どんどん地球から離れていくイメージ

──“SUNNY”は「速い曲を作ろう」という着想からスタートした楽曲だそうですね。
右田:『Lighthouse』以降あんまり速い曲が作れていなかったところに、美音ちゃんが「こんな感じのどうですか」と送ってくれたのが“SUNNY”ですね。それが自分の考えていたイメージとバチッと合ったので、すぐに曲にしようと取り掛かりました。
太田:あとライヴでやってぐっとくるけどしんみりしすぎない、ちょうどいい曲があったらセットリストに入れやすいなと思って“まばたき”を作りました。まずこの2曲を去年の秋頃にレコーディングしましたね。
右田:新作を作るたびに毎回何かにトライしてるんですけど、今回は全部わかりやすくすることをテーマにしていました。俺はもともと音数が多いベーシストで、細部にこだわることがバンドの個性になると思っていたんです。でも今回は、今まで培った経験も踏まえて1990年代っぽい感じというか、音像がドラムとベースとギターでドン!って出ていればかっこいいやん!という考えのもと作ってたんですよね。イギリスのファズ使いがやりそうなイメージを自分なりに落とし込んでいって、そのうえで今作のコンセプトである「宇宙」の恐怖や息ができない閉塞感、星が散りばめられた美しい光景が音で落とし込めたらなと思っていました。
──ayutthayaには珍しく、今作にはしっかりとコンセプトがあったとのことですが、それにはどんな理由があるのでしょうか。
太田:今までの作品も曲順はみぎさん(右田)に決めてもらうことが多かったんですけど、今回は自分でおおもとのアレンジも考えたし、わたしで曲順を考えてみようかなと思って。だとしたらコンセプトがあったほうがいいなと思って、どんどん地球から離れていくイメージを作りました。“SUNNY”は地上から空を見ていて、“いつものこと”はふわふわちょっと浮いてるぐらいの感じで。“Get Out”でボーンと宇宙に飛んで、“まばたき”で大気圏を抜けて、“epoch”でもうすぐ月に着くようなイメージですね。“epoch”は最後に作ったので歌詞もコンセプトに寄せられたんですけど、それ以外は全然バラバラに作っていたので、コンセプトにハマったのは偶然と言えば偶然なんです。
──なぜ宇宙をテーマに?
太田:最近YouTubeでよく陰謀論系の動画を観てるからかも(笑)。アポロ11号は月に行っていない説とかがあるんですよね。
──「epoch」のコンセプトのイメージの結末は、いざ月に行ってみると地球の美しさに気づき、戻りたいと思ったと同時にもう戻れないことも察し、その瞬間に体がパッとはじけて宇宙と同化したというものだそうですね。SF映画黎明期のような世界観というか。
太田:1960年代の、宇宙のことを何も知らない状態の人間が初めて月へ行って、そこで初めて知る感動や恐怖をイメージしていました。あの時代の映像の月は白ではなくちょっと黄色っぽくて、その色味はずっと頭のなかにありましたね。

──あと、今回の5曲はそれぞれの楽曲の伝えたいことや込められている物語がわかりやすい印象を受けました。創作を歌っているというよりは、太田さんご自身の姿が投影されているように感じるというか。
太田:確かに今までは歌詞もいろんな解釈ができるように書いてたところはあったけど、“SUNNY”とかは変に隠しすぎないで書こうかなと思いましたね。今回はそういうことを自分から言ってみようかなと思って、その一環でセルフ・ライナーノーツを書いたりもして。
──心境の変化が?
太田:今までも聴いてくれた人たちに伝えたい気持ちとかは歌詞に書いていたんですけど、どういう内容の曲なのかを言っちゃうとそういう曲になっちゃうし、聴く人のイメージを固定したくない、好きなように楽しんでほしいから言わないようにしてたんです。でもわたしが聴き手だったら、どういう思いのもと書いたのかちょっと気になるな……と思って。だからいま絶賛「どんな曲なのか自分から発信してみたら曲の説得力増す説」をお試し中です(笑)。
右田:10年以上バンドをやってきて、このタイミングで人に何かを伝えようと思うようになったんだ(笑)。
太田:やってみようかなって(笑)。今までは敢えて自分から言うのも野暮だなと思ってたんですけど、言うのも責任を背負うということかなとも思って。
右田:でもこうやって美音ちゃんがメッセージ性を表明するのはいいことだと思いますね。音楽は言語が要らないから国境を越えると言うけれど、言語化した情報は伝わりやすいし、発信する側としても伝わることはうれしいし。美音ちゃんの気持ちから曲を気になってくれる人や、美音ちゃんの気持ちが伝わってうれしいと感じる人がいるなら、それはすごくいいことだと思います。
太田:でも“Get Out”はメッセージとかとは真逆で、音の響き重視で作ってますね。曲的にも日本語は合う感じではなかったし、あんまり日本語っぽく歌いたくないけど英語にするのはなんか違うなと思った結果、変な歌詞になりました。GRAPEVINEやスーパーカーにそういう曲が結構あって、そこからの影響も受けてますね。英語っぽく歌う日本語詞のちょっとダサいぐらいがちょうどいいんです。
──“Get Out”はロックなアプローチですよね。それこそ1980年代や1990年代を彷彿とさせる無骨さです。
右田:“Get Out”は音全体がどーんと鳴ることを優先していますね。ベースも極端にルートで弾いてます。
太田:Oasisをあんまり通っていない自分がOasisを聴きながら作った曲ですね。あんまり知らない状態の人間が考えるOasisっぽいのを作ってみたら面白いかもと思って。
右田:結果全然Oasisではないけどね(笑)。
太田:Oasisにハード・ロックやスタジアム・ロックが混じってる感じになりました(笑)。わたしのなかでOasisと言えばタンバリンなので、タンバリンがずっと入ってます。先人の音楽から影響を受けたうえでそれを全然違うものとして曲にするというのは、結構やりがちですね。似せようと思えば本当に似ちゃうので、ドラム・パターンだったりベースラインだったり、その曲のうちのひとつの要素だけを軸にして、全然違うことをやるっていう。