2024/08/28 17:00

川島道行(BOOM BOOM SATELLITES)の存在

一一BOOM BOOM SATELLITES、実際に終わった気がしないし、去年には25周年ツアーもありました。かなり大きい経験だったと思います。

中野:そうですね。ただ、もともと僕はBOOM BOOM SATELLITESの曲は封印してたところがあって。初めてのライヴでも小林くんが「カバー曲をやりたい」って提案してくれたんだけど、それはファンに対しても小林くんに対しても失礼ではないかって、いろいろ考えすぎてしまったところがあって。

一一ためらう気持ちはわかります。

中野:だから、まずはすごく消極的にリハーサルをやるところから始まったんです。ただ……あんまり簡単に使いたくない言葉だけど、マジック、奇跡、みたいなことが起きて。小林くんが歌うBOOM BOOM SATELLITESの楽曲、僕にとっては別の人が歌ってることを忘れるくらい自然だったんです。もちろん違う人間、違う声なんだけど、一緒に演奏することに違和感をまったく感じない。カバー曲をやってる意識さえ飛んでしまったところがあって。ライヴのたびに一曲ずつカバーを増やしていくうちに「一回これ、かつて川島くんのことが好きだったファンにドンと見せてもいいんじゃないか? すごく喜んでくれるものじゃないか? 」って思えるようになったんですね。

MORNING AFTER(BOOM BOOM SATELLITES)in “A DEDICATED CHAPTER TO STUDIO COAST AND YOU” at STUDIO COAST
MORNING AFTER(BOOM BOOM SATELLITES)in “A DEDICATED CHAPTER TO STUDIO COAST AND YOU” at STUDIO COAST

一一それってよくわからない感覚でもあります。極端に言うと、再婚したのに前の奥さんの話ばっかりしてるじゃないか、みたいなことでもあり。

中野:えーっと……前の奥さんのこと……っていうのとはちょっと違って。

一一例えが下世話でした(笑)。でも、なぜそんなに肯定的になれるのか、ちょっとうまく想像できなくて。

中野:うん、これ、僕もけっこう不思議体験で。言語化するのがすごく難しい。たとえば実際Jean-Ken Johnnyさん(MAN WITH THE MISSION)と一緒に「BACK ON MY FEET」をやったこともあるけど、それはもちろん違う人が隣にいることを強く意識することだったから。でも小林くんとやる時はそういう意識もない。何がそうさせているのかは僕も不可解で。なんていうか……スピリチュアル的な話ぐらいしかできないっていうか。「神様が巡り合わせてくれたんだろうな」くらいしか、実は言えることがないんですね。

一一小林くんはどんな感覚で挑んでます? 少なくとも「川島さんとは違う、俺は俺として歌う」みたいなエゴがあると成立しないですよね。

小林:あぁ。そういうのはないです。でも「なりきろう」とか「無になって歌おう」みたいな感覚もないんですよ。それすらない。川島さんから与えてもらった感動とかプレゼントみたいに受け取ったものが、その場でただポロッと出てきちゃう、くらいの感覚。その音楽の中で存在しているだけ、というか。

一一エゴを消す話から強引に繋げていくと、今回は小林くんの歌がアンドロイドっぽく聞こえる曲が多いです。感情を込めず、抑揚も特に持たせず、とにかく高速で言葉を羅列する歌い方。

小林:はい。言葉を届けることに特化したパフォーマンスってことは考えましたね。たとえばSynthesizer V(AI夢ノ結唱 POPYとのコラボレーション楽曲)に提供した「世界中に響く耳鳴りの導火線に火をつけて」とか、あえて高速で言葉を羅列する、ラップとも歌唱ともリーディングとも違う表現ですけど、あれは楽曲提供だから生まれたものでもあって。まずそういう音楽が立ち上がってくるのを目の当たりにした。それを自分が生身で表現するなら、ただ朗々と歌うんじゃなくて、普段しないような関節の曲げ方、筋肉の動かし方をしてでも乗りこなすんだっていう意思が働いて。だから、我を消す、人間性を消すってことじゃなくて、意思の力でちょっと別のパワーを宿すことができた感覚ですね。ものすごく速い動きをすることで人間じゃなく見える、みたいな。

Synthesizer V AI 夢ノ結唱 POPY/世界中に響く耳鳴りの導火線に火をつけて
Synthesizer V AI 夢ノ結唱 POPY/世界中に響く耳鳴りの導火線に火をつけて

一一あぁ、自我じゃなくて、これは技術の話なんですね。

中野:言葉が高速で繰り出されるところ、ほんとは実に慎重に扱っていて。人間が処理できる情報量の限界をいかに超えないようにするか。ちゃんと感性で受け止められる、何かが絵として浮かぶ瞬間があるかどうか、言葉の面とリズム符の作り方でかなり丁寧に詰めていて。だから、リスナーの体験を豊かにするための創意工夫はすごくなされている。そこにはすごく時間をかけたし、かつ、肉体的な新しいパンク・ミュージックでもあるなと思うんです。

小林:うん、僕はやっぱり作家の欲求とかエゴがあって、それはどうしても言葉とか歌唱に出てくるんですよ。でもそれを受け取った中野さんが「ここはキャッチできたけど、ここは難しく感じた」とか「風景が現れるより先にただ高速の音として過ぎ去ってしまう」とか、感じ方の違いを教えてくれるので。それで最適な形とかデザインを探しながら、一緒に作っていった感じですね。

中野:歌詞はあくまで小林くんが作るものだし、小林くんは言葉を持っている人で。そこを尊重したうえで、ビート・ミュージックに小林くんの声が乗った時、いちばん効率的に機能を果たすフォームを僕は提案していく。そういう関係性だと思いますね。たとえばテーマが難しすぎる場合は、よりポップ・ミュージックの中で咀嚼されやすいプロットに作り変えることを提案したり。そこを間違えると、リスナーが置いてきぼりになっていく可能性が高い音楽なので。

一一そうですよね、アンドロイドっぽい歌唱も、ただ記号のように流れていくだけなら感動には繋がらない。

中野:せめてコミュニケーション自体は平易であってほしいなって思うんです。結局ハートとハートで繋がってナンボだと思うところはありますから。そこを大事にしたいから、その調整役が僕というか。

この記事の編集者
石川 幸穂

空想に潜ませた、ほんのちょっとの“本当”──motoki tanakaが高知で描く、ノスタルジックな景色とは

空想に潜ませた、ほんのちょっとの“本当”──motoki tanakaが高知で描く、ノスタルジックな景色とは

“はみ出した人”を照らす、ART-SCHOOLのささやかな光──揺れながらも歩み続けた25年、その先に迎えた新たな境地

“はみ出した人”を照らす、ART-SCHOOLのささやかな光──揺れながらも歩み続けた25年、その先に迎えた新たな境地

【短期連載】FUNKIST、喜びと葛藤が刻まれた25年を振り返る Vol.3──FUNKISTとしての生き方を誇り、その先へ(2013〜2025年)

【短期連載】FUNKIST、喜びと葛藤が刻まれた25年を振り返る Vol.3──FUNKISTとしての生き方を誇り、その先へ(2013〜2025年)

「月まで届いたとき、体がはじけて宇宙と同化した」──ayutthayaがEP「epoch」で描く音の宇宙旅行

「月まで届いたとき、体がはじけて宇宙と同化した」──ayutthayaがEP「epoch」で描く音の宇宙旅行

【短期連載】FUNKIST、喜びと葛藤が刻まれた25年を振り返る Vol.2──メジャー時代の夢のあとに残されたもの(2008〜2012年)

【短期連載】FUNKIST、喜びと葛藤が刻まれた25年を振り返る Vol.2──メジャー時代の夢のあとに残されたもの(2008〜2012年)

対談連載『見汐麻衣の日めくりカレンダー』【第4回】ゲスト : 長谷川陽平(ミュージシャン)

対談連載『見汐麻衣の日めくりカレンダー』【第4回】ゲスト : 長谷川陽平(ミュージシャン)

【短期連載】FUNKIST、喜びと葛藤が刻まれた25年を振り返る Vol.1──始まりの7年、インディーズ時代(2000〜2007年)

【短期連載】FUNKIST、喜びと葛藤が刻まれた25年を振り返る Vol.1──始まりの7年、インディーズ時代(2000〜2007年)

幽体コミュニケーションズのファースト・アルバム『文明の欠伸』でめぐる、音と言葉の旅

幽体コミュニケーションズのファースト・アルバム『文明の欠伸』でめぐる、音と言葉の旅

〈カクバリズム〉の新星・シャッポ、ファースト・アルバム『a one & a two』ついに完成!

〈カクバリズム〉の新星・シャッポ、ファースト・アルバム『a one & a two』ついに完成!

光を求めて抗うために、僕たちには音楽がある──Keishi Tanaka × Ryu(Ryu Matsuyama)対談

光を求めて抗うために、僕たちには音楽がある──Keishi Tanaka × Ryu(Ryu Matsuyama)対談

“二刀流”を掲げるDortmund Moon Slidersが示す、自然な営みとしてのバンド活動──「好きなことをするのに、年齢制限はない」

“二刀流”を掲げるDortmund Moon Slidersが示す、自然な営みとしてのバンド活動──「好きなことをするのに、年齢制限はない」

突然現れた異才、野口文──ストラヴィンスキーとコルトレーンを線でつなぎ咀嚼する若き音楽家

突然現れた異才、野口文──ストラヴィンスキーとコルトレーンを線でつなぎ咀嚼する若き音楽家

対談連載『見汐麻衣の日めくりカレンダー』【第3回】ゲスト : 横山雄(画家、デザイナー)

対談連載『見汐麻衣の日めくりカレンダー』【第3回】ゲスト : 横山雄(画家、デザイナー)

ロードオブメジャーとしての過去を誇り、さらなる未来を照らす──けんいち9年ぶりのアルバム『いちご』リリース

ロードオブメジャーとしての過去を誇り、さらなる未来を照らす──けんいち9年ぶりのアルバム『いちご』リリース

Tyrkouazは激しく、ポップに、そして自由に突き進む──無垢な自分を取り戻すための「MEKAKUSHI-ONI」

Tyrkouazは激しく、ポップに、そして自由に突き進む──無垢な自分を取り戻すための「MEKAKUSHI-ONI」

NEK!が鳴らす、SNS世代における「リアル」とは──2nd EP「TR!CK TAK!NG」クロス・レヴュー

NEK!が鳴らす、SNS世代における「リアル」とは──2nd EP「TR!CK TAK!NG」クロス・レヴュー

Laura day romanceは、両極の“なかみち”を進む──サード・アルバム前編『合歓る - walls』リリース

Laura day romanceは、両極の“なかみち”を進む──サード・アルバム前編『合歓る - walls』リリース

Giraffe Johnが鳴らす“ニュー・エモーショナル・ミュージック”とは? ──予測不能なバンドのおもしろさを語る

Giraffe Johnが鳴らす“ニュー・エモーショナル・ミュージック”とは? ──予測不能なバンドのおもしろさを語る

対談連載『見汐麻衣の日めくりカレンダー』【第2回】ゲスト : 北山ゆう子(ドラマー)

対談連載『見汐麻衣の日めくりカレンダー』【第2回】ゲスト : 北山ゆう子(ドラマー)

より広く伝えるために辿り着いたR&Bのグルーヴ──Nolzyデビュー作は新感覚のミクスチャー・ポップ

より広く伝えるために辿り着いたR&Bのグルーヴ──Nolzyデビュー作は新感覚のミクスチャー・ポップ

純度100のその人の音を聴きたいから、まず自分がそれをやりたい──ミズノリョウト(GeGeGe)インタヴュー

純度100のその人の音を聴きたいから、まず自分がそれをやりたい──ミズノリョウト(GeGeGe)インタヴュー

FUNKIST、16年分の感謝と葛藤の結晶“47climax”をリリース──結成25周年に向けてのシングル第一弾

FUNKIST、16年分の感謝と葛藤の結晶“47climax”をリリース──結成25周年に向けてのシングル第一弾

ボーダーレスに混ざりあうHelsinki Lambda Club──現実と幻想の“エスケープ”の先にあるもの

ボーダーレスに混ざりあうHelsinki Lambda Club──現実と幻想の“エスケープ”の先にあるもの

これは、the dadadadysのブッ飛んだ“憂さ晴らし”──こんがらがったところに趣を見出す

これは、the dadadadysのブッ飛んだ“憂さ晴らし”──こんがらがったところに趣を見出す

対談連載『見汐麻衣の日めくりカレンダー』【第1回】ゲスト : 山下敦弘(映画監督)

対談連載『見汐麻衣の日めくりカレンダー』【第1回】ゲスト : 山下敦弘(映画監督)

YAJICO GIRLが求める、ダンス・ミュージックの多幸感──“僕のまま”で“自分”から解放される

YAJICO GIRLが求める、ダンス・ミュージックの多幸感──“僕のまま”で“自分”から解放される

いま必要なのは、無名な君と僕のささやかな抵抗──THE COLLECTORSの眼差し

いま必要なのは、無名な君と僕のささやかな抵抗──THE COLLECTORSの眼差し

20年の経年変化による、いましか表現できない音を──tacica『AFTER GOLD』先行試聴会&公開インタヴュー

20年の経年変化による、いましか表現できない音を──tacica『AFTER GOLD』先行試聴会&公開インタヴュー

Guiba、歌ものポップス拡張中──スケール・アップを目指したセカンド・アルバム『こわれもの』完成

Guiba、歌ものポップス拡張中──スケール・アップを目指したセカンド・アルバム『こわれもの』完成

滲んでいく人間と機械の境界線──OGRE YOU ASSHOLE『自然とコンピューター』クロス・レヴュー

滲んでいく人間と機械の境界線──OGRE YOU ASSHOLE『自然とコンピューター』クロス・レヴュー

浪漫革命、音楽やバンドへの想いが『溢れ出す』──京都を抜け出し、この1枚で人生を変える

浪漫革命、音楽やバンドへの想いが『溢れ出す』──京都を抜け出し、この1枚で人生を変える

一度葬り、新たに生まれ変わるフリージアン──覚悟と美学が込められたEP『歌葬』

一度葬り、新たに生まれ変わるフリージアン──覚悟と美学が込められたEP『歌葬』

圧倒的な“アゲ”で影をも照らすビバラッシュ! ──“信じる”ことがテーマの「エンペラータイム」

圧倒的な“アゲ”で影をも照らすビバラッシュ! ──“信じる”ことがテーマの「エンペラータイム」

優河が奏でる、さまざまな“愛”のかたち──わからなさに魅了されて

優河が奏でる、さまざまな“愛”のかたち──わからなさに魅了されて

THE SPELLBOUNDと果てなき旅に出よう──セカンド・アルバム『Voyager』に込められた生命の喜び

THE SPELLBOUNDと果てなき旅に出よう──セカンド・アルバム『Voyager』に込められた生命の喜び

ナリタジュンヤがはじめて語った、自身の「原点」──「Hometown」で描いた、生まれ育った街の情景

ナリタジュンヤがはじめて語った、自身の「原点」──「Hometown」で描いた、生まれ育った街の情景

必要なものは海と人間のあいだにある──踊ってばかりの国が渚にて見つけた“ライフハック”

必要なものは海と人間のあいだにある──踊ってばかりの国が渚にて見つけた“ライフハック”

孤独と痛みを共有した先でなにを歌うか──リアクション ザ ブッタがつかんだ希望の指針

孤独と痛みを共有した先でなにを歌うか──リアクション ザ ブッタがつかんだ希望の指針

いつも全身全霊で楽しんだら、それでうまくいく──結成10周年のTENDOUJIは次のフェーズへ

いつも全身全霊で楽しんだら、それでうまくいく──結成10周年のTENDOUJIは次のフェーズへ

あらかじめ決められた恋人たちへが放つ、もっともタフで、もっともダブな最新アルバム『響鳴』

あらかじめ決められた恋人たちへが放つ、もっともタフで、もっともダブな最新アルバム『響鳴』

猫田ねたこ、共生の尊さをしなやかに描いたセカンド・アルバム

猫田ねたこ、共生の尊さをしなやかに描いたセカンド・アルバム

Atomic Skipperの“軌道”を記録したデビュー・アルバム完成

Atomic Skipperの“軌道”を記録したデビュー・アルバム完成

[インタヴュー] THE SPELLBOUND

TOP