2024/12/27 18:00

「キスミー」の歌詞は、人間のままならなさが表現された、衒いのない叫び

──ここまではソングライター、トラックメーカーとしてのNolzyについて聞いてきたんですが、ボーカリストとしてのNolzyについても聞かせてください。特にファルセットの「Closet Lovers」や「Virtual Drugs (fxxkin’ search)」でのラップは歌唱表現として新たな領域を開拓したように思うんですが、このあたりのチャレンジはどうでしたか?

Nolzy:「Closet Lovers」は結構ハマったなと思います。ウィスパーを重ねてキラっとさせる感じをやりたいと思っていて。「Scar」の制作のときにそのボーカルスタイルが形になってきた。そこから新しい歌唱表現の幅ができたし、やってよかったなと思います。「Virtual Drugs (fxxkin’ search)」のラップに関しては、まだ課題は残っているなという感じです。自分の声があんまりドスが効いてない、優しい声だから、こういうものをやると、頑張って悪者ぶってるみたいな感じになってしまう。でも声にスタッターのようなエフェクトをかけて、楽器の一部のような扱いにして、これはこれで表現としてはアリだなという感じになりました。

──もうひとつの切り口、リリシストとしてのNolzyについても聞かせてください。つまり歌詞についてなんですが、例えば「Outsider」とか「自演奴」を書いていたときには、自分のアイデンティティや社会と自分の軋轢のようなものがテーマになっていたと思うんです。

Nolzy:そうですね。

──でも、R&Bのサウンドを書いてスイートなメロディーで歌うとなったら、そういうモチーフはそぐわなくなっていくのではないかと。今回のアルバムの制作でそういう感覚はありましたか?

Nolzy:メロウなものには甘い言葉を乗っけたくなるんですよね。「Throwback (slowjam)」みたいな曲を書いたら、どう考えてもラブソングの歌詞になる。今回のアルバムって、その時代の機材を使うみたいなことも含めて、トーン&マナーを意識して作ったんです。それは自分の意識が外に向いてるからなんですよね。作りたいじゃなくて、届けたいという。ファッションと一緒で、ちゃんとトーン&マナーを合わせることを意識するようになった。楽曲のジャンル感みたいなものが呼んでる言葉っていうのを意識しながら作っていったのはあると思います。

──歌詞では「キスミー」が抜群にいいなと思いました。これはラブソングで性愛をイメージさせる言葉なんだけれども、やっぱりある種の狂おしさと、ままならなさみたいなものがある。「自演奴」は社会と自分の間にあるままならなさだけど、「キスミー」はあなたと私の間にあるままならなさである。こういうスウィートな曲はラブソングでしょうっていう決まり事だけじゃなく、言ってしまえば、魂の叫びみたいなものがちゃんと言葉になっている感じはすごくしました。

Nolzy:ありがとうございます。「キスミー」は、あんまりこういう言葉は言いたくないですけど、降ってきたって感じだったんです。メロディーもほぼ一筆書きなんですよ。アコギを持ってコードを決めて、5分でできた。サビの「愛しくて 切なくて」というところも最後の「わがままで 欲深で 制御不可能で」みたいなところもその時点で歌ってたんです。メロディも歌詞も全部同時に出てきたので、その叫びには衒いがなくて。だからこそ、自分が感じていた人間のままならなさみたいなものが、そのまま言霊になって表現されたという気がしますね。

──わかりました。アルバムについてかなり深く掘り下げて聞けたと思うので、ここからはリスナーとしてのNolzyについて聞かせてください。今の自分が好きな曲、時代性を感じる曲、刺激を受けた曲はどのあたりでしたか?

Nolzy:最近はd4vdの『Petals to Thorns』をずっと聴いてますね。あとは、プリンスを最初から聴いたりしてました。あとはデヴィン・モリソンも今回のアルバムを作る上でめちゃめちゃ影響されたアーティストですね。あとは、YvesとかZion-Tとか韓国のアーティストにもハマってました。韓国のアーティストの方がY2Kの感じをクリエイティブ的にも音像的にもうまく今の時代のものとしてやっている感じがあって。この感じのシンガー・ソングライターは日本にそんなにいない感じがします。

──最後にパフォーマーとしてのNolzyについて聞かせてください。ライヴをするようになって音楽性が変わったという話もありましたが、このアルバムを引っさげてのライヴが2月2日にNolzy主催イベント〈Nolzy pre. FAV SPACE_〉として開催されます。これはどんなものになりそうでしょうか?

Nolzy:まず対バンのODD Foot Worksと紫 今さんが、シンプルにめっちゃ好きなので。イベントのタイトルも「Nolzy pre. FAV SPACE_」という“お気に入りの場所”っていう意味なので、好きなプレイリストを組んで、それをそのままライヴ会場に持っていったみたいなものになると思います。自分のライヴも今までで一番長尺になるんで、そういう中で自分の音楽を表現していく。バンドメンバーと一緒に作り上げてきたものの一つの集大成を見せられる日になるんじゃないかなって思ってますね。

編集 : 石川幸穂

「#それな」や「匿名奇謀」に加えて新曲6曲収録


ライヴ情報

〈Nolzy pre. FAV SPACE_〉
日程 : 2025年2月2日(日)
場所 : 渋谷 WWW
出演 : Nolzy / ODD Foot Works / 紫 今
時間 : 16:30/17:00

▶︎ チケット 先着先行受付中
2024年12月26日 (木) 12:00 〜 2025年1月6日 (月) 23:59
URL:https://eplus.jp/nolzy/

Nolzyのほかの作品はこちらから

PROFILE:Nolzy

サウンドプロダクション・トラックメイキング・ソングライティングを 自ら手掛けるシンガー、音楽クリエイター。
R&B、Neo Soul、Hip Hop を基調とした都会的なサウンドと、どこか懐かしい“平成 J-POP”の匂いを感じるキャッチーなメロディにシニカルな歌詞を組み合わせた、時代や世代を超える新感覚のミクスチャー・ポップを生み出す。
2023年12月リリースの『#それな』を皮切りに『匿名奇謀』、『キスミー』と、3作連続でドラマ・アニメのタイアップを担当。
2020年に完全自主制作でリリースされた1stアルバム『無口な人』はノンプロモーションながらSpotifyやApple Musicなどのストーリミングサービスで 多くのプレイリストに選出され、早耳の音楽ファンから好評を得た。
さらに、2024年のライブ活動始動から「SAKAE SP-RING」、「TOKYO CALLING」、 「MINAMI WHEEL」などのサーキットやイベントに多数出演するなど、ライブハウスシーンでも注目を集めている。

■HP:https://nolzy.jp/
■X:@Nolzy_Tweet
■Instagram:@nolzy_nostalgram
■YouTube:@Nolzy_Official

この記事の編集者
石川 幸穂

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[インタヴュー] Nolzy

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