ギター・フレーズを聴いてほしいという気持ちが曲の長さに繋がっている
──ソング・ライターとしてはお互いどうですか? 歌詞の書き方は全く違うタイプなんだろうなとは思いますが……。
横山:マジで言葉の量が凄いよね! 忘れないの?(笑)
北:正直、忘れることもあります(笑)。僕がKOTORIの歌詞で衝撃的だったのは"6月"(ファースト・フル・アルバム『kike』収録)なんですよ。6月というタイトルなのに〈春を歌にして/君のことを思い出している〉という歌詞からはじまるのって、とても文学的ですよね。
横山:季節の曲だから、あんまりライヴではやらないんだけどね。北くんの言い回しや語彙は、俺が使わないものばかりだなと思いますね。今作の"だっせ"の歌詞を読んで、びっくりしたもん。
北:ライヴのMCで言わない分、曲にして作品にしてしまえばいいなと思って作ったので、他意はないですけどね。
横山:そういう風に内側に向けての歌詞が多いなかで"大団円"を聴いて、意外とこんなことも言うんだ! と思いました。めっちゃラヴ・ソングやん、と。
北:高校生の時に実体験を元に作った曲なので、個人的には青臭くて恥ずかしいところもありますけどね。いまの僕のなかで、歌詞もサウンドも一番綺麗に収められたラヴ・ソングは"知りたい"です。横山さんは10代の青さを詰め込んだラヴ・ソングってあります?
横山:俺の書くラヴ・ソングは、ほとんど想像で書いていたからなぁ。最近だと"こころ"だけど、これも友達の結婚に向けて作った曲なんだよね。もしも自分が結婚することになったらどういう気持ちになるかな? と思って作った曲だから、実際に自分が思っていることではあるけど、シチュエーションは違うというか。
北:ああ、なるほど。でも、その方が幅広く書けますもんね。
横山:俺もラヴ・ソング以外は全部実体験を元に作っていたから、どうしても身を削るというか、限界がきちゃうんだよね。自分を奮い立たせようとして、自分を悪く言っちゃうことが増えてきて……。
北:それ、めちゃくちゃ分かります。戒めばかり書いています。
横山:俺もそうだったんだよ。でも、くるりの岸田さんにプロデュースしてもらった"こころ"を作ってからはかなり変わったんだよね。その時に「もうちょっと適当に書いてもいいんじゃない」ってアドバイスをもらってからは、自分以外の視点で曲を書くことの自由さを感じたし、いまはその書き方に落ち着いているかな。逆にさっき共感したと言ってくれた『We Are The Future』は、コロナ禍ということもあって自分のなかの答えを見つけるための作品でもあったから、そこにシンパシーを感じてもらえたのかもね。
北:なるほど。コロナ禍に書いたということであれば、今作の"六月某日"や"どうしようもない"は丁度その頃に書きました。なので、かなり暗いんですよ。18、19歳の時に書いたんですけど。
横山:凄いな……。俺、19歳の時、お父さん、お母さんって歌ってたよ。
──KOTORIの"19歳"(ファースト・ミニ・アルバム『tokyo』収録)ですね。ルサンチマンとKOTORIの共通点で言えば、どちらも19歳に関わる曲があることですね。
北:今作の"十九"は、19歳最後に書きました。10代の総まとめ的に書いたんですけど、憧れのバンドの名前がそのまま入っているのが反則かな? と思いつつ、ありのままの思いを歌詞にしました。これは完全に決意表明ですね。
横山:KOTORIの"19歳"(2016)は、当時俺が捻くれていたということもあって、20歳っていう曲を作りたくなくて作ったんですよね。20歳になって考えるなんて当たり前だと思っていたので、いちばん不安定な10代最後という状況を曲にして安心したかったんです。
──そんな決意表明的な楽曲"十九"からはじまるアルバムが、20曲入りというのもまた気合いの入った話ですよね。
北:レコーディングは死にそうでした……。18曲を大体10日で録りました。
横山:歌込みで!? やば!!
──そんな決死の思いで作られた今作を聴いて、どう思いました?
横山:1曲の尺が4分いくと長いと思う人っていま多いと思うんです。俺もどっちかというとその傾向にあるんですけど、ルサンチマンの曲はイントロが長い曲もあるし、5分超えの曲もあるしで、攻めてるなと思いました。
北:僕も正直長いなとは思うんですけど、ライヴで曲の繋ぎを作っている時に「あ、これカッコいいな」と思うものが出来たら、それを入れちゃうんですよね。"十九"もイントロが4、50秒くらいあるんですけど、本来は4カウントで入り、という構成だったんです。なので、あえて長くしようとは思ってないんですけど、カッコよくしようとしたら長くなっていたというパターンが多いです。
横山:いちばんカッコいい理由だな。時代へのカウンター的にあえてやっているんだと思ってたわ。
北:曲は僕がほとんど作っているんですけど、メンバーに丸投げしているリード・ギターをいい感じに作ってきてくれるので、それを聴かせたいなと思っちゃうんですよね。インストも、そういう考え方が故に行き着いたものなので、ギターのメイン・フレーズを聴いてほしいという気持ちの強さが、曲の長さに繋がっているんだと思います。
横山:いまのKOTORIは、必要なものが必要な場所にあればいいという考え方になっているから、昔の曲よりは間奏も短めなんだよね。だから、懐かしいなと思った。俺たちが好きだった頃の日本のアンダーグラウンドなオルタナを継承してくれているような気持ちになりましたね。ゆれるとか好きだよね? "十九"聴いて思ったもん。
北:あー、やっぱりバレましたか……(笑)。でも、今作を作って自分たちがやりたいことがようやくできたという思いが強くあります。これまでサブスクに上がっている、10代の頃に作った曲だけを聴いて判断されることが多かったので、やっと「これがいまのルサンチマンだ」と言える作品が作れたなと思っています。
