カズシくんはずっと原石のままなんです
──フリージアンとしてパワーアップしたことを発表し、その翌月には3曲入りのシングル「1st DEMO」をリリース。リード曲が“仰げば尊し“になったのは、MASASHIさんと隆之介さんのご意見だそうですね。
たなりょー:カズシくんと僕それぞれも、COSMOSというバンドも、インディーズで小さいハコで活動していくうちに、そこで活動する生き物になってしまっていたんですよね。でもMASASHIと隆ちゃんはそこに縛られていないので、話していくなかで僕らも「音楽ってもっと広いものじゃない?」という考え方になっていったんです。そういうなかで生まれたのが“仰げば尊し“なんですよね。
隆之介:ほんまはカップリングの“ゴールデンアイ“を表題にする予定で動いていたんです。でもMASASHIと僕でスタジオの喫煙所にいたとき「やっぱ1曲目に出すなら“仰げば尊し“ちゃう?」という話になって。その時点では、まだ途中までしかできてなかったんですけど。
MASASHI:“ゴールデンアイ“は前身のCOSMOSの延長みたいな、いなたい雰囲気がある曲で。もちろんいい曲やし大好きなんですけど、いまの4人でこの曲を表題にするのは違うんじゃないかという話をふたりでしたんですよね。
隆之介:俺らならもっとアニソンになれるようなJ-ROCKが作れるんじゃないかと思ったんです。後から加入したぶん、客観的にバンドを見ているという自負もあったし、そういう仕事ができたらなと思っていて。それで期待と不安もありつつ提案してみたんですよね。
マエダ:ふたりが喫煙所から帰ってきたとき、決意を固めたような表情をしてました(笑)。でも提案されて、最初俺は懐疑的で。というのも、自分がアニソンになれるようなメジャー感のある、レンジの広い音楽ができるとは思ってなかったんです。でもみんなが「できるって。大丈夫やって」と言ってくれたので、半信半疑ながら「できるって信じてくれるなら1回試しにやってみるわ」って。そしたら思いのほかできたんです(笑)。
一同:(笑)。
マエダ:みんなが「めっちゃいいやん」と言ってくれて、自分が思ってるより自分は不器用じゃないかもしらん!と思って(笑)。いま思い返してみると、新しい自分を目指すことがちょっと怖かったんかな。いままでの自分やったら絶対歌わんかったな、こういう歌作れへんかったやろなと思う曲をフリージアンでは前向きにばんばん試せるようになりました。だからライヴで“仰げば尊し”をやると、「あの時新しいことにチャレンジして良かったな。そっちに導いてくれるメンバーがいて良かったな」と思うことがよくあるんです。新しいことできるのは楽しいし、メンバーは「カズシこんなんできるんちゃう?」と言ってくれるのですごく助かってます。
隆之介:彼は自分の表現したいものがあるのに、それを残したうえでこっちの提案に乗っかれるんですよ。めっちゃ器用やし、すげえなと思います。
たなりょー:カズシくんはずっと原石のままなんですよね。だからそのポテンシャルを生かす、原石をしっかり磨いて輝かせてくれる誰かがいると力を発揮できるんです。カズシくんも関西人特有のシャイさを越えて、フロントマンとして覚悟した部分もあると思いますね。その結果ごつごつしてる部分もありつつ、輝けるヴォーカリストになっているんじゃないかなと思います。
──マエダさんの原石のムードは、歌詞に出ていますよね。恐らくご自身が幼少期や過去に見てきた風景を言葉に落とし込んでいると思うのですが、それが昔を懐かしむような描写ではなく、いま目の前にしているように感じられるくらい鮮やかというか。
マエダ:過去のことって、自分が忘れたらなくなっちゃうじゃないですか。それがもったいないし、寂しいなと思っていて。誰も覚えてないよりは覚えておいたほうがいいし、いつか人は死んでしまうから、せめて生きている間は覚えておきたいというか。僕、昔から物を捨てれへんタイプなんですよ。幼稚園の年長さんのとき友達が飴をくれて、それがうれしくて包み紙を捨てれへんかったり、夏休みに遊びに行ったおばあちゃん家から帰るとき「思い出を持って帰らなあかん」と思って全部の部屋に行って思いっきり空気を吸い込んだり……。歌詞もその名残りなんかな。
──手元に残しておきたいという欲求というか。
マエダ:すごく忘れっぽいんですよ。昔のことを大事にしていきたいのに、脳の容量的に全然それができひん自分がずっと拮抗しているというか。「忘れたくない」と「忘れちゃう」がずっとせめぎ合っていて、それが歌詞に出てると思います。過去は絶対戻ってこないので、前向きな内容じゃないと過去に申し訳ないなと思っていて。だからできる限りいつも「あのときああいうことがあったからこそ、この先にこれがあるんだよ。ありがとね」という気持ちで書いていますね。
──音楽や歌詞にすることで、過去がいまも鮮度を保ち続けているのかもしれません。
マエダ:それはあるかも。だから「悲しみの全てが涙ならば」とか、8年くらい前に失恋してすぐ書いた曲なのに、いまでも全然同じ気持ちで歌えるんです。ライヴで歌いながらその時の感覚がグワッと盛り上がってきて、泣いちゃうこともあって。だから過去を歌っているどの曲も、ずっと同じ気持ちで歌えてるんですよね。それは歌ってる人間としてはいいことなんやろうなと捉えてます。