Lil Hyvää, zohryu 『翅』
Label : Siren for Charlotte
〈Siren for Charlotte〉からもう一作、zohryuとLil Hyvääによるコラボ・アルバム『翅』。翅が傷ついた天使とそれを見守る赤い眼の虫を通して、喪失から回復への過程、そして再生を描いたコンセプチュアルな作品になっています。温かみのある音空間に包み込まれながら進行していくこの作品は、フォークトロニカ / ドリルンベース / ポスト・ダブステップなど多様なジャンルを取り入れています。ですがコンセプチュアルな世界を彩るような幻想的なサウンドで全体がまとめられているのでその世界に深く潜り込むことができます。そして最後の"翅 -Postlude"では優しい音色を奏でるピアノが聴き手の傷を癒しながらアルバムが幕を閉じていきます。
おぼろ 『Kafu Meets Love Beats』
ジャズ / ソウル / ヒップホップなどのおぼろが敬愛する音楽を詰め込んだファースト・アルバム。"Intro (K.M.L.B.)"はマルディグラ・インディアンから着想を得た曲とのことで、土着的なリズムに広く目を向けており興味深い。7曲目"Roy's Anthem"はRoy Hargroveへの追悼曲で、彼がジャズにヒップホップやソウルを取り入れたように、ボーカロイドというフィールドにその精神を引き継いでいくような、音楽世界の垣根のなさを感じる楽曲です。そして4曲目の"Kafrobeat"はボカロ曲にアフロビートを取り入れた意欲作。アルバム全体を通して、おぼろが愛する音楽たちを高い純度で合成音声の世界に取り入れた、愛と深みを感じる作品です。
otomoni 『Footloose』
Label :MINZOKU TAPES
2018年に発表されたotomoniの『Footloose』がついに配信開始。otomoniは磁気氏という名前も使用してボカロ×ジュークの楽曲を多数制作しているプロデューサー。ミニマルで実験的な電子音楽をリリースするポーランドのレーベル〈outlines〉からも過去に作品を発表しており、そのビートやサウンドは他のボカロ・ジュークとは一線を画すものになっています。本作はボーカロイドやUTAUと和楽器、ガムランなど世界中の楽器の音を使用しており、ミニマルでポリリズムを多用したジューク / フットワーク中心の作品。実験的なビートの中に時折顔を見せる合成音声がボーカル・シンセサイザーとしての自由さを再確認させてくれます。