BrhyM、yMusic『Deep Sea Vents』
LABEL : CANTALOUPE MUSIC
今後も含め、この連載で最も名前を頻繁に聴くであろう固有名詞の一つがyMusicだ。構成員のソロ活動も含めると、USのポップ・ミュージック界隈でインディー~メジャーを問わず、クラシック~現代音楽の要素を取り入れる際に数多く声がかかっている音楽家が彼らだろう。今やyMusicはそれだけ重要な存在となっているといえる。yMusic全員での参加としても、過去にベン・フォールズ、ポール・サイモン、ジョン・レジェンド等とコラボしており、どれも素晴らしい成果を挙げている。なかでも最もコラボしているのがSSWのブルース・ホーンズビーであり、彼との相性は抜群である。yMusicの面々が奏でる音色を、空間で最大限活かされるようにしかるべきスペースを与えて配置し、自身のヴォーカルと掛け合わせることによって絶大な効果をあげることに成功している。品がよく、キレがあり、それでいて前衛的でもあるチェンバー・ミュージックが完成しており、70歳近くのSSWの音楽が瑞々しく響き渡っている。
Timo Andres + Metropolis Ensemble 『The Blind Banister』
LABEL : Nonesuch
ティモ・アンドレスは、この連載記事で取り上げるようなクラシック~現代音楽周辺だと、yMusicやエイス・ブラックバード、〈ニュー・アムステルダム〉の設立者のひとりでもあるサラ・カークランド・シュナイダーとコラボしており、ポップ・ミュージック界隈だとスフィアン・スティーヴンスの作品でピアノを奏でている、ピアニスト兼作曲家だ。そんなクラシック~現代音楽の若手ホープでもあるティモ・アンドレスが今回、ジャンル越境的に活動を展開する老舗レーベル〈ノンサッチ〉から新作をリリース。聴きどころはやはり、室内オーケストラ、メトロポリス・アンサンブルとの表題曲「The Blind Banister」だろう。ベートーヴェンの協奏曲第2番からインスピレーションを受けて作曲されたこの曲は、メロディと、少しタイミングがずれたような伴奏が奇妙な共犯関係を企てるティモ・アンドレス自身のピアノに、オーケストレーションが様々なパターンのモジュールでレイヤリングされ、複雑でありながらも難解ではない、ダイナミックなサウンドを堪能できる。メロディや音色/テクスチャーの快楽が断片的でありつつ、その断片の煌めきと閃きが素晴らしい、見事な作曲だ。
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Ka Baird 『Bearings: Soundtracks for the Bardos』
LABEL : Rvng Intl. / PLANCA
カー・ベアードは、2000年代半ばにスパイアーズ・ザット・イン・ザ・サン・ライズとしてデビューし、カリンバやフルート、サックス、バンジョーをアコースティック・ギターやパーカッションと共に響かせ、アヴァンギャルドなフォーク・ミュージックのアクトとして存在感を放っていた。ソロ活動になってからはミニマル・ミュージックのフォームを大々的に取り入れ、バンド時代でも自身の持ち味であった、メレディス・モンクを思わせる、ある意味では現代音楽の要素を含んだヴォイス/ヴォーカルをフルートと組み合わせ、ストリングスやエレクトロニクスと絡めることでオリジナリティ溢れるサウンドを形成していった。そんなカー・ベアードの最新作は、ライヴ・パフォーマンスを作曲の土台の一部にしているためか、インプロヴィゼーション的な要素がサウンドに導入され、それにドローンも付け加えられた、彼女にとって新境地的な作品になっている。ホース・ローズのマックス・アイルバッハーがエレクトロニクス周りのサウンドを整備し、グレッグ・フォックスがドラムを叩くなど、参加音楽家たちも粒ぞろいだ。