普段平然としてる人の方が実はいちばん残酷
──だからこそ、ロックンロールというスタイルにこだわるようになった、ということでしょうか。現在のメンバーに落ち着いてからは特に、THE COLLECTORSはいわゆるライヴ・バンドとしての側面が強く出ることを前提としたようなロック・サウンドに振り切った曲が増えています。リズムやアレンジで工夫を凝らしたり試したりすることから少し距離をとっているかのような。ある種の原点をディグしていくような姿勢なのか……。
加藤:それもね、もう出尽くした感っていうのがずっとあるからなんだよね。ロックンロールの歴史を見てもさ、パンクが出てきて、ニュー・ウェイヴが出てきて、レゲエを聴いたりスカを聴いたり、いろんなものがミックスされて、その時代その時代で変化はしてきたよね。ちょっとしたエッセンスを加えることによって、そのつど新しいと感じるようなものが生まれたし、俺もそういうことを試してきたけど、そういうスタイルをちょっと変えるくらいじゃ何も起こらないってことがわかってしまったの。表面の音楽性を変えるぐらいじゃね、本質的なところは何も変わらない。自分が60年代、70年代、80年代……って影響されて好きだったそのスタイルこそがもうロックンロールで出来上がってるんだから、だったらむしろその原点を追求していこうっていう気持ちになったんですよね。もちろん音色とかリズムを考えることも大事だし、そういうことも好きなんだけど、ウィングスが続いていたらどういう曲を作ったんだろうとか、そういう感覚が強いものを作らせてくれる感じがするの。でも、それが今の自分が一番聴きたかったロックだし、自分がやりたいロックはこれなんだってわかったんだよ。ロックンロールのいちばんいい形はこれなんだって。納得しちゃった感じっていうのかな、うん。別にそれは進化を止めたとか、そういうことじゃない。当時はこういう感じだったけど、今ならそれをどう解釈するだろう? みたいなことを自分で考えて実践していくような、深みみたいなものを追求していくのが自分のロックなのかな。だってさ、ザ・フーは1970年に“無法の世界”でシンセサイザーをループして革命的なことをやっていたわけだよ。でも、その方法論って、その後、多くのバンドやムーヴメントが踏襲しているじゃない? リズム・マシーンと生ドラムが融合するとか、1970年のザ・フーと発想が一緒だと思う。今だと、AIが曲を作るとか再現するとか、そういう発想かもしれないけど、まずそういう方法論こそがもう古いと思うんだよ。
──なるほど。それでいうと、“スティーヴン・キングは殺人鬼じゃない”という曲、そもそもスティーヴン・キングはロックンロールのメタファーなのかなと。ロックンロールはこういうものだ、という、一般的な幻想にも似た解釈を覆す意味を持っているのかもしれないと。スティーヴン・キングって『キャリー』とか『シャイニング』のイメージがありますけど、あのゴシックとも思えるホラー表現をただ“殺人鬼”と言い切るのは乱暴ですよね。
加藤:なるほどね。まあ、あの歌詞に関していうと、(所属しているレコード会社の)コロムビアの今の担当は30代だけど、そもそもスティーヴン・キング自体を知らなかったんだよ(笑)。そういう人にもわかってもらえるように歌詞の中にはそういう映画にもなった作品の名前も盛り込んだりして、ホラーかもしれないけど殺人鬼じゃないんだよということを伝えたかったの。恐ろしい小説や映画の脚本を書く人は確かに頭の中はそういうことでいっぱいなわけだよね。でも、だからって殺人鬼じゃない。普段平然としてる人の方が実はいちばん残酷だっていう。むしろ戦場で人の命を本当に粗末にしている軍人たちに向かって歌ってる。そいつが本当の殺人鬼だよって。
──そこですよ。そこがロックンロールと重ねているのかなと思えたんです。今、ポップスとかロックの存在意義っていうのがどんどん脆弱になっていますよね。THE COLLECTORSがそういう状況の中で、一定の抑止力になりうるか? というところに挑んでいるようにも感じます。
加藤:ありがとう。いやもう、精いっぱいなんで、それが多少でも聴いてくれる人が増えてくれれば、効果が出たことになるだろうし、効果が出るまで頑張るしかないとしか言えないんだよね。
──効果が出るなっていう実感を得られるときってどういうときですか。
加藤:40年近くずっとメジャーからCDが出てるっていうことがやっぱり一番なんだろうっていう自信じゃないかな。多分これからも出るんだろうしそれをやらせてくれるっていうこと自体が、一つ効果が出てることだと思う。
──では、今なお1年か2年おきに必ず出るオリジナル・アルバムをリリースする、これ自体はきつくないですか。
加藤:それは全然! 割と曲はすぐ作れるし、毎回俺は前作よりもいい作品ができたと思ってるし。特に今回は粒揃いだと思ってる。それに、26枚目のアルバムがこんなにクオリティの高いものが作れるバンドっていうのはもう多分いないんじゃないかな。もちろんプレッシャーにはなってるけど、最初新曲なんて1曲もないんだけど、ギターを持ち始めたらこんだけ曲ができちゃうんだよ。多分次のアルバムも……まだ何にも用意してないけど、ギターを持ったら今以上のアルバムが出来ちゃう気がするのよ。
──調子がいいと。
加藤:調子がいいっていうかもうできちゃうんだよ。進化してる進化してないってことじゃなくて、もう才能がありすぎる(笑)。もちろん今回だって歌詞はすごい苦労したけど、ちゃんと書けてるわけ。だから、前ほどは心配しなくなった。もっと出してもいいと思うくらい。
──最後に一つ質問です。トランプのハートのキングの札の絵柄は片手で短剣を持っているんですが、自分で自分の頭を刺しているようにも見えるという解釈もあります。自虐的な意味もあるのかなと思ったのですが。
加藤:ああ、なるほど確かにね、うん面白い。でもそれも偶然かな。最初に“スティーヴン・キング”というワードがあって、そこから広げていった時に、スティーヴン・キングのキングで韻を踏んで考えてみて、“ハートのキング”があった、という本当にそれだけ。でも、気がついたらいろいろと辻褄があっているんだね。

編集 : 石川幸穂
ロックンロールの本質的な意義を体現した26作目
ライヴ情報
THE COLLECTORS TOUR 2024〈ハートのキングは口髭がない〉
11月16日(土) [岡山県] 岡山 YEBISU YA PRO (OPEN 16:00/START 16:30)
11月17日(日) [福岡県] 小倉 FUSE (OPEN 16:00/START 16:30)
11月23日(土) [栃木県] HEAVEN'S ROCK 宇都宮 VJ-2 (OPEN 16:00/START 16:30)
12月1日(日) [東京都] 恵比寿The Garden Hall (OPEN 15:45/START 16:30)
12月7日(土) [大阪府] 梅田 CLUB QUATTRO (OPEN 15:45/START 16:30)
12月8日(日) [愛知県] 名古屋 CLUB QUATTRO (OPEN 15:45/START 16:30)
12月15日(日) [宮城県] 仙台 MACANA (OPEN 16:00/START 16:30)
12月21日(土) [沖縄県] 那覇 output (OPEN 16:00/START 16:30)
加藤ひさし書籍情報

『イギリスカブレ』
著者 : 加藤ひさし
発売日 : 2024年11月6日
定価 : 4,000円(税込)
サイズ : B5変形
予定ページ数 : 288ページ
発売 : 音楽と人
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PROFILE:THE COLLECTORS

1986年初頭、THE WHOやPINK FLOYDといったブリティッシュ・ビート・ロックやブリティッシュ・サイケ・ロックに影響を受けた 加藤ひさし(Vo.)と古市コータロー(Gt.)が中心となって結成。
■Official HP : https://thecollectors.jp/
■X : @info_collectors