自分が理想とするものを持たずにその場で探しに行った感覚
──前作『YES』から今作『Joyful Style』へ、サウンドはどう変化しましたか?
大山：違いとして一番でかいのは、『YES』はサウンドを整理して、綺麗な棚を作ろうという感覚でやっていたのが、『Joyful Style』は整っていないけど居心地のいいガレージを作る感覚でやっていたところかな。ジャージでいてもいいし、スーツ着ていても絵になるみたいな。サウンドについて抜け感を作りたいっていう思いもあった。メンバーがいい意味で大人になって気を張ることが減ったし、軽い球も投げられるようになった。もちろん気張っているところは気張りつつ、整理をあまりしないでそのまま出したみたいな。
──そういうビジョンは、制作の最初からあったんですか?
大山：今回は、作品創りはどうしても個々の作業になっていったので、いままで以上に亮輔と貴秋のプレイをしっかり見ることができたんですね。いままではどんな個性を出してもらっても、「結局、俺の整理の仕方にはめ込んでいたんだな」と気づいた。今回は「ここにEQ入れなくてもいいんじゃないのかな」とか、わりとそのままの音を取り込んでいけましたね。
──どういう流れで曲作りは進んでいったんですか?
大山：前回までは、「こういう感じの曲を作ろう」っていう着想を元にネタを仕込んで、スタジオでやってみて、良いグルーヴが出てきたらそれを自宅で整理して、というやり方だったんです。今回は、スタジオに入れないから、最初からこっちでデータを作ってそれをメンバーに投げたんですよね。メンバーから返ってきたものを聴いてみると、これまではわかったつもりになっていた部分があったなと気づいたんです。「どうしてここでコーラスを入れてるんだろう」とか「ベースはなんでこう弾いているんだろう」とか、今回はそういう部分をきちんとわかることができましたね。
──酒井さんは『YES』から『Joyful Style』まで、サウンドの変化はありますか?
酒井：『YES』の時はハイスペックな機材を使って、最先端の音を出したかったんです。気合がグッと入っちゃっていたかもしれない。
──それは、『YES』がメジャー・ファースト・アルバムだったからでしょうか?
酒井 : 『YES』は“Funky Kitchen”がはじまりだったので「よっしゃー! ファンキーになったるで!」みたいなエンジンのかかり方が、そうなっちゃっていたのかもしれないですね(笑)。
──なるほど(笑)。今回はどうだったんでしょう。
酒井 : 今回はそんなにこだわりを持たずに、その場でハマりどころを探しにいったという感じでした。ハマりどころを探していくうちに用意していた楽器だとなんか違うなと思ったり、弦を新しく張り替えてみても「あれ? 半年ぐらい張っていた弦の方がよかったね」みたいなことがあったし、「ギターと歌がノッてきてイメージと違うけどまぁいいか!」みたいなこともあった。自分が理想とするものを持たずにその場で探しに行った感覚ですね。サウンドの変化ではそこがいちばん大きいです。
──サウンドの面に関しては、真行寺さんはどう変わったと思いますか?
真行寺 : 僕はサウンドをお任せしちゃうんですよね。今回の『Joyful Style』はレコーディングも立ち会ってないぐらいで(笑)。みんなが何を思って何をしているのかわからないけど、できたオケを聴いてそれに沿って歌うみたいな感じです。みんなのやりたいもので歌いたいっていう気持ちもあって。
──レコーディングで歌は一緒にやったりしないんですか?
真行寺 : 一緒に歌うことは全然ないですね。オケができたものから歌っていくっていう流れで。
──リズム隊がレコーディングしているスタジオにもいなかったと。
真行寺 : 今回は全くいなかったですね。『YES』のときは、ちょっといたんですけど。
酒井 : 正直、「ちょっとぐらい見ろよ」みたいな気持ちはたまにありますよ。「このグルーヴ違うな」って言われて、「じゃあ最初からいろよ!」みたいな (笑)。
一同 : (笑)。
──メジャーデビュー前のインタヴューで、真行寺さんは「いまは歌うのが楽しい」と言っていたのが印象的でした。いまもそれは変わらずでしょうか。
真行寺 :波はありますけど、歌が楽しいという気持ちは変わらないですね。あとは、『FREEDOM』のときぐらいから「僕はなるべく歌を修正せずそのままでいきたいんです」という相談をエンジニアの人にして、それを彼はずっと気に留めてくれているんです。だから修正をしない分、レコーディングでは何度も録りなおすことは多いんですけどね。
──なるほど。
真行寺 :『Joyful Style』を録るときも、挫けそうになったときに「真行寺の正真正銘のスタイルでやっていった方がいいよ」って彼に言われて、『FREEDOM』のときに言ったことをずっと覚えてくれていたんだと思って嬉しかったんです。そういう意味で、歌は気張っていないし、あんまりテクニカルなことを考えていない。今回は特に歌詞に内面的なものが出せたので、歌詞に沿って歌ってたら自分の歌になるのかなと思っていました。
──強固なエンジニアさんとの信頼関係ですね。
真行寺 : 僕自身、判断をディレクションとか周りにゆだねているところがあって。「いまの良かったね」って言われるとうれしいし、今のがいいんだっていう感覚を自分でも確かめつつ、エンジニアの方も僕のビジョンをわかってもらえているので、歌を教えてもらっているという感じがレコーディングをやりながらも常にありますね。
──初期の曲は手探りでファルセットを入れていた感じがあったんですけど、いまは丸々ファルセットの曲が入っていて、BRADIOの進化がすごいなと思っています。メロディや「ここはファルセットを入れる」みたいな判断は真行寺さんが考えているんですか?
真行寺 : ボーカル・アレンジは僕がだいたい考えています。それを実際に落とし込んでいくところに、エンジニアの方やメンバーの意見は重要ですね。僕はなにも言われなかったら、入れるだけ入れるタイプなので。できることを全部やって、そのあとで意見をもらったりしています。
