「俺にもできそう」って思ってもらいたい
──“静かな復活”は、童謡「手のひらを太陽に」を逆側から歌っているなと感じました。「手のひらを太陽に」は人間讃歌というか、生命の尊さを歌っていると思うんですが、それと近いことを“静かな復活”の「だからもう動いてよ / 僕の手と僕の頭と僕の足と僕の心 / 僕の目と僕の指と僕の耳と僕の鼓動 / 今すぐに」の歌詞から感じるんですよね。
ミズノ:確かにそうかもしれないですね。「手のひらを太陽に」は明るい方から攻めてるけど、“静かな復活”は負の感情から攻めてるというか。
──歌詞はテーマを決めて書くことが多いですか?
ミズノ:歌詞を書き出すときは特になにも意識しないですね。録った音に対して弾きながら考えることが多くて、歌詞から作ることはほぼないんですよ。結構どの曲も同じようなことしか歌ってないなと自分で思います。別にそれでいいんですけど。あと、自分の体験をテーマにすることもあるけど、そうわかるようには書きたくなくて。そういう意味で結構ぼかして書くようにしてますし、書いてるうちに別の意味付けも生まれたら、採用してそっちも強めていったりしますね。
──歌詞でバランス取るように気をつけていることはありますか?
ミズノ:曲作り自体、僕がハンドリングしてるので、どうしても僕個人のパーソナリティが出ると思うんですよね。なので、歌詞では意識的にそこを抜くようにしてます。抜いても伝わるというか。あと、特定のことを歌うのが嫌で。今日考えたことと明日考えたことって結構違うじゃないですか。自分のことを縛り付けたくないんですよね。歌詞で歌う自分の言葉に幅を持たせておきたいというのはありますね。

──「もう俺光れない」「もう俺は帰れない」(光のサイン)、「俺の手には大切なもの無くなった気がした」(ゲット)、「花瓶に今日水をやるための花は買えなかった」(種を蒔く人)など、歌詞において不可能や不在が多く描かれているように感じました。
ミズノ:そうなんですよ。「〜〜しない」とか「〜〜できない」って感覚は自分の中ですごくあるんですよね。求めてるものに対して自分自身が追いついてないというか。でも、その状態でいいよねとも思っていて。その満たされない感覚があるから次に進みたいとも思えるし。その状態を一旦受け入れて、前に進もうぜという感覚はすべてにおいてありますね。
──一旦受け入れて前を向くというのは、がんばって明るく振る舞っていた小学生のころの感覚と似ていますね。
ミズノ:たしかに。環境に適応しようとするタイプなのかもしれないです。
──自分ができないこと、満たされていないことに対してネガティヴにならないのはすごいです。
ミズノ:言葉にして頭で理解することでポジティヴに変換できてるのかもしれないですね。できないことを一回受け入れてしまったらスッと楽になる感覚ってあるじゃないですか。あんまり感傷的になりたくないというのもあります。
──そうなんですね。ご自身が聴く音楽には暗い要素があってほしいとのことですが、ネガティヴと暗さは違うということなんですかね。
ミズノ:そもそも僕の感覚として、ネガティヴなことを歌ってる時点で明るいと思ってるんですよ。逆にアイドルの明るい曲とかのほうが暗さを感じるときがあるんですよね。アップテンポな曲が流れててみんなが踊ってるときに、自分自身も踊りながら「うわ、いま無理して踊ってるな」と思うときとかあるんです(笑)。その点、暗い曲ってすでに暗さを受け入れてるから、むしろ明るく感じるんですよね。「うんうん、この感覚わかる」って落ち着くというか。それは、音にのめり込んで、「うわー、いい曲だな」って思うだけで、僕も一緒に落ち込む感覚ではないんですよね。曲調でも歌詞でもいいんですけど、できないことの感覚や悲しみの要素がちょっとでもないと、本当のことを言ってる感じがしなくてのめり込めないんです。

──いまの話を繋げると、『また会おう』はまさに本当のことというか、ごまかしがないように感じました。“ラブソング”の、「ありがとう」そして「分かんないよ」の連呼には胸を打たれました。
ミズノ:はじめ、「分かんないよ」じゃなくて「ごめんね」だったんですよ。でも嘘っぽいなと思って。「ごめんね」って言えないなと思って、「分かんないよ」の方が自分的にしっくりきたんで変えました。
──今作に対して感じたのが、“光のサイン”や“もう飽きました”、“静かな復活”のスケール感、特にギターの眩しさがGalaxie 500(アメリカのロック・バンド/1987-1991)に通じるなということで。技術的に難しいことをせずにスケール感で撃ち抜いてくるというか。そういったギターのフレーズで意識したことはありますか?
ミズノ:難しいことはしないというのはありますね。僕が音楽で表現したいのは「みんなも音楽できるぜ」っていうことなんですよ。「俺にもできそう」って思ってもらいたいんです。特に、僕にとってのいいギターロックって、できるかもやってみたいって思える曲なんですよね。