Awich 『Queendom』
“44 Bars” で自ら明かしている通り、一度完成したアルバムを白紙に戻して作り直したという乾坤一擲の作。来し方を率直に語った表題曲から「女王」の矜持にヒリヒリする。たとえ背伸びであろうとも求めてやまない高みを口にし、それに見合う存在へと自らの成長を促す流儀(まさに “口に出して” である)にヒップホップ特有の美学がみなぎる。「女は女らしくとか うるせぇんだよ Shut the fuck up」(“どれにしようかな”)の意気軒昂、「病める民が求むこの言葉がセラピー」(“GILA GILA”)の威風堂々から仲間たちや娘への無償の愛まで、Awichの人となりも女王が統べる王国のルールも一聴で理解させてくれる、現時点での代表作となった。
Kitri『Bittter』
モナ&ヒナの連弾姉妹の新作は配信限定EP。タイトル通りほろ苦いタイプの曲を集めていて、昨年11月のシングル “ヒカレイノチ” を陽とするなら陰のイメージ。“real” や “細胞のダンス” などマイナー調の曲が好きなので喜ばしい企画だ。神谷洵平が編曲に関わった前半2曲と礒部智が参画した後半2曲で色合いが異なり、ジャズ・ロックっぽい “踊る踊る夜” やメロディがシャッフルする “悲しみの秒針” など、バックビートの強いブラック系のリズムを乗りこなすKitriのハモりとピアノにはワンにしてオンリーな味がある。モナのモノローグと二人の掛け合いをフィーチャーしてラテン・ビートで押す “左耳にメロディー” はとりわけフレッシュ。
森山直太朗 『素晴らしい世界』
これまでもすばらしいアルバムを作り続けてきた人だが、デビュー20周年の通算11枚めにして軽く驚くほど新鮮な印象を受ける。7分38秒と長尺の表題曲を筆頭に “カク云ウボクモ” “boku” “落日 (Album Ver.)” “それは白くて柔らかい” のストリングス使いとディープなアンビエンスはある種のアメリカーナを連想させる心地よさ。“papa”(アコースティック)や “されど偽りの日々”(エレクトリック)のドライな音響との対照も美しい。“さくら(二〇一九)” もびっくりするほどよくて、世武裕子、小田朋美、Akiyoshi Yasuda、Michael Kanekoらアレンジャー陣、ならびに森山自身の冒険心と篤実さに敬意を表したい。