョンは早くからあったんですか?
穴見:最初に聴いたときからすごく惹きつけられるなとは思っていて。その長屋の“緩い“っていう感じもすごい分かったんですけど、どうしてもこのサビが目立とうとしてたというか、サビに訴えられたんですよね、自分が(笑)。だからより都会的で外っぽいイメージをオケにつけて、歌ってる人だけは中っぽく、すごい独りよがりみたいな感じのアレンジにしたんです。結果的にはそのメリハリがおもしろいのかなと思って。
──80sっぽいギター・サウンドも特徴的ですね。
穴見:ギターの音色に関してはアレンジャーの川口圭太さんにブラッシュアップしていただいて。より80s的な、ヴェイパーウェイヴ的なことにしてくれましたね。
──ブルーはいわゆる憂鬱などのイメージがありますが、ピンクはどういうニュアンスなんでしょう。
長屋:歌詞のなかでは明言はしていませんが、結構ピンクって暖かいイメージがあったりとか、恋愛の要素だったり、幸せな気持ちだったりとか、まあポジティヴなイメージのある色かなって個人的には思ってるんですよね。で、反対にブルーはネガティヴなイメージもあるような色で。現代社会において──自分もそうですけど、日々の憂鬱っていうものが存在していて、でも人に吐くほどでもないよなぁっていう気持ちってたくさんあると思うんです。でもどこか人になじめないというか、自分だけちょっと浮いてしまっているような気持ちがするというか。おおごとにするわけでもないけど現状に満足いってないようなどこにも行けない気持ち? 本当になんの変哲もない気持ちを歌にしたかったんですよね。これまではもうちょっとメッセージ性のある曲を意図的に歌ってきたんですけど、この時はあえて軽いメッセージを届けたいなっていう気持ちでした。
──タイトルがpink and blueではないのはそういうことなんですね。
長屋:そうですね。ピンクめいたブルー。ピンクがちゃんとブルーにかかっててほしいというか。
──歌詞のなかで「大袈裟だからピンクなんか混ぜて」(“ピンクブルー”より)っていうのは人に吐けないということを自覚してる感じですね。
長屋:結局なんか強がりというか、ひねくれてる部分があるのかな。最後に「それくらいのブルー たったそれくらいのブルー」とあるんですけど、その一文がすべてを要約しているような曲ですね。
──確かに。本音は独り言というか。
長屋:素直になれるのであれば、ちょっと寂しい気持ちも吐ける人っているじゃないですか。その気持ちを「ねえねえ聞いてよ」と言える人がきっと周りにいたりとか。そういうことを羨ましく思ってたり、自分にはないものに焦がれていたり、そんななんの変哲もない気持ちですね。
──長屋さんの新たな側面発見ですね。
長屋:いやそんなことないんですよね(笑)。自分的にはすごく自分らしい曲が書けたと思ってて。
穴見:普段の長屋って感じですね。
peppe:高校生から私たちが知ってる長屋晴子って実は、みたいな(笑)。
長屋:ちょっとひねくれた部分がある曲をリードとして押し出すことは、自分たちにとってすごく挑戦でした。でもこういう部分って誰しもにきっと存在している部分だし、共感してもらえると思う。仮にそうでなかったとしてもすごく軽い気持ちで書いた曲なので、もはや共感してくれなくてもいいとも思ってる。そういう意味で挑戦ですね。
