How To Disappear Completely 『The Quietus』
レディオヘッドではなくダグ・リッチモンドの書籍からその名を拝借したという、ポーランドを拠点とするライヴ集団によるニュー・アルバム。ヴォーカルで参加した女性がレコーディング直後に自殺、そんな彼女のために捧げた作品という本作では、意識が朦朧としそうなほどの反響音と発振音で埋め尽くされたダーク・アンビエントが続く。記憶障害の進行を音で再現したThe Caretakerのように、人が死に呑まれ、霊魂として浮遊し、消えていく過程を描くような7曲で、一面に漂うのは死の香りと生命の神秘。無音という無音は最後まで訪れず、常に声なき声で語りかけられているような気分だ。しかし、暗闇に安堵するのと同じように、飽和した音世界に包まれることで感じられる安らぎというものがある。また、ヘッドフォンで聴かれることを想定した特別なサウンド設計という試みも面白い。
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Beaks 「Dirty Girls」
セリーヌやアルマーニにも起用されているモデルのアンナ・フランチェスカは、昨年より音楽ソロプロジェクトを始動。EP発表後はシングル・リリースが続く中、こちらはジョイ・ディヴィジョンの影響下にあるクールでミニマルなポスト・パンク/ニューウェイヴなトラックに、リズミカルな節回しが癖になる一曲。近年でいえばドライ・クリーニングのフローレンス・ショウに近い、低音の効いたアンニュイなヴォーカルで、シャウトや声が震えるとパティ・スミスっぽくもあるなど魅力的な歌声の持ち主。抜群のルックスとダウナーな世界観のギャップもまた興味深く、ジャンルは違うが、同じくモデルから音楽活動をスタートしたエセル・ケインを思い出す節も。今年はデビューアルバムを発表予定ということで、期待大な新人です。
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ART-SCHOOL 『Requiem for Innocence』
ゼロ年のジャパニーズ・オルタナを引率したバンド、ART-SCHOOLが2002年にリリースしたファースト・アルバムがリイシュー、配信もスタートされたということで、 “新譜”として出会う人たちへ向けてピックアップしたい。海外ロックのエッセンスを日本語ロックへ昇華させる衝撃。怒り、焦燥、悲しみらを丸ごと乗せるような荒々しいディストーション・サウンド、命を削りながら歌っているような不安定なヴォーカルたちは、令和の今聴こうとも、ヒリヒリとした熱は冷めないまま音に宿る。今でもライヴでお馴染みの楽曲が集う、邦楽ロック・アルバムにおける不築の名作。本作の始まりを告げる「ねぇ今から、美しい物を見ないか?」という歌詞の美しさに、いまだに取り憑かれている。
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