全員が「レイヴを作るぞ」って気持ち

yukinoise : パーティーが終わってしまう寂しさや名残惜しさを噛み締めつつ、非日常から日常に帰着するにはうってつけのプレイだった。やっぱりレイヴって普段のパーティーとは違う非日常的な遊びだとしても、結局は日常の中でやり遂げた大きな思い出のひとつでもあるなと。近年のポスト・レイヴ的な流れでは、わたしたちが今回やってみたようにカジュアルな仕掛け方もできるくらいになってきた分、本来のレイヴカルチャーにもあるDIYな精神性を忘れちゃいけない。何をもってレイヴか、なんて定義づけするなんて野暮かもしれないけど…。
NordOst : なんでもいいけど、全員が「レイヴを作るぞ」って気持ちを持ってるかどうかはめちゃめちゃ大事。鳴ってる音楽もなんでもいいし何やってもいいんだけど、そういうシェアの精神があるかどうかはかなり重要だと思ってて。ちょっと共同体主義っぽい感じになっちゃうけど、レイヴをやるってことに対する真心というか、純粋に楽しみたいからやりたいみたいな気持ちがあるかどうかじゃないですかね。そうすると1から10まで説明しなくても、自然と調和の取れたいい空間ができると思う。
山本:参加する人の意識の持ちようというか、出演にしに行く場所でも客として見に行く場所でもない。それぞれ立場は違えど、まずレイヴって非日常じゃないですか、その幻想の空間みたいなのを成り立たせるために崩さないようみんなが意識を持って参加してる人たちが集まったらそこでレイヴが発生すると思うんです。
NordOst : たとえば「夏祭りやろうぜ」ってところにあえて喪服で来るってカマし方は無しではないかもしれないけど、それをわざわざ祭りの場でやるのか? みたいな。
山本:その場限りの共同幻想をみんなで成立させる営みがレイヴなんじゃないですか。
yukinoise : 一晩限りのユートピアを楽しむためにオルタナティブな社会を実践するのがレイヴかもしれないなって思った。ある種の社会的抵抗ってほどじゃないけど、自分たちなりの互助関係を実験的に試してみる場所でもあったというか。
NordOst : 動かし方的には町内会の盆踊りをやる感じに近かったからね(笑)。
山本:ルーツをヒッピーのコミューンに辿ることもできるし、トリップしに行く場所って側面もある程度あるものですからね。
NordOst : レトリックとかじゃなくてマジの祝祭的なものだったと思う。
TUDA : ユートピアを作るところにそんなに馴染めてるわけではないけど、ディストピア側のDIYだったから共感できたかも。
山本:そうしたスタンスで居てもいいってのは良いですよね。
TUDA : 主催のひとりである宇宙チンチラさんの精神的にはそっちの気もするから。
NordOst : いい意味で、全員が全員レイヴカルチャーに熱中してる人だけがいたわけじゃなかったからこそ成り立った部分もあると思う。情熱のぶつかりあいだけがいい結果を生むってことでもないし。
NordOst : うん、いろいろ考えさせられたかもしれない。
消費しにくるもんじゃない
yukinoise : 2020年前後から始まったポスト・レイヴ的なムードがようやくかたちになってきたのも最近のことだよね。自分の記憶だと2019年にWWW全フロアで開催された〈FREE RAVE〉ってパーティーが国内シーンを牽引したきっかけのひとつだと思ってる、直近でもみんなのきもちが同名のパーティーを彼らなりのスタイルで再構築してたみたいだし、レイヴ・カルチャーの幻想にただ想いを馳せるだけじゃなく、意外とやってみたら自分たちでもユートピアは作れるって体験が各自で提示できるようにもなったし。
山本:若い人たちがDIYなレイヴを更にやるようになったら、今の状況に対してより有効な文化として活性化するんじゃないかな。
NordOst : 1人で周り全抜きしてカマして優勝するとかじゃなく、みんなでキャンプファイヤーやろうよみたいなノリで作る方が楽しいよ! ってのが徐々に伝わってきてるような気もします。垣根のない感じというか。少なくともパーティーは勝負事、スポーツとかでは絶対にないわけだし。
yukinoise : 結局レイヴって誰かがやらないと始まらないもんね。もちろん遊びに行くってスタンスだけでも全然いいんだけど、実際にやってみることで辿り着ける境地もある。
NordOst : ちゃんと辿り着いてしっかり純粋に楽しんでくれてる人は大歓迎しますよ、ってスタンスがどこでも定着するといいよね。理想です。
yukinoise : PintarestのトレンドワードにRAVEが浮上するようになるほど今のムードとして根付いてきたみたいだけど、レイヴはいつの時代でもムーヴメントでしかなくて消費的なトレンドにはなってほしくないな。
山本:消費しにくるもんじゃないですよね。
yukinoise : 自分の観念を探る強烈な音楽体験でもあるというか。そこで得た多様な観念を自分なりに実践することの総体がレイヴなのかもしれない。
NordOst : お金の流れがないと何もできないのは当然とはいえ、お金を出す人と買いに来る側の人、みたいな経済的なポジション取りが皆無だったのも居心地の良さに繋がってたんじゃないですかね。クラブの中でも社会的なステータスやポジションとか感じさせられることあるじゃん、それがいやでクラブに行ってるのに。そういうしがらみとかから完全に解き放たれてたのも良さでした。
yukinoise : いくらクラブカルチャーの中に社会があったとしても、フロアから出たら何者でもないのに(笑)。レイヴはクラブというフロアから飛び出たパーティーでもあるんだから、何者じゃなくても誰しもが自分らしくいられる場所であってほしいね、一晩くらいさ。
NordOst : 遊びにきてる人も含めて何者かではあるんだから、もっと自信持って遊ぼうぜっていう。
山本:「みんな誰でもないし、誰であってもいいし、誰にでもなれるんだよ」って思えたらいいですね。
NordOst : こういう楽しいのを経験しちゃうと考え方変わってくるからこの先どうしようかなと思う…(笑)。なんでも楽しめる性分だから、まあなんでもいいんですけど。それでも流されない美学みたいなものを持ってる人がいてくれる場って、いい…みたいな。
TUDA : 自分しかないからこそどこにも逃げることできないよね。これはできるけどこれはできないってことは絶対に発生するから、そんな綺麗には終われないかなとも思った。そういった現実を突きつけられることがあってもみるべきことだからいいんだけど。
NordOst : それって向き合いづらいことじゃん、それを人に話したりして向き合えるみたいなきっかけにはなったんじゃないですかね?
TUDA : どこかに行ったり何かをやるってことは何かしら考えるきっかけにはなるよね。
yukinoise : その考えから飛び出て実践するのが大事。こうしてまたしばらくレイヴのことを考えて過ごし続けるんだろうな、わたしは…。
コチラのレイヴ、このポッドキャストのなかでも語られている模様