REVIEW #2 一瞬たりともリスナーを逃さない、“リョクシャカ劇場”
Text by 坂井彩花
「花になって」や「恥ずかしいか青春は」、「サマータイムシンデレラ」などを世に放ち、もはやタイアップの名手となった緑黄色社会。チャートに名を連ねるヒットソングを筆頭に、『薬屋のひとりごと』のオープニングテーマや『今日、好きになりました。』の主題歌といった具合で指名聴きされることも多いだろう。1年9ヶ月ぶりのアルバム作品となる『Channel U』は、そんな聴きかたをしている人たちを、どっぷりと緑黄色社会の世界へ浸らせる快作だ。さらにいうと、アルバムを通して聴くことのトキメキを思い出させてくれる1枚でもある。
「Mela!」や「キャラクター」と同じ布陣で制作された「PLAYER 1」で華々しい幕開けを飾り、「∩」「U」といったインターセクションも挟みながら展開されていく“リョクシャカ劇場”――なんなら、チャンネルが次々に移り変わっていく「Channel Me」も、楽曲同士を繋いでいく1曲として扱っていいかもしれない――。絶妙なバランス感で配置された曲たちは、一瞬たりともリスナーを逃すことなく、最後までワクワクと胸を高鳴らせる。
そもそもド頭から《―無敵だZONE―》なんてかまされてしまったら、期待してしまうに決まってるじゃないか。しかも、昨今のK-POPや洋楽のブラックミュージック、最新の技術を駆使したエディットやアレンジと真っ向から向かい合ったナンバーと来た。前作の『pink blue』で覆した緑黄色社会らしさを、さらに刷新しにかかっている。
そこでグッと心を掴まれてしまったら、あとは彼らにエスコートされるがまま。青春を全うする美しさを描いた「恥ずかしいか青春は」、発想の転換によって世界の見えかたが変わると説く「ナイスアイディア!」とメッセージ性の高い曲を連投し、言葉遊びが面白い「Monkey Dance」へ予想だにしない転がりかたをする。
そして「∩」からは、U(あなた)の裏側、あまり表に出ることのない秘められた想いに焦点が当たっていくのだ。嘘に対する長屋の気持ちがこめられた「馬鹿の一つ覚え」、過去の恋愛に終わりを告げる「Each Ring」、初々しい気持ちを取り戻すべくひっそりと行動に移す「コーヒーとましゅまろ」。ここに新しく加わった3曲によって、受けとめられている人生や選択がグッと広がっているのも印象的だ。
「U」以降は、真正面からU(あなた)を肯定するかのごとく、ここぞとばかりにラストスパート。《君のためのパーティーだ!》と晴れやかな歌声が響く「Party!!」を皮切りに、自己愛を歌った「花になって」、《喜ばれた/命の音/それだけでいい》と紡ぐ「オーロラを探しに」へ導かれていく。その流れは「みんなが君のことを想ってる。ありのままのあなたでいい。生きてるだけでいいんだよ」と、一人ひとりの人生を慈しんでいるよう。『Channel U』を通して向き合ってきた生き様や選択を、最後に丸っと抱きしめてくれるのである。しかも、アルバム単位でのリピート再生に設定していれば、自己肯定感が爆アゲされた状態で、誰になんといわれても無敵だと叫ぶ「PLAYER 1」へ、自動的に送り出してもらえる寸法だ。高い没入感を保ったまま1周目を完走し、メッセージを受け取ったうえで2周目に走り出せるなんて、なんともよく考えられたデザイン。ここまで考え抜かれた『Channel U』を、タイアップ曲と新曲の寄せ集めだなんて誰がいえよう。
テレビやラジオなどでよく用いられる“Channel”という単語には、経路や道筋、ルートといった意味もあるらしい。『Channel U』、それすなわち、あなたの人生ということになるのではないだろうか。2022年には、個性豊かなタイアップ曲を総括する言葉として『Actor』を選び、「何者にでもなれるという意味で伝わってほしい」と願いをこめていた彼らが、一人ひとりの人生をそのまま受け止める存在になったのだ。国民的なアーティストへ向かって、今日も緑黄色社会は着々と歩みを進めている。