Ghais Guevara 『Goyard Ibn Said』
ブラック・ソートからリル・ウージー・ヴァートまで、様々なタイプの実力派ラッパーを輩出してきたフィリー。ガイース・ゲヴァラはこれら質の異なる「上手さ」は自在に打ち出す、枝分かれしたかの地の個性を集約するような存在だ。自身でビートも手掛ける多才なアーティストで、本作も(数曲での共作はあるが)全曲セルフプロデュース。トラップ系の手数の多いドラムを使ったものが中心だが、ソウルフルなネタ使いやどこか硬い質感でフィリーらしいサウンドに仕上げている。また、トリップホップ的なものやドラムレスブーンバップも制作。ラップはビートによってタイトにもフリーキーにもなるが、別人化するというよりも自然なのが面白い。
Lunitik Novae 『BWROAR』
テキサスのラッパーのルニティック・ノヴァは、一聴して強烈なインパクトを残すダミ声の持ち主だ。本作はどの曲もトラップ系のビートでヒップホップ以外の匂いはしないのだが、その存在感のある声は時折デスボイスやレゲエのようにも聞こえてくる時があり、不思議な越境性を獲得している。また、囁き声やピッチ低速化などでラップに変化を付けており、声を使った表現を探求するような面白さもある。“Shoot It Hisself”や“D.E.A.”などの静かに漂うようなビートでは特にそれが際立っている。勇壮なホーンを使った“Slow Music Ain't Screwed”などでのストレートなワイルドさも良い。充実作だ。
OMB Peezy 『Drifting Away』
本作の基本はいわゆる「ペイン・ミュージック」と呼ばれる、ピアノやギターなどの感傷的な音を使ったトラップビートで歌うようなラップを聴かせるスタイル。しかし、高速で言葉を詰め込むフロウも得意とし、感情に引っ張られるかのように発声を巧みに変えていくOMB・ピージーのラップはそれだけに留まらない魅力を持っている。“Cold Game”やタイトル曲などで聴かせる、絞り出すような歌声は圧巻だ。また、鍵盤などのエモーショナルな響きを軸にしつつも、ほぼドラムレスのものやハウス風味があったりとサウンド面でも変化球が多い。人気のサブジャンルど真ん中のようで、そこから一歩踏み出す姿勢を見せた野心的な作品だ。