「自分たちだけのもの」から「君がいて、自分がいる」へ
──“仮面”には〈夢はもうとっくに見飽きて/ただ目を悪くしただけ〉というフレーズがありますが、結成当初のリアクション ザ ブッタは、夢や希望を安易には歌わない姿勢を貫いていました。また、孤独感や周りに馴染めない感覚、「生きている実感を求めているけど、それには痛みを伴うんだ」ということも歌っていたように思います。
佐々木:はい。
──だけど佐々木さんの書く歌詞は徐々に変化して、自分が抱える孤独よりも、人との繋がりを歌うようになっていった。例えば“虹を呼ぶ”では〈思い出せ 道の途中で/支えてくれた人達を/崩れそうな時は頼っていい/弱さだって見せていい〉と歌っているし、"Seesaw"でも〈君の力も借りて行くよ/一人じゃ見えない景色ばかりだと/ 気づけたから〉〈自分が頑張った分だけ 君の力になれるから〉と支え合う関係について歌っている。“Voyager”の〈僕らで1人のボイジャー〉というフレーズも象徴的です。
佐々木:自分ひとりでやっていてもすぐ煮詰まるし、喜びも分かち合えないし。「みんなで幸せになりたい」という気持ちが、活動していくうちに、歳を取るとともに芽生えていったんですよね。「周りにいる人全員が幸せになれるようなバンドでありたい」と思うようになったなかで、「本当にいろいろな人の力を借りてきたな」と振り返ることもあって。僕らって「大丈夫かな」「これから進んでいけるだろうか」と思ったタイミングで、力を貸してくださった方々との出会いのおかげでここまでやってこられたんですよ。“仮面”を作っていた頃は事務所に入っていなかったので、CDは自主制作だったし、MVを一緒に作ってくれるスタッフのブッキングとかも全部自分たちでやっていたんですけど、周りのみなさんを信頼して助けてもらうということをそこで覚えた結果、いい作品ができて。「これからどうしよう」と思ったタイミングで事務所に入れてもらえて。そういう経過があったから「君がいて、自分がいる」という曲になっていったのかなと思っています。
大野:今挙げてもらった“虹を呼ぶ”、“Seesaw”、“Voyager”は、佐々木さんの生活環境が変わったタイミングの曲だよね?
佐々木:確かに、その3曲はちょうど実家出たタイミングだった。
木田:僕は、コロナ禍以降は特に変わったなと思っていて。さっきおっしゃっていた「生きている実感を得るには痛みを伴う」という部分は、いままでは自分たちだけのものだったと思うんですよ。だけどコロナ禍でファンのみなさんはライヴに来られなくなってしまったし、事務所の仲間も関係者の人もバンド仲間もみんな苦しんで。同じ孤独と痛みを共有しているなかで、なにを歌うか、なにを表現したいかとなった時に……いままで夢や希望はまやかしに近いものだと思っていたけど、もうそこに向かっていくしかないよね、向かっていきたいよね、というふうに変わっていったんじゃないかな。僕はそう予測しているんですけど。
佐々木:うん、確かにそうですね。“Seesaw”のサビは元々違うものだったんですけど、メンバーや事務所の仲間と「もっとよくなるんじゃないか」と話していたんですよ。そこで〈とべ!〉というサビに変えてみたら、曲がパッと明るくなって。いま世界は落ち込んでいるけども、この明るさを以ってすれば希望を持って進んでいけるんじゃないかと思ったのは覚えています。

──アルバム10曲目の“オンステージ”は、ライヴで〈もう一回〉とお客さんと声を合わせるのが定番になっていて、この3人が鳴らすサウンドのなかで発したくなる言葉だと、ベスト盤の流れで聴いて改めて思いました。楽しい出来事だけではなくつらい出来事もあったバンド人生のなかで、"続ける"という選択を都度してきたからこそいまがある。"続ける"と"やめる"の岐路に立たされるたび、「もう一回」と踏ん張れた理由はなんだと思いますか?
大野:このバンドの強みって“しぶとさ”なんですよ。佐々木さんも木田さんも「やめる」って言わないだろうし、多分俺も言わない。そこは妙な自信があるんですよね。
木田:宏二朗は、やめたいと思ったことはあったけど、口には出さなかったんだよね?
大野:うん。ソング・ライターでもアレンジャーでもない俺が、口に出すことではないだろうって。それに「やめてどうすんの?」という気持ちがあって。
木田:それは、やめたところで、ブッタじゃなければ音楽を続けられないって思ったってこと?
大野:多分、他のアーティストさんのお手伝いでドラムを叩くことはあっても、ここからまた新しいバンドを組むことはない気がするな。これが最後だと思う。俺はできるだけバンドの人でいたいという気持ちがあるから、それが続ける理由になっているんだと思います。例えばの話ですけど、今回メジャー・リリースのお話をいただかず、将来的に音楽一本で食べていくことが厳しくなったら、「ペースを落とそう」と提案をすると思う。各々他のお仕事をしながらでも、自分たちのペースで、音楽やバンドは続けていきたいんですよね。
木田:俺も宏二朗と同じで、「やめたい」と思ったことがいままで何回かあったんですよ。それは、自分自身やリアクション ザ ブッタというバンドの可能性を信じられなくなって「もうこの先はないんじゃないか」と思ってしまった時に、「続けたほうがいいのかな」と迷うという感じで。でもそのたびに、事務所のマネージャーが「絶対やめない方がいい」「私たちは信じている」と言ってくれたり、ちょうどそのタイミングで佐々木から新曲が届いたり、ツアー先ですごくいいライヴができたり。そういう実感のひとつひとつのおかげで「まだ頑張れるな」と踏み留まれた気がします。佐々木はそもそもやめたいと思ったことがないんだよね?
佐々木:そうね。「もしもバンドができなくなったら、どんな仕事しよう?」みたいな妄想はしたことありますけど。僕はずっとどこかで「いけるでしょ」と思っていたし、バンドに対して「なんか停滞しているな」と思ったこともありませんでした。バンドや音楽のあり方も自分たちの関係性も少しずつ変わっていっているけど、曲が生まれるたびに「いい曲ができたし、まだまだ生まれるし、続けたいな」と思えるんですよね。それが今日まで続いているということだと思います。
編集 : 石川幸穂
リアクション ザ ブッタの17年間が結晶となったベスト・アルバム
ライヴ情報
リアクション ザ ブッタ BEST ALBUM『REACTION THE BEST』
RELEASE ONE MAN TOUR 〈FROM NOW ON〉
2024年6月8日(土) 埼玉 西川口Live House Hearts
2024年6月14日(金) 北海道 札幌PLANT
2024年6月21日(金) 大阪 梅田Shangri-La
2024年6月28日(金) 愛知 名古屋ell.FITS ALL
2024年7月5日(金) 福岡 LIVE HOUSE OP’s
2024年7月15日(月・祝) 東京 下北沢Shangri-La
リアクション ザ ブッタのほかの作品はこちらから
PROFILE:リアクション ザ ブッタ

2007年結成の埼玉県発3ピース・バンド。10代の頃からバンド選手権で入賞を重ね、〈ROCK IN JAPAN FES〉、〈COUNTDOWN JAPAN〉、〈ap bank fes〉、〈ARABAKI ROCK FEST〉、〈SUMMER SONIC〉、〈Music Matters 2019 at Singapore〉など数々の大型フェスに出演を果たしている。2022年に入ってからは楽曲が続々とタイアップに抜擢され、4月にはTBS ドラマストリーム『村井の恋』で初のドラマ・タイアップに決定。同曲のリリース・ツアーを開催した。現在、TikTokを中心に“共感できる恋愛ソング”として「ドラマのあとで」が話題となり、今もなお広がりを続けている。
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