何クソ精神で、気づいたら「うるせえな」って書いていた(笑)
──いくつかのポイントに絞ってお話を聞かせてください。まずは1曲目の“ドラマのあとで - retake”と、2曲目の“恋を脱ぎ捨てて”について。新曲の“恋を脱ぎ捨てて”は、“ドラマのあとで”のアンサー・ソングとして制作したそうですね。“ドラマのあとで”がAさん目線だとしたら、“恋を脱ぎ捨てて”はその相手のBさん目線。2曲続けて聴くことで物語がより立体的になります。
佐々木:3~4曲デモを作ったんですよ。ふたりがまだ付き合っていた頃の曲も作ったし、別れを決意した瞬間の曲も作りました。結果、別れたあとの曲が“恋を脱ぎ捨てて”として形になったんですけど、一口でアンサー・ソングと言っても、どこを切り取るかでふたりの状況も変わってくるというのがやってみてはじめて分かった発見でした。楽しんで書けましたね。
大野:“ドラマのあとで - retake”と“恋を脱ぎ捨てて”のレコーディングのタイミングが一緒だったのも、 2曲で1セット感を出すうえで重要な要素だったと思っていて。“ドラマのあとで - retake”でのプレイが頭のなかに残っている状態で“恋を脱ぎ捨てて”を録ったので、そうじゃなかったらまた違う感じになっていたと思います。
佐々木:“ドラマのあとで”は、2017年リリースの音源ではピアノが入っていたんですよ。だけど今回はあえて抜いて、代わりにストリングスを入れました。“恋を脱ぎ捨てて”では逆にストリングスはなしにして、ピアノを入れて。音の対比をつけています。
木田:“ドラマのあとで”の主人公は女々しい男性なので、ストリングスのアレンジを考えるときに(共編曲者の)レフティさん(宮田‘レフティ’リョウ)に「フェミニンなフレーズを入れてほしい」と頼んだり、“恋を脱ぎ捨てて”ではピアノの凛とした音色で強い女性像を表現できそうだと考えたり。対になる曲ということで“恋を脱ぎ捨てて”の構成は“ドラマのあとで”に揃えているんですが、ギター・ソロで一瞬だけ“ドラマのあとで”のイントロのフレーズを入れていて。振り切ろうとしているのに元カレのことが頭をよぎっちゃう、みたいな感じを表現できればと思いました。

──キー設定やコード進行も絶妙ですよね。“ドラマのあとで”はメジャー・キーだけど佐々木さんの声が憂いを帯びているから、長調のメロディもただ明るいだけではなく、明るい自分であろうとしているように聞こえる。“恋を脱ぎ捨てて”はマイナー・キーだから全体的に暗めだけど、ラストのコードがF#メジャーだから「あっ、前を向いたんだな」と分かる。そういうところでも男女の違いが表現されているように感じました。
木田:“恋を脱ぎ捨てて”の最後のコードに関しては、「こうすれば、前を向いてより身軽になっている感じを表現できるな」と思ってそうしたので、汲み取ってもらえて嬉しいです。コード進行の話をすると、“ドラマのあとで”のイントロのコード進行は下がっているけど、“恋を脱ぎ捨てて”のイントロは上がっているんですよ。“ドラマのあとで”の主人公は後悔している男性だけど、“恋を脱ぎ捨てて”の主人公は振り切って前を向いている女性なので。
佐々木:僕はわりと引きずるタイプだけど、女性は前を向くのが早い印象があります。連絡を一切しないという意思表示なのか分からないけど、SNSをパッとブロックしちゃったり。“恋を脱ぎ捨てて”の女性はわりかし振り返ったりもしているんですけど、次に行く決心をするのは“ドラマのあとで”の男性よりもやっぱり早い。そういう差はつけたかったですね。
木田:フレーズや音色一つひとつに対して「この曲の主人公はこういう性格だから」「いまこういう心情だから」と理由づけできる要素がたくさんあったので、やっててすごく筆が進んだし、出来上がるのも早かった気がします。楽しかったです。
──続いてはアルバム後半に収録されている曲を参照しながら、これまでのバンドの歩みについて聞かせてください。過去のインタヴューでは、2015年リリースのアルバム『Fantastic Chaos』を機にバンドの方向性が定まったと話していましたが、同作からは“仮面”が収録されています。当時のことを改めて伺えますか?
佐々木:(2015年6月よりサポートを務め、2016年2月に正式加入した)宏二朗とは『Fantastic Chaos』の制作中に出会ったんですけど、制作に入る前に前任のドラムが辞めたんですよ。
木田:“君へ”で〈RO69 JACK 14/15〉で優勝して〈COUNTDOWN JAPAN14/15〉に出演できたものの、優勝特典で1年以内にアルバムを出さなきゃいけなかったのに、ふたりになっちゃって。
佐々木:それまではスタジオに入って曲を作っていたけど、ふたりで作っていかなきゃいけないとなった時に、木田がパソコンでの打ち込みを本格的にはじめたんです。
木田:まずはドラムのアレンジをできるようにしようということで、パソコン上で僕がアレンジを作り、レコーディングは先輩のドラマーに叩いてもらっていました。
佐々木:木田はいまではアレンジメントを司る存在ですけど、それが最初のきっかけでしたね。
──なるほど。
佐々木:あと、「僕たちはどこにアプローチしていくべきだろう?」ということをすごく話し合った時期でもありました。当時“ロキノン系”という言葉がありましたけど、そういうバンドを聴いている方々は何歳くらいで、どんな仕事をしていて、どんな時に音楽を聴くのか、めっちゃ調査して。
木田:〈ROCK IN JAPAN FESTIVAL〉や〈COUNTDOWN JAPAN〉にまた戻ってきたいという想いがあったので、「そういう人たちに届けるには」と考えていました。僕ら自身ロックが好きでBUMP OF CHICKENやRADWIMPSを聴いて育ってきたので、「これはマッチするな」とも思ったんです。
──その結果、『Fantastic Chaos』はロックに照準を定めたアルバムになった。
佐々木:音も歌詞も攻めたものにして、自分たちのロックな部分を演奏でしっかり見せていこうと方向を定めて作ったアルバムでしたね。だから“仮面”もタッピングから始まるし、テンポもけっこう速いし。
──2015年頃のフェスの現場では、高速四つ打ちの音楽が流行っていました。だけどブッタは“Fantastic Chaos”という曲で〈あ、そうだ流行の4つ打ちバンド/なんていかがでしょう。〉〈話しはもう終わりか?/あぁうるせえな〉と歌っている。「もう一度あのフェスに出たい」という気持ちがあるなら、勝ち馬に乗った方が手っ取り早かった気がしますが。
佐々木:「こうした方がいいんじゃないか」みたいなことを実際いろいろな人から言われました。だけど好き勝手言ってくる人は、変な話、責任をとってくれるわけではないし。そこに迎合するよりかは何クソ精神で、自分たちがロックだと思ったものをしっかり形にしたかったんです。そしたら“Fantastic Chaos”みたいなサウンドができて、音やアレンジに引っ張られて、気づいたら「うるせえな」って書いていた(笑)。俺のなかではロック=自由なので、自分たちの目指すロックをちゃんと体現できたなと。
木田:それに、そもそも勝ち馬だと思っていなかったので。佐々木って王道の歌モノが似合う声をしているから、4つ打ちの他のバンドを真似したところでマッチしないだろうなと思ってチョイスしませんでした。
