力強くどこかに向かってるけど、100%の笑顔で駆け出しているわけでもない

──ayutthaya流の解釈やひねりが、ayutthayaの色になっていくということですね。“Get Out”から“まばたき”への流れも心地よいです。
太田:実は“まばたき”はめちゃくちゃ昔からあるんです。イントロがまずできて、こういう広がってる感じの音いいなあと思ってたんですけど、展開をどうしようかずっと悩んでて。A→B→サビの繰り返しだとJ-POPすぎちゃうなと思ってたんですよね。だからサビを最後だけ入れるという方法を取ったんですけど、ギリギリまで結構迷ってました。ああいう曲は展開を作るのが難しいですよね。
──だからこそどんどんスケールを増していく音像が映えるのかもしれませんね。
右田:“まばたき”は全体のバランスでアレンジを練っていきましたね。ベースはほぼほぼ美音ちゃんのデモに入っていたもので、支えることに徹して。ギターはアコギを入れてキラキラさせたり、ギター2本とベースを重ねたり、曲そのものやメロディを綺麗に聴かせること、浮遊感を出すことを大事にしましたね。今回は特にどの曲も「本当にこの音でいいのか?」と吟味することが多くて、エンジニアの令くん(横山令)ともたくさん相談したりして。やっぱり自分のバンドの音源なので、やれるだけやりきりたいんですよね。
太田:わたしは音を聴いていいか悪いかは言えるんですけど、「こうするためにはどうしたらいいか」の知識がないので、そのあたりはみぎさんを頼りにしてますね。ayutthayaはだいたいの曲が自分の想像していた音から変わっていくことが多いんですけど、“まばたき”は自分の想像していたイメージとはそこまで差異がないままレコーディングできました。
右田:EPの最後の“epoch”は月に行くイメージと聞いていたので、“まばたき”との差別化でちょっと低音を強めにしていますね。やっぱり5曲しかないので、5曲それぞれで全然違うことをしたかったんです。宇宙のイメージだけど宇宙宇宙しすぎないようにバランスを取りました。
──“epoch”は太田さんのボーカルが音に埋もれているような作り方も珍しいのではないでしょうか。
太田:初めての歌い方をしました。膝を抱えて体育座りしてマイクを持ってウィスパー・ボイスで歌入れをして。歌で弱さみたいなものが出せたらなと思ったんですよね。
──“epoch”を聴きながら太田さんの「epoch」で表現したいイメージの世界を頭のなかに思い浮かべていたら、生きていると確かに良くも悪くも過去に戻れないなと思いました。そういう切なさを抱えながらも人間は時間に乗って進んでいくしかないんだなと。
太田:わたし自身、映画もハッピー・エンドやバッド・エンドみたいにはっきりしたものより、中途半端な終わり方が好きなんですよね。だから“epoch”も完全なるハッピー・エンドではない感じで終わらせたかったし、宇宙の無音だからこそ自分の音が全部聞こえて頭がおかしくなっちゃう感じとか、静かすぎてうるさい感じは表現できた気がします。
右田:“epoch”は音の面でも、爆発してるわけでもどこかにたどり着いたわけでもなく、先が見えないなかでもただただどこかに向かっているだけにしたかったんですよね。曲の後半からは少し哀愁が漂うようなコード進行にしています。確実に力強くどこかに向かってるけど、100%の笑顔で駆け出しているわけでもなく、でもどこかポジティヴに進んでいく空気がうまいこと出せたらいいなと思って作っていきました。ただライヴでやるとまた違う印象になるんだろうなと思ってますね。

──「epoch」の限定パッケージ盤がリリースされる〈ayutthaya 春いワンマンライブ2025〉はこの5曲がセットリストに入るとのことなので、かなりドラマチックなライヴになりそうです。
右田:この前セットリストができたんですけど、これをライヴで、さらにはワンマンでやるのは大変だなと思っているところですね……。
太田:大阪はPangea、東京はWWWってハコのキャラクターが違いすぎるし(笑)。頑張らなきゃいけませんね。もう本番がすぐそこまで迫っているので……(※取材日はゴールデンウィーク明け)。
──結成10周年記念の年に「epoch」という作品が完成したことも、さらにそういうライヴができるのも、バンドにとって有意義ではないかと思います。
太田:最近ayutthaya以外の音楽をやる回数が増えて、あらためてayutthayaは戻ってくる場所であり、やりたいことを出す場所だなと痛感しているんです。ayutthaya以外の活動で「自分もこういうことをやってみたいな」とも思うし、逆にやりたくないことも明確になっていくし、みんなめちゃくちゃ真剣に音楽をやっているのを目の当たりにして、自分めちゃくちゃゆるいな……と思って(苦笑)。気合い入れなきゃなと思う場面も増えました。そういう影響もいい方向でayutthayaに出していけたらいいなと思っていますね。伸びしろです(笑)。
右田:俺は「強い意志を持って音楽を続けていくぞ」と「何とかなるでしょ」という気持ちが半々あって。ただバンドは生身の人間同士のやり取りなので、その人間関係はどれだけ相手のことを許せるかが大事だと思っているんです。美音ちゃんとはそのフィーリングが合っている気がするんですよね。だから話し合いで自分の意見をため込まずに、「ムカつくけどまあいいか」を繰り返しながら10年続けられてるんだろうなと思います。美音ちゃんも俺もayutthayaでやりたいことが増えているし、その循環が続いているので……やっぱり伸びしろですね(笑)。
──10年バンドを続けて、メンバーふたりが「伸びしろ」と言えるの、最高ですね。
太田:伸ばそうとしてなかった部分もあるので(笑)。
右田:全然たくさんあるね(笑)。
太田:でも伸ばしすぎてもayutthayaらしくないので(笑)。いい塩梅で続けていきたいですね。

編集 : 石川幸穂
コンセプトは「宇宙」、前作フルアルバムから2年半ぶりのリリース
ライヴ情報
ayutthaya 春いワンマンライブ2025
2025年5月22日(木)東京・Shibuya WWW
OPEN 18:15 / START 19:00
ADV ¥3,800(+1drink)
TICKET
一般発売 https://eplus.jp/ayutthaya/
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PROFILE : ayutthaya
オルタナティヴ・ロック・バンド。
東京を拠点に、ライヴを中心に活動。
1990年代〜2000年代のロックやエモからの影響が顕著な太田美音とHR/HMやソウル好きの右田眞によって、どこか懐かしさと新鮮さの同居したバンド・サウンドを生み出す。
■Official Site : https://ayty7.tumblr.com/
■X : @ayty7
■Instagram : @ayutthayaband
■YouTube : @ayutthaya8471