㆟体発火 『השם המפורש』
2010年代の日本である種の最先端を攻め続けていた伝説的レーベル〈DARK JINJA〉でも知られるShine Of Ugly Jewels氏の新プロジェクト。ネオ・ウィッチ・ハウスか、それともポスト・ヴェイパーウェブとでも呼べばいいのか、偏執的なまでの美意識に裏打ちされたミステリアスさの背後にインターネット・ミーム的ユーモアも感じられ、亜光速に達した消費サイクルとは全く別の時間軸のなかじっくり腰を据えてリピートできる流石のクオリティです。 いわゆるweirdcore的なムーブメントに対する完璧な解答例としても咀嚼でき、何より参加陣のwetssid、1797071 (Ms.Machine)ら個々のGoth~ホラー解釈が極彩色で素晴らしいです。個人的ハイライトはΨυχή - T3LL M3 BY3 BY3 (2022 Dancehall Edit) の2022年感(=新たなレゲトン~ダンスホールの波が押し寄せたことで生じたdembowリズムの拡大解釈)。
PAS TASTA 『GOOD POP』
2020年代の到来をいち早く国内で実践した好例と言えば、24時間以内で制作された楽曲を集うネットレーベル〈FORM〉のコンピVol. 6に収録された「phritz, hirihiri, Amane Uyama & Kabanagu - all night」であることに異論は無いかと思われます。その4名にquoree、yuigotを加えユニットとして成立したPAS TASTAこそ、形骸化した“ハイパー”を一段階先へと進める動きの先陣を(無意識的に)切っているユニットと言って過言ではないはず。 すでに複数のシングルが大きな話題を呼んでいた中、待望のアルバム(EP?)がリリース。既存楽曲はもちろん、新たに書き下ろされた「finger frame (ft. 鈴木真海子)」、「blanc benzo(ft. Peterparker69)」「zip zapper」の3曲がどれも捻くれと純粋さのバランス感覚、音像デザインが素晴らしい出来栄え! タイトルの「GOOD POP」、よきポップセンスを更新することがスクラップ&ビルドの先にあるものなのかもしれないな、と思い、このままあらゆるポップスを塗り替えていってほしいなと思うばかりです。レコ発も期待大…。
Peterparker69 『deadpool』
AppleのCMソングへのサプライズ起用など、プロセスの順序を超越した現代的なスケール感の活躍も話題になったPeterparker69待望のEPが2月1日にリリース。上述したPAS TASTAの『GOOD POP』と合わせて、パンデミックの3年間で培われた土壌で花開いた完全に新しいモードへ達したポップスの一形態として日本国内で先を行く作品でしょう。 現場が閉ざされ、ベッドルームとインターネットが直結した暮らしを何年か過ごした私たちが一度は想起しただろう「何で国内 / 国外で分けてんの?」「ジャンルって何?」「音楽の気持ちよさって何処?」といった素朴な疑問が、遊びだけに留まらない実験を重ねた末、実践的な形で5曲の解答パターンに分けられ提示されたような雰囲気です。 Jeter、Y ohtrixpointneverそれぞれが、たまたまヒップホップの持つ自由度の高さと共鳴しただけにすぎないのであって、これはヒップホップの文脈で語られるよりは更にレンジの広い、あくまでもポピュラー音楽の最新形として咀嚼されるべきと個人的には受け止めています。古い/新しい、遅い/早い、現代/過去、シリアス/ジョーク、そういう二元論じゃなく、ベン図の輪の重なりだけを切り取ったような、全く新しい表現です。 遊びとノリだけを絶やさずスターダムに上がるという日本国内では極めて稀な、グローバルなスタンスでどこまでも飛び立って行く予感も。