サンバ、レゲエ、ファンクのリズムが好き
──そしてアルバムのタイトルチューン“Not Unusual”は、一瞬、「えっと、どういう意味?」って思うんですが。
阿部:二重否定なんですよね。「Unusual」が「普通じゃない」だから、「Not Unusual」は「普通じゃなくない」ってことなんですよね。ってことは普通ってことなんですよ(笑)。だから「Usual」だけ言えばいいんですけど。
──なんか締まらないですね。
阿部:そうそうそう。「珍しいことじゃない」とか、「いつものことだよ」みたいになるんですかね。日本語で二重否定ってあんまりないじゃないですか。私、「neverなんたら」とかさ、なんか否定してるの好きなんですよね。「I neverなんたら」とか。
──断言って感じしますね。
阿部:そうそう。すごくいいなと。これは多分言葉が先だと思う。言葉を知って、その後曲を作っている時になんとなく鼻歌で出てきて、「あ、すごくいいな」と思って、そこから作った感じでしたかね。
──“Not Unusual”の歌い出しは迫力の低音。だけど可愛い曲で。
阿部:そう。可愛らしい曲。私この曲で1個思うことがあって。多分これまでだったらこの声色でこの世界観だったら一人称を“僕”にすると思うんです。もう低い声で歌うイメージがあったんで、どっちかっていうと女性ヴォーカルより男性っぽいヴォーカルのイメージの頭になったから。ただ今作は、いまの自分のニュートラルっていう軸があったから、“僕”にするのやめようと思って“私”にしようと。あと、この歌詞は自分の息子に対しての想いなんで、そこは僕じゃダメだなと思って。だから私のなかで、いい意味でちょっと違和感があるんです。この声なのに“私”って言ってるって。
──内容は素直な歌ですよね。
阿部:うん。素直ですね。結構気に入ってます。この曲書いて、やっと「アルバムの全体のテーマが決まったんですよね。いままで恋愛とか、「生きるとは?」みたいなことを歌っていましたけど、もうちょい私のパーソナルな価値観とか家族エピソードっていうのを軸にしようかなって思ったんですよね。だからアルバムタイトルも『Not Unusual』、同じものにして。いまこれを書かないと、と思いましたね。
──阿部さんのご両親というか、家族の歌もありますもんね。
阿部:私の両親の歌だって、よく分かりましたね。“とおせんぼ“ですよね。これほら、私と前の旦那と子供って思う人もいると思うんですよ。でもお父さんのことをはじめて書いたんです。良かった、伝わって。
──多分夫という人を歌っていたら、冒頭の歌詞「朝があなたをどこかに連れてく」っていう、受け身な感じにならないと思いました。自分にはどうしようもできないっていう感じ。
阿部:そう。切ないですよね、めちゃくちゃ。
──この楽曲のオケは和田さんのギターだけですね。
阿部:いいよねぇ。ほんとめっちゃいい音なんですよ、ワダケンのギター。いい音で録ってくれてるし、エンジニアの林(憲一)さんも。すっごい気に入ってる。、“とおせんぼ“は、このアルバムの中でいちばん好きな曲です。まずはメロディが美しいですし。ギターのフレーズと私が作ったメロディ、あとはサビの例えば頭の「産声~」の部分の言葉の響きも。だから歌詞の内容もそうですけど、すべての音で表現されている響きがとにかく美しいし、それを予感していたから、そういうものを録れるようにずっとこだわってましたね。とにかくこれは響きだけが大切で、力じゃないっていうね。それができたから満足していますね。
──歌いたいことを純度が高いまま定着させるための方法だったんですか?
阿部:レコーディングは、めちゃくちゃ「こうだ」みたいなジャッジ結構してましたけど、想いを純度高く落とし込む方法は結果的にこれだったんだって後で分かる感じかな。全部はじめてのことだったから。もともと“とおせんぼ“は、メロディを作った時から“とおせんぼ“というタイトルだったんですけど、歌詞を作り込む前は、普通に恋の歌とか自分の失恋の経験からとか、そういう感じの曲にしようと思ったんです。でも全然筆が進まなくて、ちょっと寝かせておいたんですね。で、去年、父と母といろいろ話す機会があって。その話を終えて、もう離れ離れになったけど、ようやく家族3人、同じ想いを共有出来たことがあって。それを経た時、この曲のベースを使って、歌詞は家族のことを書かないととすごい思ったんですよ。だからそこからはもう早くて。もうわーって歌詞を書いてもうすでに決まっている収録曲のレコーディングのスケジュールにこの曲もねじ込んでもらって。だからカウントしてない新曲が1曲増えたっていう事件が起きて(笑)。

──阿部さんが自分の気持ちを作品にするのも自由だしっていうのすごい感じました、いま。
阿部:そう。それは自由(笑)。いい自由の使いかたですね。ぶちまけるんじゃなくて。
──ほんとにレコードですよね、記録というか。
阿部:確かに。素敵ですね、レコードね。
──だからか、今回は、「こうしようぜ」みたいな曲は少ないですね。
阿部:少ないです。とつとつ歌ってる曲ばっかり?でも結構気に入ってますね。
──唯一現代的なイシューを感じたのは“Don’t you get tired?“で。
阿部:そうだね(笑)。でもこれはもう普遍的にありつづけると思う、私の中で。いろんな現実、ネット、お仕事、どんな社会でもあって、特にこれは人間関係に対してだけど。マウンティングを取ってくる人に対して、「そんなことしてて楽しいのか、疲れないのか」、「それってどうなの?」っていうことですよね。その対象はその都度変わりますけど、でもそういう物事ってどこにでもあるじゃないですか。
──それをハードな楽曲じゃなく、ちょっとなんかレゲトン調の、どっちかというとR&Bの文脈の曲で歌ってますね。曲調と歌いたいことは同時だったんですか?
阿部:同時でしたね。これは曲作ってて、ふんふん歌ってて、「Don’t you get tired?~♪」多分これはいけるだろうって、私の英語の学力でも分かったんですよね。「疲れませんか?」って意味だよねと思って。そういう歌だなあと思って、思ってることを書いていきながら、どういうふうに言葉遊びできるかなって結構考えましたかね。
──海外のポップスだと去年とか結構トレンド的な楽曲かなと思いました。レゲエっぽい曲が多かったかなって。
阿部:レゲエ好きなんですよ。それ気付いてたんですよ、私(笑)。3~4年前からかな? コロナより全然前で。アリアナ・グランデの「side to side ft. Nicki Minaj」(2014)がめちゃくちゃレゲエなんですよね。あの曲が異常に好きで、いつかの夏ずっと聴いてて。レゲエとサンバが好きだっていうことは少ない洋楽の知識のなかで得た事実で、意外とそのドンチッチドンチッチとかそんなに好きじゃないんですね。ドープな感じとか、ザR&Bすぎるやつも。ファンクは好きなんだけど。
──歌い上げ系みたいなR&Bが?
阿部:好きじゃないんですよ、全然。好きなのは決まってて、サンバ、レゲエ、ファンク、このリズムですね。このリズムが好きっていうことわかってたんで、楽しくやってたら、ちょいレゲエっぽさがメロディにあるから、きっとギターもそういう風に入れてくれてるのかなって思いますよね。