聴いた人が喜んでくれるかな」という目的で書きはじめたら、"私"が死んじゃう
──アルバムの最後に収録されている"13月"という曲が気になりました。いい意味で、胸がざわつくようなエンディングだなと。
まーしー:前の曲までの流れからは想像できないくらい、強い言葉が出てくる曲だからね。
ひとみ:こういう曲調なので、はじめは今回のアルバムに入れることになるかどうかも分からなかったんですよ。だけど、"13月"という曲にしちゃえば入れられるんじゃないかと思って。
まーしー:ひとみが書いた歌詞を最初に見た時に「うわっ! これは……なんかいいな……!」と思った覚えがあります。
ひとみ:(笑)。懐かしさを感じるよね。
まーしー:懐かしさもあるし……いいっすよね。ちゃんと本心が出ているからこそ、心に刺さるものがある。編曲は僕がしたんですけど、だからこそサウンドも重くしたいという気持ちがありまして。
──たけおさんはこの曲をはじめて受け取った時、どう感じましたか?
たけお:激しい曲だなと思いました。これだけ激しいなら、こっちもやってやんぞ! という気持ちになりました。
まーしー:ははは。本当にそういう曲だよね。
ひとみ:今回のアルバムの曲は、すごく綺麗にまとまっているんですよ。昔からあたらよを知っている人が「丸くなったな」と思うような感じというか。だけど「丸くなったな」と思わせておいて、最後の最後で「やっぱりこいつらの考えてることは一緒だったんだ」「あたらよ、変わってなかったんだ」という気持ちに持っていけるような曲を、なにか1曲入れておきたかったんです。

──綺麗にまとまっているというのは、私も実際にそう感じました。ユニークであることを目指して尖るというよりも、誰が聴いても質の高い音楽を目指している作品に聴こえたし、切なさや悲しさが漂ってはいるものの、最終的に希望を見せてくれる曲ばかりだし。だけど"13月"だけは、歌詞のメッセージも含めてそうではない。希望がなくても生きていくしかないんだという、諦観と力強さが感じられます。
ひとみ:そうですね。希望は僕が作るんだ! という感じです。多分、自分のなかでいろいろと溜まっていたんでしょうね。………………うん、そうだと思います。
まーしー:そこで黙ったら怖いんだけど(笑)。
ひとみ:(笑)。もちろん“13月”以外の曲も大好きだけど、なにかのコンセプトに沿って曲を書くということをずっとしていたので、その反動で、好きにやりたかったんだと思います(笑)。
──最初に話してくれたように、今回のアルバムは、「私たちが卒業ソングを作るとこうなります」「だけど、あなたにはあなたならではの卒業の思い出があるのでしょう」と聴き手に委ねるような作品で。その上で"13月"をラストに置き、バンドの世界観にグッと手繰り寄せることで、「私の生き様は私のもの」「あなたの生き様はあなたのもの」と伝えているのが痛快だなと感じました。今回の制作はあたらよにとって、ポップミュージックへの理解を深める試みになったと思うけど、一方でリスナーとの共通項を安易に狙いにいかないというか、「人は誰しも孤独だ」「他人同士だから完璧に分かり合えることはない」という大前提がずっとある気がします。
ひとみ:そうですね。「他人だけど、なんとか分かり合おうとしてんじゃん」という曲もあれば、他人だと分かっていても温もりを求めてしまう心情を描いてた曲もあって……。言葉を選ばずに言うと、私は人のことをあんまり信用しないし、期待もしないし、興味も抱かないタイプなんですよ。そういう部分が曲に出ちゃってるのかな(笑)。
──出ていると思いますよ。そうでなければ、クリスマスソングを作る時に、キラキラした街に疎外感を覚えてしまう人を主人公にしようと思わないだろうし。
ひとみ:いや、ホントそうなんですよね。人のために曲を書こうとは思わないんですよ。「こういうことを書いたら聴いた人が喜んでくれるかな」という目的で書きはじめたら、"私"が死んじゃうし、自分が微塵も思っていないようなことは書けない。だから、あくまでも「私はクリスマスをこう描くけど、君はどう?」っていう感じなんですよね。共感するならそれでいいし、「私にとってのクリスマスはそうじゃないな」と思うならそれでいい。どちらにしろ、聴いた人はきっと自分が過去に経験したことを思い出したり、自分のなかに眠っていたものを呼び起こしたりすると思うんですよ。本当は、その時にみんなが思い描く情景を知りたい。私がそれを知れることはないんですけど。
──なるほど。
ひとみ:このアルバムの曲に限らずなんですけど、自分のなかで絶対的な作詞のルールがあって。Aメロで必ず情景を描くようにしているんですよ。この季節のこの時間帯で、こういう風が吹いているという情景を歌うことで、まず舞台を用意してあげるというか。そうすると、聴いた人もある程度頭のなかで想像するじゃないですか。こんな感じの情景なのかなって。だけど、そこから先の歌詞は抽象的にするのが自分にとってのこだわりで。同じ曲を聴きながら、同じ舞台をイメージしているのに、その先でなにを描くのかは人それぞれ違う。そういう状況に私はおもしろさを感じるので、歌詞で説明しすぎず、幅を持たせることは意識していますね。
