Yves Tumor 「The Asymptotical World EP」
イタリアを拠点とするマルチ・プレイヤー、イヴ・トゥモア。昨年リリースのアルバム『Heaven To A Tortured Mind』では、グラム・ロックにも傾倒。既成の価値観の枠をはみ出す大仰な表現によって、ブラックでクィアである彼自身のアイデンティティをさらけ出そうとするところがあり、その点では近年のアルカとも被る部分がある。だが大きく異なるのは、暑苦しいとも言えるほどギラついたサウンドと、ポップでキャッチーなメロディだ。その路線は先ごろリリースされたEP『The Asymptotical World』にも踏襲されており、中でも「Jackie」はその極致たる1曲。失恋によるハードブレイクを甘いメロディで歌い上げながらも、サイケデリックな極彩色のシンセ・サウンドに、ハード・ロックのようなエレキ・ギター、と、サウンドはこれまで以上にギラギラとしてパワフルだ。痛みも孤独も、ギラギラと飾り立てながら、グラマラスに見せつける。その生き様に、このところ何度も勇気づけられている。
beabadoobee 『Our Extended Play』
ロンドン出身でフィリピン系のシンガー・ソングライター、beabadoobeeことベア・クリスティのEP。The 1975擁する《Dirty Hit》所属で、マシュー・ヒーリーをメンターとして慕う仲なのだそう。昨年リリースのデビュー・アルバムでも同様だったのだが、メロコアやポップ・パンク直球な今時珍しいアーティストで、今作の中では2曲目「Cologne」で、The 1975の『Notes On A Conditional Form』(2020年)とも類似したミドルのアタック感を強調した切れ味の鋭いバンド・サウンドと挑発的なメロディを展開している。ジャケットも90年代風で、4曲目の「He Gets Me So High」なんかはアヴリル・ラヴィーンを甘くしたような……といっても過言ではない。90年代のポップ・バンドへのオマージュ / リバイバルといえば全米チャートを賑わせているオリヴィア・ロドリゴとも通じる流れでもあり、現象の一つとして気になるところ。ミレニアル世代の筆者としては、懐かしさを感じるアーティストだ。
Squirrel Flower 『Planet (i)』
マサチューセッツ州アーリントン出身のシンガーソングライターのセカンド・アルバム。現在24歳で、音楽一家に育ち10代の頃から楽器に慣れ親しみ、当時シーンに鮮烈に登場したローラ・マーリングに憧れ、ギターを始めたことが現在のキャリアに繋がっているようだ。前作では、シューゲイザーやドリーム・ポップを思わせるサウンド・メイクを施した楽曲が特に印象的だったが、今作にはグランジ~オルタナ風のアグレッシヴな楽曲から、ジョニ・ミッチェルを彷彿とさせるオープン・チューニングの弾き語りナンバーまで、エレキとアコースティック・ギターをほぼ半々で使用した、どこか昔懐かしさを感じさせるソングライティングを深めているのが興味深い。とはいえ彼女の最大の魅力はやはり、メロディの“エモさ”。学生時代を過ごしたアメリカ中西部(アイオワ州)がシーンの一つの拠点であった90年代のエモ・バンドを参考にしているそうで、彼女自身の内なる世界の葛藤を描くリリックとも相まって、聴くたびに胸を焦がされる感覚がたまらないのだ。