人間とは、犠牲の上に成り立っている不完全なもの
──それでは、ここからは新曲の“Continue”について訊かせてください。この曲はどのように作りはじめた曲なんですか?
イズミカワ : いま「17」という配信アプリで自宅から毎日ライブを配信しているんですけど、そこでエンジニアのニラジ・カジャンチさんと知り合ったんですよ。ニラジさんに「今度アルバムを作りたいんですけど、一緒にやってくれませんか?」とお願いしたら「いいよ」と言ってくれて、そこから曲を作り始めました。ミニ・アルバムに収録される他の3曲もそうです。
──ドラムは野崎マスケさん、ベースは雲丹亀卓人さん、ギターは藤井謙二さん(The Birthday)とバンド・メンバーも錚々たる顔ぶれですね。4曲ともこのメンバーで録ったんですか?
イズミカワ : そうですね。だけど私って本当に行き当たりばったりで、4曲中1曲もできてない状況なのに、ニラジさんとミュージシャンのみなさんのスケジュールを先に押さえてしまったんです。そこからレコーディングに向けて曲を作りはじめていくなかで、藤井謙二さんがギターを弾いてくださることが急遽決まって。「フジケンさんのギターが入るか」と考えた時、その時点で4曲出来上がっていたんですけど、4曲目に対して「フジケンさんが弾いてくれるならこれじゃないな」と思ってしまったんです。それで作り直したのがこの“Continue”。出来たのが本当にギリギリで、レコーディングの日の朝までかかりましたね。
──ということは、「このメンバーだったらこういう曲を鳴らしたいなあ」というイメージで書いていった曲だと。プロデューサーっぽい考え方をされるんですね。
イズミカワ : たしかにそうですね。昨年春に「自分にもなにかできないだろうか」という想いで“Hey!”という曲を作ったんですけど、マスケさんとウニさんはその曲にも参加してくださっていて。一度一緒にやったメンバーだから「このメンバーで演奏するときっとこうなるだろうな」と想像しながら、打ち込みでデモを作っていきました。
──バンドの熱量が感じられるテイクになっていますが、レコーディングはどのように進めましたか?
イズミカワ : 一発録りで録りました。ニラジさんのハウス・スタジオにはグランドピアノがあって、バンドで録れる十分なスペースもあったので、「このスタジオで録るんだったら、もう一発録りしかない!」と。一発録りは久々だったんですけど、いや~、めっちゃ楽しかったです! やっぱりみなさん上手いので。もちろん緊張するんだけど……「うわー、ドラムがこう来たか!」「だからベースがこう来たんだろうな」「だったら私はこうしよう」みたいなことを楽しみながら。そういう生のグルーヴってやっぱりおもしろさがあるなあと思いました。
──8分の6拍子の曲だけど、イントロやアウトロ、間奏でイズミカワさんのピアノだけが2拍子的に動いていますよね。
イズミカワ : そうなんです、よくお気づきで! こういうトリッキーなやつが好きなんですよね(笑)。

──イズミカワさんらしいなあと思いつつ、バンドとせーので演奏すると他の人につられちゃいそうだから、弾くのが難しそうだなあとも思いました。歌詞のイメージはどういうところから膨らませていきましたか?
イズミカワ : ニラジさんと一緒に作る曲ということで、配信の世界を思い浮かべてみました。そしたらふと気づいたんです。グリム童話の「人魚姫」って配信の世界に通ずるものがあるなあと。
──そうなんですか。
イズミカワ : 人魚姫って、王子様に恋して、王子様に会いに行くために魔女から足をもらうんですけど、その代わりに声を失うじゃないですか。王子様に会いたいがために歩いていくけど、会った時には声が出なかった。自分の目的を達成するために、いろいろなものを脱ぎ捨ててきたけど、夢の場所に辿り着いた時には「あれ? なにか大事なものが足りない」というふうになっていた──という物語だと思うんです。同じように、人はなにかを達成する時に、他のなにかしらを犠牲にしている。いまこうしてみなさん働いていますけど、今日ここに来て仕事をするために、例えば趣味とか時間とか、なにかしらを犠牲にしていると思うんですね。そういうふうに、人間とは、犠牲の上に成り立っている不完全なもので。みんな日々いろいろなものを抱えて生きているけど、配信の世界では、そういうものから一旦離れてライバーの元に集まるんですよね。不完全なものたちが集まって、一緒に楽しいものを共有して、みんななにかを抱えながら、また現実に戻っていく。そういうものを「人魚姫」にかけながら表現したかったんです。
──イズミカワさんは「17」で毎日ライブを配信しているとのことでしたが、ライブ配信の世界はイズミカワさんの目にどのように映っていますか?
イズミカワ : 特殊な世界だなあと思います。私たちライバーは顔を見せているけど、リスナーがどんな人なのかは分からないので。リスナーのなかには、もしかしたら、今日ここに来るまでの間に超つらいことがあったかという人もいるしれない。でも、ここに集まる人たちはみんな、それぞれの現実を隠して笑顔でいるんですよね。
──それって美しくもあるけど……。
イズミカワ : そう、悲しくもあるんですよね。これが永遠じゃないと分かっているということなので。

──“Continue”は、来年2月にリリースされるミニ・アルバム『Continue』のリリースに先駆けて、12月8日よりストリーミングで先行配信されています。これはどういった経緯で?
イズミカワ : 「17」のプライズでSpotifyの音声広告の権利をもらったんですよ。それに合わせて、周りに結構無理を言って、先行配信できることになりました。
──イズミカワさんはこれまで楽曲配信を積極的には行ってきませんでしたよね。それは、ストリーミングに抵抗があったわけではなく?
イズミカワ : いや、全然ないですね! 意図的にやってこなかったわけじゃなくて、そういうチャンスがあんまりなかっただけなんです。むしろ、この機会にいままでの曲も全部配信してもらいたいなあと思っています。
──それは助かります。入手困難になっているCDもあるので。
イズミカワ : そうですよね。もちろん2月にリリースするミニ・アルバムも配信を予定しているので、楽しみにしていてください。
──ミニ・アルバムはもう完成しているんですか?
イズミカワ : いまミックス中なので、もうすぐ完成するところです。他の3曲も“Continue”と同じメンバーで一発録りしたので音がカッコいいですよ。それに、4曲全部曲調が違っていて。
──どんな曲に仕上がっているか、少しだけでもヒントをいただけないでしょうか?
イズミカワ : ざっくり言うと、“ボクとキミの道しるべ“はチャールストンみたいな曲で、“日常的存在証明“は激速ロック、“あなたの近くにいていいかな“はバラードです。
──チャールストンが気になりますが、それにしても本当に四者四様な予感がしますね。
イズミカワ : そうなんですよ。だから「こういうミニ・アルバムです」と一言では言いづらいんですけど、一発録りならではの、緊張感やドキドキワクワクが非常に詰まっていると思います。


編集:梶野有希
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PROFILE : イズミカワソラ
2歳から両親の影響で音楽を始め、ヤマハポプコン最年少出場等、音楽界では有名な子供時代を過ごす。 小・中・高と音楽漬けの毎日を過ごし、当然音楽大学に進むものかと思われたが、これまでの反動か「普通の大学に行きたい」 と、同志社大学・文化学科・教育学専攻に入学。 同志社大学卒業、日本火災海上保険株式会社(現日本興亜損害保険株式会社)に勤務。 普通に幸せな結婚を夢見ていた両親の期待もどこえやら ! 突然沸々と沸き上がった “再び音楽へと進む気持ち” を諦められず2年半後退社し、単身上京。音楽でのメジャデビューを目指す。 その才能は早くも実を結び、見事1998年、メジャーレーベル・パイオニアLDC(現ジェネオンエンタテインメント)よりデビュー。「さんまのスーパーからくりTV」「NHK・週刊こどもニュース」「アニメ・花さか天使テンテンくん」等の曲を担当。アニメ音楽を多く制作していることから海外での認知度、評価も高く、仮想世界の曲を手がけたことがCNNにも取り上げられる。 またバンド活動ではニューヨーク・シカゴ・ロサンゼルスでのライブを成功。 2年間のメジャー活動後は活動をインディーズへと移し、クリエーターとしても映像制作・WEB制作・自社ブランド服の制作等 を手掛ける等、音楽だけにとどまらず、クリエーターとしても活動し続けている。 CMへの歌唱起用も多く、「サンウエーブ・ぱたぱたくん」「リクルート・ケイコとマナブ」「CHINTAI」「パスコ・超 熟」等多数。 そんな中、元々小さい頃から犬が大好きでワンちゃんに囲まれて生活していたところ、たくさんの犬が殺処分になっている実状を知り、「自分に出来ることはないか」とボランティアを始めたことがきっかけとなり本格的に犬の勉強を始める。 この実状を1人でも多くの人に知らせたいと、音楽を通して “殺処分0” を目指すチャリティーCDなどを制作する活動や、トリマーの資格を取って保護犬のトリミングをするなどの活動もしている。
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