今回の4曲はすげえ怒ってます
──「ユートピア」もオキタさんにとって重要なワードだったのでしょうか?
オキタ:やっぱり2020年、2021年は世の中もディストピア的というか。でも本来ユートピアは管理社会のことでもあるから(※イギリスの思想家トマス・モアが『ユートピア』内で唱えている論理)、それってディストピア的だなと思ったんです。ディストピアに近づいていくのは確実に良くないことだと思ったので、この曲は「ユートピア(笑)」みたいな意味合いが強いかな。
──たしかに「言ゥ虎pia(feat. オキタユウキ)」が4曲中最も皮肉が効いていると思います。シリアスな曲が多いなか、ユニークなアプローチにもなっていて。
オキタ:1番と2番をまったく違う毛色にしたかったんです。だから2番では生楽器が全然入っていないし、1番と2番ではラップのマインドや文脈も全然違う。そういう意味では僕のソロっぽいなとも思ってソロアーティストとしての名義で「feat. オキタユウキ」としたんですよね。
ヤマダ:「言ゥ虎pia」のデモを聴いた時、「ついにétéに“オキタユウキ”が出てきた……!」と思いましたね(笑)。仕上がりが良すぎて、この時点で完成しているなと思いました。僕はうっすらベースを入れたくらいですね。
小室:ライヴどうするんだろう?とは思ったけど(笑)。
オキタ:(笑)。Djentの文脈を汲んだうえでポップミュージックを作りたかったんです。出来る限りキャッチー、かつ4曲でいちばんアイディアを詰め込みました。ただ聴きやすいよりは、「スルッと聴き流せるけどすごいことやってるぞ」という曲にしましたね。
──既存の文脈をなぞらないところ、そして文脈に配慮と敬意を払うからこそ、トーキョーニュースクールは実現できるのだろうなと、お話を聞いていて思いました。
オキタ:文脈のない音楽は世の中にたくさんあって。そもそもメタルも、ただ激しいだけのものではないと思うんですよね。上澄みを掬っただけのものは、やっぱりすぐわかるので。僕の純粋なルーツのうちのひとつにヘヴィー・ミュージックがあるので、ただメタルの要素をなぞるだけではなく、リスペクトを込めたうえで僕らなりに更新したい──そういう思いのもと生まれた4曲ですね。すべてルーツを下地にしたうえで、これまでにないアイディアを詰め込むことを意識しました。
──それもカウンター的なアティテュードですよね。
オキタ:そうですね。カウンターを目的にしているわけではないけど、やっぱり上澄みだけのものが目に見えるから、自然とそうなっていく。やっぱり自分の考えや意思がないとだめだと思うんです。
──オキタさんがよくおっしゃっていることですね。「自分がないとだめだ」と。
オキタ:ルーツや文脈も自我を司るもののひとつだし、僕はヘヴィー・ミュージックが好きだけど、それは「ドロップチューニングが好き」とか「ブレイクダウンが好き」とかそういうことではなく、音楽そのものが好きなんです。そういうところをベーシックにして、ちゃんと音楽を作っていきたい。かつ周りにもそう思わせるものにしたい。たまに言われるんですよ、「お前メタラーじゃないじゃん」とか「メタルバンドじゃないじゃん」とか。そういうことじゃないんです。
ヤマダ:そうだねえ(笑)。
──『IUTORA』も「メタルっぽい音が好きだから取り入れる」「取り入れたらいい感じになりそうだから」という制作ではないですよね。もともとオキタさんがルーツとして持っていたヘヴィー・ミュージックがこのタイミングでバンドの表現に投影されたのは、2020年のオキタさんが抱えていたマインドと最も呼応したのが、ヘヴィー・ミュージックであるからではないかと。
オキタ:ああ、それもそうかもしれない。音に言葉が乗った時に肉体性や躍動感が生まれることが、音楽においていちばんいいと思っているので。あと、だらーんと寝っ転がってメタルコアなんて演奏できないじゃないですか。そういう肉体面が音楽にもたらす影響は大きいと思うんです。もちろん暴力的なフォークも存在するけど、僕が思っていることを音楽にするならば、自分のルーツであるヘヴィーミュージックだったということですね。
──音に表れているメンタリティはリリックにも出ているのではないでしょうか。もともとオキタさんは素直に思考を歌詞に起こしていましたが、今作は特に外に訴えかける要素が強いと感じました。
オキタ:その意識はありましたね。なぜそうなったかと訊かれるとムズいんですけど……。やっぱり昔から「人と人はわかりあえない」「わかってほしいとは思わない」と思いつつ、「どこかで同じように思っている人がいるはずだ」と思っている節があるんです。ただ同じように思っている人に向かって投げかけるというよりは、自分以外にも同じような考え方をする人がほかにもいて、世の中に「こういうことあるっしょ」「いや、これはこうでしょ」って投げかけてる感じですね。だから2曲目のタイトルが「We are」なんです。
──その問い掛けの議題になったのが、今の時代に対する「怒り」だったと。étéの音楽の原動力は怒りだと思っていましたが、『IUTORA』はその感情がより矢面に立っている印象があります。
オキタ:僕は、ムカついたら絶対にその瞬間にキレたほうがいいと思うんです(笑)。
ヤマダ:(笑)。今回の4曲はすげえ怒ってますよね。昨今怒らざるを得ない問題がたくさんあったから、それが反映してるのかな。
オキタ:怒りを示さないと、ナメられたりするじゃないですか。ナメられないほうが絶対いいんで(笑)。今の時代の「ナメられる」って、すごく大きな規模で起きていると思うんですよね。だからいろんな国、地域、立場の人たちが声を上げているんだと思う。だから意思表示は大事だと思うんだけど──というマインドが、外に向いているように聴こえるのかもしれないです。
──怒りも大事な感情のひとつですものね。
オキタ:本当にそうですよね。アンガー・マネジメントとかよく言われてますけど、僕としては「え?」って感じ(笑)。もちろんうまくコントロールすることが自分のためになるのはわかるし、怒ったら感情任せに手あたり次第めちゃくちゃにしていいわけでもないし。自分に非がある場合もあるかもしれないけど、そうじゃない場合もある。「怒り」の原因には根本的な問題が詰まっていると思うんです。
──étéは制作スピードも速い印象があるので、バンドとして2年弱ぶりのリリースが4曲に厳選されているのも、今バンドが標榜したい思想がこの4曲だという意志表示に感じられました。
オキタ:5曲以上になると、僕の性格上もっとほかのこともしたくなっちゃいますしね(笑)。でもこの時代に発信するならば、「今の自分」を純度の高い状態で切り取りたいと思ったし、そのための適切な4曲でありEPになりました。
──それが実現したのはリズム隊のおふたりの頑張りもだいぶ大きいですよね。
オキタ:もちろん。今までふたりが慣れ親しんでいないあんなデモを投げて、デモをなぞるのではなく、「自分はどう表現しようか?」と突き詰めてくれる。だから安心して吹っ掛けられます(笑)。
小室:オキタの作るデモの音楽偏差値も上がって、目立たないところにもいろんな音が入っているし、ギミックが効いているんです。僕らが聞き取れてない音もあると思う(笑)。
オキタ:生楽器を使うけど、ここのセクションだけはスネアを打ち込みにしてみるとか、今作ではいろんな意味でフレキシブルな作り方をしたしね。今音源を出すならば、中途半端なものではなく、1曲1曲の強度が極限まで高いものにしたかった。それが実現できたと思っていますね。