Michael Mayer 『Brainwave Technology』
ドイツの老舗テクノ・レーベル〈コンパクト〉を主宰するミヒャエル・マイヤー、ひさびさのEP、不吉な空気が漂うテクノ。伝えたいのは、人間と機械が一体化した社会の到来を盲目的に受け入れることへのアンチテーゼのようだ。M1「Brainwave Technology」とM3「Alpha」では、それを避けられない未来だと言い切り、トランスヒューマニズムを盲信するYoutuberたちの言葉が使われている。M1ではスクリュードされたのちに、M3ではビーという電子音で、途切れてしまうのだが、まさに彼のスタンスが表れている。またM3は彼の参加楽曲「Dogma1」を彷彿とさせる。しかしユーフォリックなフレーズは全く聴こえてこない。いま向かっている未来で本当にいいのか、わたしたちはこの問題に向き合うことを放棄していいのか、彼は疑問を投げかけている。
Nadia Struiwigh 『Pax Aurora』
ロッテルダム出身のDJ、プロデューサーNadia Struiwighのサードアルバム。リリースは同じくロッテルダムの〈Nous'klaer Audio〉から。レーベルは、UpsammyやKondukuなど、IDMやリスニング・テクノの作品をリリースしている。ダンスフロアに向けた直近のEP『Oooso』とは打って変わって、本作はアンビエントとIDMを行き来するエクスペリメンタルなエレクトロニックミュージック。情緒豊かな展開は、Boards of CanadaやLoscilを思い出させる。彼女はハードウェアによる演奏を得意としており、このアルバムにもKORGやMoog、Skulptのシンセが使われている。スペーシーな雰囲気を作っているリバーブは愛用しているSTRYMONのBigSkyによるものか。また先月には彼女が尊敬するAphex TwinやAutechreも所属するLittleBigの一員となったそうで、いま注目度も上昇中のアーティストだ。
Kumi Takahara 『See-Through Remixes』
ヴァイオリニスト、Kumi Takaharaのデビュー作のリミックス・アルバム。元の『See-Through』はクラシックと現代音楽をルーツに、ストリングス、ファウンドサウンド、ピアノが織りなす暖かく繊細な作品。彼女の内面が透けて見えたような生命力も滲み出ている。本作にはアンビエント、ニューエイジを中心に、フォーク、ハウスのアーティストも参加。元のアルバムをモチーフに、よりノスタルジックでリラックスしたエレクトロニックミュージックとなっている。また双方を聴き比べることで楽曲の骨子が見通せる。たとえばM7「Chant」では、複数の旋律の同時進行、差し込むような高音、聖歌風の歌声という具合に。さらに、本アルバムは彼女のバスルームで録音されたパーソナルな音楽が、海を介して世界中のベッドルームにつながった軌跡を表しているそう。この時勢に「See(Sea)-Through」と題した作品で、それを何重にもやってみせる柔軟な感性に脱帽だ。