Miley Cyrus 「Something Beautiful」
2020年リリースの『Plastic Hearts』ではビリー・アイドルやジョーン・ジェットをフィーチャーし、ロックの意匠をまとっていたサイラスが、再びロック・モードの作品を作ることは決して不思議ではない。とはいえ、来たる新作に先駆けて公開されたこのタイトル・トラックほど先鋭的な方向へと一気に突き進むとは、流石に誰も予想していなかっただろう。曲の始まりはしっとりとジャジーだが、コーラスに突入する瞬間に突如としてバンド・アンサンブルが爆発。それまでの静寂を容赦なく引き裂く劇的な展開は圧倒的なカタルシスだ。共同プロデューサーにショーン・エヴェレットやフィクシジェンのジョナサン・ラド、ギターにウォー・オン・ドラッグスのアダム・グランデュシエル、キーボードにニック・ハキム、ベースにピノ・パラディーノ等々、脇を固める音楽家たちはインディ/ジャズ・オールスターズ的な超豪華布陣。彼女の本気度が窺える。来たるアルバムはなんとピンク・フロイド『The Wall』に影響を受けているというが、果たしてこの世界観がどこまで押し広げられているのだろうか。
Lambrini Girls『Who Let the Dogs Out』
ディヴォースやハートウォームスを筆頭に、イギリスでは今年も次々と優れた新人バンドがデビュー作をリリース。その中でも上四半期のベストに挙げたいのが、このブライトン発のクィア・デュオによるファーストだ。速く激しくうるさいバンド・サウンドに乗せて怒りを叫ぶというスタイルは、オーセンティック過ぎるくらいオーセンティックなパンク。だがノイズの名手であるギラ・バンドのダニエル・フォックスをプロデューサーに迎えたのが正解だったのか、耳を突き刺すギターとベースの爆音には得も言われぬ快楽性が宿る。そして何より魅力的なのは、痛烈な歌詞にまぶされた絶妙なユーモア。タイトルからしてインパクト絶大の「Big Dig Energy」や「Cuntology 101」などはお下品で笑えて痛快。本当に訴えたいメッセージがあるときは生真面目に意見するよりも、ときには笑いを交えた方が聞く耳を持ってもらえることを彼女たちは知っているのだ。
Horsegirl 『Phonetics On and On』
ラップとポップ全盛の時代に育ったというのにソニック・ユースを崇拝し、キム・ゴードンをアイコンに掲げるシカゴ発の10代トリオ。当初はその趣味嗜好が物珍しく感じられたものだが、思えばポップ界きってのロック・ガール=オリヴィア・ロドリゴともほぼ同世代なので、むしろ彼女たちの感性こそがモダンなのだろう。この2作目でのバンドの狙いは明白だ。前作を特徴づけていたソニック・ユース譲りのラウドでノイジーなギターを撤廃し、クリーンでミニマルなサウンドへ。ライブ感重視の一発録りから、シンセやバイオリンも新たに導入した多重録音へ。これまでとは敢えて反対のことにチャレンジし、前進しようという姿勢が窺える。その結果、オルタナという安易なレッテル貼りを許さない、より自由で風通しの良いサウンドが生まれた。ちなみに彼女たちが本作の参照点として挙げているのはヴェルヴェット・アンダーグラウンド『Loaded』、ヤング・マーブル・ジャイアンツ、ファウストなど。確かにその全てがここからは聴こえる。