フォーマットを自分たちで作り上げていくしかなかった
──“Skyscraper”には、現代社会におけるネットとの関わり合いについての警鐘とも捉えられるようなリリックがありますし、そういった社会性について触れるような歌詞というのは、どういった形で生まれていくのでしょうか?
KENNY:そこへの意識というか、社会性を加味した歌詞の在り方については、Def TechのMicroくんとの出会いが大きかったと思います。それまでは、例えば山下達郎さんの楽曲のような、美しさとアート性を兼ね揃えた綺麗な音楽を目指していたんです。でも、Microくんは真逆の考え方を持った人なんですよね。Black Lives Matterが活発化した時には、歌詞にそのまま入れていたし、その自然体な姿勢に物凄く食らったんです。そこから僕自身も、いまこの時代を生きているからこそ感じることができるありのままの想いを歌詞にしたいと思っているので、そういう側面が表面化しているのかもしれないです。アルバムの流れとしても、人間の善の部分をフィーチャーした歌詞が多かったので、ここでは毒づいてみたかったという感じです。でも、歌詞で毒づいてもトラックが軽快だったので、聴きやすいと思います。とはいえ、この「Skyscraper」については、社会性に言及したというよりは、「高級マンションに住んでるから偉いのか?」っていう、凄く私的な毒を吐いた楽曲なんですけどね。
PETE:これで数年後、茅ヶ崎から東京に戻ってきてタワーマンションに住んでたらおもしろいよね。
KENNY:そしたらもう燃やしてくれ(笑)。
──なにがあるか分かりませんからね(笑)。一方で“LOUDER”は、梅雨の雨を想起させるようなずっしりとした聴き応えのあるバラードですね。
KENNY:これは最初、月9ドラマの主題歌で流れるような楽曲を作りたいということで作った楽曲で、実はもっとレゲエ調だったんですよ。でもこの曲のメロディは、SPiCYSOLチームとKAZUMAがめちゃくちゃ推してくれたんだよね。
KAZUMA:去年みんなで合宿して曲作りをした時に過去のデモのなかから発見したんですけど、これはビビっときましたね。夜中にPETEとふたりで、これめっちゃいいじゃんね!と語り合っていました。
PETE:みんなが寝静まった夜に、「名曲だよね?なんで作らないんだろうね?」って話したね(笑)。
KAZUMA:僕には先見の明があったんだな。

──でもほんとにめちゃくちゃ良い曲ですよね。しかもアルバムの流れとしても、この“LOUDER”があるからこそ、次のサマーチューン “CHASE”の疾走感がより映えているようにも思います。この楽曲は、茅ヶ崎のローカル・ブルワリー「Barbaric WORKS」と、日本のピストバイクカルチャーを牽引してきた「BROTURES」とのコラボレーションから生まれた楽曲とのことですが、そうした音楽制作以外の活動からインスピレーションを受けて音楽を作るという過程は、やっぱり普段とは違いますか?
KENNY:そうですね。リリースすることももちろん大事なことではあるけれど、そこだけを目的としてしまうのも違うと思うんですよね。なので、こういったコラボレーションのように、僕ら自身も楽しんで、それが楽曲制作に繋がっていくというのは、とても良いフローだなと思いました。
AKUN:純粋に、夏っぽいことしたかったしね。曲の種も、例えばサーフィンをしている時とか、飲んでいる時にたまたまかかっていた曲が良かった時とか、そういった自分自身のライフスタイルに密接した環境のなかでインスピレーションを得ることが多いので、今回のようにクラフトビール屋さんとコラボしたというのも、僕らにとっては自然な流れではありましたし、大人の遊びをしている感覚ですね。
──“CHASE”は永澤和真さんが作曲にも関わっているとのことで。以前“かくれんぼ”でもタッグを組まれてましたよね。
AKUN:そうですね。あの曲とは雰囲気は全く違うんですけど、その時から彼とはまた一緒に仕事がしたいと思っていたんです。彼はものすごく知識があるから、完成への近道を知っている人なんですよね。「こうしたい」という曖昧なイメージを伝えた時に、普通なら何度かやり取りがあった上で理想の形に近づけていくと思うんですけど、彼は最短で理想に近づいてくれるので、こちらも楽しいんです。
──よい関係性ですね。今回のコラボもそうですけど、SPiCYSOLは音楽活動のフィールドや解釈を拡張させながら、新しいバンド・フォーマットを確立しつつあるように思います。
AKUN:やっぱりフェスや西海岸カルチャーが好きということもあって、僕らの音楽はライヴハウスで聴く音楽じゃなかったんですよね。なので、そういうフォーマットを自分たちで作り上げていくしかなかったし、その結果、自分たちの好きなことを詰め込んだ上でいまのような活動の仕方ができているというのは嬉しいことですね。
──すごくフィットしているなと思います。アルバムのお話に戻ると、SPiSYSOL初の試みとなるクリスマスソング“Holy Night”で作品を締めくくるのではなく、春の出会いと別れを歌った“Far Away”をラスト・ソングに持ってくるというのもまた、季節の巡りを感じさせるセットリストになっていますよね。
KENNY:そうですね。ここだけは、盤を意識したところです。春の曲を最後に持ってくることで、ループして聴きたくなるような仕掛けでもあります。
──サブスクで聴かれることを想定しつつも、CD作品としての良さもしっかり継承している作品に仕上がっているということですね。アルバム特典映像には、千葉の屛風ヶ浦で撮影された特別ムービーも収録されているということですし。
KAZUMA:真後ろが断崖絶壁だったので、めちゃくちゃ怖かったですけどね……。
KENNY:遺作になるかと思った瞬間もあったよな。
PETE:あったあった(笑)。
──緊張感も垣間見える映像になっているかもしれないですね(笑)。さらに11月からはツアーもはじまります。
AKUN:冬真っ只中にツアーを回ること自体がはじめてですし、ツアー・ファイナルにいたってはクリスマス当日なので楽しみです。しかも、今回のツアーで初披露する新曲が何曲もあるので、一体どうなるんだろう?というのが、いまの正直な気持ちですが。でも、ライヴアレンジも含めて皆さんにもしっかり楽しんでもらえるツアーにしたいと思っています。

編集:梶野有希
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LIVE INFORMATION
〈SPiCYSOL Tour 2022 "SEASONS"〉
11/12(土) 福岡スカラエスパシオ 17:00 / 18:00
11/22(火) 愛知 名古屋CLUB QUATTRO 18:00 / 19:00
12/09(金) 大阪バナナホール 18:00 / 19:00
12/17(土) 北海道 札幌ペニーレーン24 17:00 / 18:00
12/25(日) 神奈川 KT Zepp Yokohama 17:00 / 18:00
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PROFILE : SPiCYSOL
2021年10月にリリースしたメジャー・ファースト・アルバム「From the C」はiTunes R&B チャート1位を獲得。Spotify&Apple Musicでの人気プレイリストにも数多くの楽曲が選曲され、これまでのストリーミング総数は1億再生を超える。湘南茅ヶ崎から発信する彼らの楽曲は、ソウル・ファンク等のブラックミュージックを昇華させ、ボーカルKENNY のメロウな歌声により、唯一無二のコントラストを生みだしている。今の「SHONAN SOUND」を代表する4人組バンド。
■公式Twitter:https://twitter.com/spicysol_jp
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