2021/06/21 19:00

Kaishandao『Homeland』

ニュージーランド出身で成都を拠点とするプロデューサーのデビューEP。ガラージ〜ハウス〜テクノとジャンル横断的で、ドリーミーな印象。感染対策としての規制が解除されたのち、友人らと共に楽曲に手を加えクラブで流し、再度手直しして………を繰り返して制作が進められたようで、その過程の尊さが伝わる作品だ。KaishandaoことKristen Ngは旅行で成都を訪れたことをきっかけに移住し〈Kiwise〉を立ち上げ、かの.TAGでは初期からラジオ配信のサポートやDJとして活躍しており、「Homeland」とは第2の故郷である成都、そして彼女がその中で生活し、その発展を支えてもきた成都のクラブ・カルチャーを指しているのだろう。成都のクラブカルチャーを理解するのにも役立つ1枚だ。本作のリリースを記念し、深圳のOILからはじまり中国各地を周るツアーも現在行われている。

UNKNOWN ME 『Bishintai』

やけのはら、P-RUFF、H.TAKAHASHI、大澤悠大によるアンビエント・ユニット、UNKNOWN MEのファーストLP。「心と体の未知なる美しさの探求」がテーマの瞑想サウンドスケープで、Netflixで配信の「ミッドナイト・ゴスペル」と「ヘッドスペースの瞑想ガイド」とが融合したかのような世界観。瞑想を手助けするロボットの音声や、煌びやかな電子音がホログラム映像を想起させる。音の質感としては前作よりも広い空間で音が鳴っているようで、Emily A. Spragueと近い印象。ゲストも多数参加しており、たとえば〈Hyperdub〉との契約が決まったfoodmanとの「Breathing Wave」はリズミカルなニューエイジ、奇才ジム・オルークが参加した「Have a Noble Meal」は電子音の断片が有機的に結合していくような楽曲になっている。瞑想せずとも本作のテクスチャやその音像を楽しむことがマインドフルネスの実践にもなりそうだ。

Howie Lee 『Birdy Island』

”中国の”エレクトロニック・ミュージックを探求しつづけている、そのシーンを語るには欠かせない存在のHowie Lee。本作は民謡クルセイダーズの海外リリースでも知られる、Mais Um Discosから。雄大で希望に溢れているようにも聴こえるがどこか不気味さが漂う、フュージョンやゲーム音楽の要素を取り入れたエクスペリメンタル~アンビエント。中国の伝統やアイデンティティを西洋の文脈に合流させるというよりは別の目的地を探ってきた彼だが、クラブ・ミュージックから一度離れた本作でもそれを達成しているように聴こえる。現代中国社会の政治的なバックグラウンドノイズを組み合わせた「Socialism Core Value」をはじめとして彼の作品の多くが問題提起を含むテーマを持っており、本作は新自由主義によって崩壊したのちの社会に建設される「鳥と祖先の霊が共存するテーマパーク」というテーマだそうだ。

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