今回の制作があったから次はまた違うものが作れると思う
──"Dawn for Lovers"は日置さんがDTMベースで作った段階と完成品で特に変わったところは？
日置：曲がはじまってから終わる瞬間までのストーリーというか、流れや展開の仕方ですかね。自分はループするものが好きなので、最初のヴァースとその次のヴァースもあんまり変えたくないし、バンドとしても"繰り返し"を大事にしようみたいなのがもともとあったんですよ。細かくどんどん展開していくのも嫌いではないんですけど、ただ自分のなかにはあんまりアイディアがなくて。そこが特に自分たちの弱かったり見えない点だったので、そこを荒木さんにお任せでお渡ししたら、すごく細かく曲が展開していった。ビートが広がっていったりする瞬間があったんですよ。そのアレンジで返ってきた時に、自分のなかにあった「ループを大事にしたい」っていうちっちゃいこだわりがもう完全になくなったし、自分たちの曲でこんなに色々なことできたんだなっていうのが最初に聴いた印象です。
──荒木さんはこの曲のどこをブラッシュアップしようと？
荒木：そうですね。でもリズムが、やっぱビートが好きなんで、そういうところからブラッシュアップできたらなと。でも大事なのは触らなくていいところは触らないとか、骨太なところはそのまま残すっていう。最小限の手数でいかにその曲の良さを引き出すかっていう、そういうとこだけ考えてました。おもしろいことをしよう、変わったことをしようというのはあんまり考えていませんでした。
──これお渡しする時に歌詞は付いていたんですか？
日置：歌詞は完成してたと思います。
──歌詞の説明はせずに？
日置：そういうことは伝えてないです。
荒木：アレンジしていれば勝手に歌詞が入ってくる感覚が大事なので。曲によるんですけど、歌詞は読み込まないし、あえて聴かないんですよ。歌詞も聴こうとして集中するリスナーもいるけど、基本的に歌詞は勝手に耳に入ってくるものなわけだから。あえて歌詞を聴きこまないっていうのは今回やってたので、たぶん日置さんが説明してくれようとしても聞かなかった（笑）。
──それは曲によるんですか？同じアーティストでも。
荒木：曲によりますね。バラード調だったらしっかり聴く時もあるけど、やっぱりループ・ベースでビート・ベースだったら、自然に入ってくる感じを大事にしたいので。歌詞を理解しすぎちゃってると、ちょっと邪魔になっちゃうときがあって。
──日置さんは荒木さんに今回の楽曲のアレンジに関して改めてききたいことはないですか？
日置：（笑）。なんだろうな？
荒木：結構元のギターの音を加工したりとか。
日置：はいはい、そうですね。あと、最後に少しヴォーカル・チョップが入ってて、それとかも全部素材だけお渡しして。
荒木：あれ難しかったです（笑）。
日置：（笑）。で、いろんな素材を歌って送らせてもらって。
荒木：違う曲も歌ってもらったよね。
日置：ですね、BTSの「Butter」とか。
荒木：切り刻んだんで大丈夫なんですけど（笑）。
日置：発音だけ抜いてもらって。
荒木：最初にいろいろ送ってもらったチョップ用の素材が曲に馴染みすぎちゃって、もうちょっとハネる感じのも欲しいなあと思って、僕がリクエストしたんですけど「Butter」がめちゃくちゃ良くて（笑）。
日置：結構練習して歌いました（笑）。
──（笑）。その結果をどう聴きましたか？
日置：曲が全部よくなったなと本当に思っていて。音楽やってるといろんな人に出会うなかでもともとあったこだわりがだんだん崩れていって、「こういうのもやっていいんだ」とか「これもおもしろいな」とか思う瞬間が最近になってすごく多いなと思うんです。もともと作ったものが自分のなかである程度気に入っていて、それに手を加えられるっていうのがいままでだったらなかったんですけど、今回こうやって荒木さんにやってもらったことで、こういうパターンもあるしもっといろんなことができるっていうことをメンバー全体で理解できた。今回の制作があったから次全然また違うものが作れるだろうなと思うし、曲自体もそうなんですけど、バンドとしての今後の制作に大きい影響が出たと思いますね。
──もう1曲の"Lights Out"もアルバムのなかで強い存在感があって。この曲に関してはバンドでセッションをした音源を聴いてアレンジされたってことなんですかね。なにをどう再構築しようと思われましたか？
荒木："Dawn for Lovers"の話でも言っていたことですね。基本的には気持ち良さを引き出すっていう作業で。ビートから入っていったと思います。
──インディー・ポップのアップデートという感じがしたんですが、日置さんはこのアレンジに関してはどういう部分がバンドのステップアップと思われますか。
日置：この曲は"Dawn for Lovers"に比べると、自分たち的にはもうちょっと全然出来るなとずっと思っていたんです。4人の段階でもアレンジを3回4回直して、その度にプリプロしてみたいな感じでやってたんですね。僕らの場合は鮮度みたいなのが結構大事だと思っているのでいつもはすぐ飽きてボツにしちゃうけど、この曲だけはメロディとかサビのカッコ良さはすごくあるなと思っていたからずっと（ストックとして）生き残っていたんです。それで荒木さんにお願いするとなった時に「この曲しかないな」と思ったんです。
荒木：ドラム・パターンを変えたんですよね。
日置：そうですね。結構しっかりめに変えてもらってますね。
荒木：そう、ちょっと骨太な、よりシンプルに聴こえるようにしたんですね。
日置：もともともうちょっとドラム・パターンが複雑で、すごく細かくビートに切られたんですけど、荒木さんに変えてもらったところとしてはもっとシンプルにしてもらって。
荒木：分かりやすいリズム。ただし聴きやすくすること自体が目的ではなくて。
日置：下の方はより骨太にドシッとした感じにしてもらった上で、上モノをもとよりもいろいろ広げてもらったので、サビで開ける感じとかは自分たちが作りたかったけどたどり着けなかったところだったなって思いますね。
──"Lights Out"はすごく人力のバンドっていう感じがしますよね。
荒木：むしろそうかもしれない。むしろ電子音楽的なドラムだったんで、もうちょっとThe xxのイントロみたいな分かりやすいものにして、そうすると大きくミックスできるんですよね、リズムを。それは狙いです。
──ここからアルバム全体の話を。荒木さんはアレンジされた曲以外も含めてなんですけど、アルバム通して聴かれましたか？
荒木：はい（笑）。
日置：ありがとうございます（笑）。
──今回のアルバムにどういう印象をもたれましたか。
荒木：えっと、「この曲もアレンジをやりたかったな」っていうのはありました。
日置：本当ですか？（笑）
荒木：良いアルバムだと思います。気持ち良いっていうのがやっぱりいちばんの良さだし、熱すぎないっていうのがかえって気持ち良いんだなって。あと、やっぱ声がいいなぁっていうのと、それに対して骨太な演奏感とか、ベースも終始効いているし。そういうバランス感がすごくいいと思います。
──日置さんのヴォーカルって感覚的じゃなくてちゃんと言葉も残ると思うので、すごい聴こえますよね、今回。
荒木：うん。通りますよね、声が。
日置：最初に出した作品から比べると、だいぶ自分の意識とかもそういうふうになってきたのかな。
