2024/09/27 12:00

人間が消え去った世界での、亡霊としての視点 Text by 河村祐介

全体的に軽やかなサイケデリアに包まれた『新しい人』にくらべて、そのサウンドは数センチ腰を落としたようで、ヘヴィーなベースラインのグルーヴが牽引している。そんな感覚のオーガ、8枚目。言ってしまえば、穏やかではあるがダンサブルでもある。
“偶然生まれた”は、ベースラインとハイハットがダビーにハメるミニマルなリズムを奏でてアルバムをスタートさせる。スローモーなファンク“影を追う”を経て、やはりモータリックなグルーヴの“お前の場所”、エレクトロ・ディスコ“君よりも君らしい”。それこそリンドストロームやプリンス・トーマスなどバレアリックなディスコとクラウトロックの融合を、新たにバンドとして蘇らせたかのようだ。イージー・リスニング・ジャズなインスト楽曲“快適な麻痺状態”と、メランコリックな“ただの好奇心”を除けば、スローなディスコ・ファンクの“熱中症”、コズミック・エレクトロ・ディスコ“家の外 (alternative ver.)”などダンサブルな楽曲が続く。アルバムはここで一端区切りを付けているようで、インスト曲にしてタイトル曲“自然とコンピューター”は、初期クラフトワークの“Ananas Symphonie”を彷彿とさせる、書き割りのようなトロピカルなユートピアをポリゴンの波間に描く。誰もいなくなった砂浜にうち捨てられた文明の痕跡を眺めるようで、どこか仮想現実から現世へと戻るエンディング・テーマといった趣もある。そう、にぶい自分はアルバムのここまでに、「人間の不在」の視点が本作の歌詞には示唆されていたことに気付く。ラスト・トラック“たしかにそこに”は、それまでのアルバムの楽曲に対して、人間の不在から抜け出ることで、逆に得られる実存の驚きと喜びが示されているかのようで、ある意味でアルバムの構造を示唆しているかのようでもある。
絶えざるエネルギーの拡散を約束付けられ、日常の物理法則から宇宙の終わりをも描く物理法則たる「エントロピーの増大」を歌ったと思しき、“偶然生まれた”など、本作の歌詞は、どこかすさまじく遠くの未来、人間が消え去った世界での、亡霊としての視点を描いてるかのようだ。いわば『自然とコンピューター』だけが、人間が滅びた後も延々と大きな円環を自ら描きながら、この地上で新たな生態系を作り、人間はそこかしこに痕跡を残す亡霊でしかない、そんな世界をある種のサイケデリックな創造力の発露として描きだしている。モータリックなディスコ・ビートもそうした世界観を補完するのに最適なビートとも言えるだろう。

河村祐介
2004年~2009年『remix』編集部、LIQUIDROOM勤務やふらふらとフリーを経て、2013年より、OTOTOY編集部所属からの長。

ライヴ情報

〈ボロフェスタ2024〉
日程 : 2024年11月3日(日)
会場 : 京都KBSホール
時間 : OPEN 11:30 / START 11:55
https://borofesta.jp/

『自然とコンピューター』リリース・ツアー 大阪公演 ※SOLD OUT
日程 : 2024年12月8日(日)
会場 : 大阪 梅田Shangri-La
時間 : OPEN 17:30 / START 18:00

『自然とコンピューター』リリース・ツアー 東京公演 ※SOLD OUT
日程 : 2024年12月21日(土)
会場 : 恵比寿 LIQUIDROOM
時間 : OPEN 18:00 / START 19:00

OGRE YOU ASSHOLEのほかの作品はこちらから

PROFILE:OGRE YOU ASSHOLE


出戸 学 (guitar, vocal)
馬渕 啓 (guitar)
勝浦 隆嗣 (drums)
清水 隆史 (bass)

メロウなサイケデリアで多くのフォロワーを生む現代屈指のライブバンドOGRE YOU ASSHOLE。 2000年代USインディーとシンクロしたギター・サウンドを経て、石原洋プロデュースのもとサイケデリック・ロック、クラウト・ロック等の要素を取り入れた『homely』『100年後』『ペーパークラフト』のコンセプチュアルな三部作で評価を決定づけた。 初のセルフ・プロデュースに取り組んだ『ハンドルを放す前に』ではバンド独自の表現を広げる事に成功し高い評価を得る。

2010年、全米・カナダ18ヶ所をまわるアメリカ・ツアーに招聘される。2014年、〈フジロックフェスティバル〉ホワイトステージ出演。2018年、〈日比谷野外音楽堂〉でワンマン・ライヴを開催。2019年9月、アルバム『新しい人』リリース。2020年、「朝 (alternate version) / (悪魔の沼 remix)」「workshop3」リリース。 2022年、〈フジロックフェスティバル〉レッドマーキーに出演。 2023年、4曲入りEP『家の外 e.p.』をリリース。

■Official HP:https://ogreyouasshole.com/
■X:@OYA_band
■Instagram:@ogreyouasshole_official
■YouTube:@OGREYOUASSHOLEofficial

この記事の編集者
石川 幸穂

空想に潜ませた、ほんのちょっとの“本当”──motoki tanakaが高知で描く、ノスタルジックな景色とは

空想に潜ませた、ほんのちょっとの“本当”──motoki tanakaが高知で描く、ノスタルジックな景色とは

“はみ出した人”を照らす、ART-SCHOOLのささやかな光──揺れながらも歩み続けた25年、その先に迎えた新たな境地

“はみ出した人”を照らす、ART-SCHOOLのささやかな光──揺れながらも歩み続けた25年、その先に迎えた新たな境地

【短期連載】FUNKIST、喜びと葛藤が刻まれた25年を振り返る Vol.3──FUNKISTとしての生き方を誇り、その先へ(2013〜2025年)

【短期連載】FUNKIST、喜びと葛藤が刻まれた25年を振り返る Vol.3──FUNKISTとしての生き方を誇り、その先へ(2013〜2025年)

「月まで届いたとき、体がはじけて宇宙と同化した」──ayutthayaがEP「epoch」で描く音の宇宙旅行

「月まで届いたとき、体がはじけて宇宙と同化した」──ayutthayaがEP「epoch」で描く音の宇宙旅行

【短期連載】FUNKIST、喜びと葛藤が刻まれた25年を振り返る Vol.2──メジャー時代の夢のあとに残されたもの(2008〜2012年)

【短期連載】FUNKIST、喜びと葛藤が刻まれた25年を振り返る Vol.2──メジャー時代の夢のあとに残されたもの(2008〜2012年)

対談連載『見汐麻衣の日めくりカレンダー』【第4回】ゲスト : 長谷川陽平(ミュージシャン)

対談連載『見汐麻衣の日めくりカレンダー』【第4回】ゲスト : 長谷川陽平(ミュージシャン)

【短期連載】FUNKIST、喜びと葛藤が刻まれた25年を振り返る Vol.1──始まりの7年、インディーズ時代(2000〜2007年)

【短期連載】FUNKIST、喜びと葛藤が刻まれた25年を振り返る Vol.1──始まりの7年、インディーズ時代(2000〜2007年)

幽体コミュニケーションズのファースト・アルバム『文明の欠伸』でめぐる、音と言葉の旅

幽体コミュニケーションズのファースト・アルバム『文明の欠伸』でめぐる、音と言葉の旅

〈カクバリズム〉の新星・シャッポ、ファースト・アルバム『a one & a two』ついに完成!

〈カクバリズム〉の新星・シャッポ、ファースト・アルバム『a one & a two』ついに完成!

光を求めて抗うために、僕たちには音楽がある──Keishi Tanaka × Ryu(Ryu Matsuyama)対談

光を求めて抗うために、僕たちには音楽がある──Keishi Tanaka × Ryu(Ryu Matsuyama)対談

“二刀流”を掲げるDortmund Moon Slidersが示す、自然な営みとしてのバンド活動──「好きなことをするのに、年齢制限はない」

“二刀流”を掲げるDortmund Moon Slidersが示す、自然な営みとしてのバンド活動──「好きなことをするのに、年齢制限はない」

突然現れた異才、野口文──ストラヴィンスキーとコルトレーンを線でつなぎ咀嚼する若き音楽家

突然現れた異才、野口文──ストラヴィンスキーとコルトレーンを線でつなぎ咀嚼する若き音楽家

対談連載『見汐麻衣の日めくりカレンダー』【第3回】ゲスト : 横山雄(画家、デザイナー)

対談連載『見汐麻衣の日めくりカレンダー』【第3回】ゲスト : 横山雄(画家、デザイナー)

ロードオブメジャーとしての過去を誇り、さらなる未来を照らす──けんいち9年ぶりのアルバム『いちご』リリース

ロードオブメジャーとしての過去を誇り、さらなる未来を照らす──けんいち9年ぶりのアルバム『いちご』リリース

Tyrkouazは激しく、ポップに、そして自由に突き進む──無垢な自分を取り戻すための「MEKAKUSHI-ONI」

Tyrkouazは激しく、ポップに、そして自由に突き進む──無垢な自分を取り戻すための「MEKAKUSHI-ONI」

NEK!が鳴らす、SNS世代における「リアル」とは──2nd EP「TR!CK TAK!NG」クロス・レヴュー

NEK!が鳴らす、SNS世代における「リアル」とは──2nd EP「TR!CK TAK!NG」クロス・レヴュー

Laura day romanceは、両極の“なかみち”を進む──サード・アルバム前編『合歓る - walls』リリース

Laura day romanceは、両極の“なかみち”を進む──サード・アルバム前編『合歓る - walls』リリース

Giraffe Johnが鳴らす“ニュー・エモーショナル・ミュージック”とは? ──予測不能なバンドのおもしろさを語る

Giraffe Johnが鳴らす“ニュー・エモーショナル・ミュージック”とは? ──予測不能なバンドのおもしろさを語る

対談連載『見汐麻衣の日めくりカレンダー』【第2回】ゲスト : 北山ゆう子(ドラマー)

対談連載『見汐麻衣の日めくりカレンダー』【第2回】ゲスト : 北山ゆう子(ドラマー)

より広く伝えるために辿り着いたR&Bのグルーヴ──Nolzyデビュー作は新感覚のミクスチャー・ポップ

より広く伝えるために辿り着いたR&Bのグルーヴ──Nolzyデビュー作は新感覚のミクスチャー・ポップ

純度100のその人の音を聴きたいから、まず自分がそれをやりたい──ミズノリョウト(GeGeGe)インタヴュー

純度100のその人の音を聴きたいから、まず自分がそれをやりたい──ミズノリョウト(GeGeGe)インタヴュー

FUNKIST、16年分の感謝と葛藤の結晶“47climax”をリリース──結成25周年に向けてのシングル第一弾

FUNKIST、16年分の感謝と葛藤の結晶“47climax”をリリース──結成25周年に向けてのシングル第一弾

ボーダーレスに混ざりあうHelsinki Lambda Club──現実と幻想の“エスケープ”の先にあるもの

ボーダーレスに混ざりあうHelsinki Lambda Club──現実と幻想の“エスケープ”の先にあるもの

これは、the dadadadysのブッ飛んだ“憂さ晴らし”──こんがらがったところに趣を見出す

これは、the dadadadysのブッ飛んだ“憂さ晴らし”──こんがらがったところに趣を見出す

対談連載『見汐麻衣の日めくりカレンダー』【第1回】ゲスト : 山下敦弘(映画監督)

対談連載『見汐麻衣の日めくりカレンダー』【第1回】ゲスト : 山下敦弘(映画監督)

YAJICO GIRLが求める、ダンス・ミュージックの多幸感──“僕のまま”で“自分”から解放される

YAJICO GIRLが求める、ダンス・ミュージックの多幸感──“僕のまま”で“自分”から解放される

いま必要なのは、無名な君と僕のささやかな抵抗──THE COLLECTORSの眼差し

いま必要なのは、無名な君と僕のささやかな抵抗──THE COLLECTORSの眼差し

20年の経年変化による、いましか表現できない音を──tacica『AFTER GOLD』先行試聴会&公開インタヴュー

20年の経年変化による、いましか表現できない音を──tacica『AFTER GOLD』先行試聴会&公開インタヴュー

Guiba、歌ものポップス拡張中──スケール・アップを目指したセカンド・アルバム『こわれもの』完成

Guiba、歌ものポップス拡張中──スケール・アップを目指したセカンド・アルバム『こわれもの』完成

滲んでいく人間と機械の境界線──OGRE YOU ASSHOLE『自然とコンピューター』クロス・レヴュー

滲んでいく人間と機械の境界線──OGRE YOU ASSHOLE『自然とコンピューター』クロス・レヴュー

浪漫革命、音楽やバンドへの想いが『溢れ出す』──京都を抜け出し、この1枚で人生を変える

浪漫革命、音楽やバンドへの想いが『溢れ出す』──京都を抜け出し、この1枚で人生を変える

一度葬り、新たに生まれ変わるフリージアン──覚悟と美学が込められたEP『歌葬』

一度葬り、新たに生まれ変わるフリージアン──覚悟と美学が込められたEP『歌葬』

圧倒的な“アゲ”で影をも照らすビバラッシュ! ──“信じる”ことがテーマの「エンペラータイム」

圧倒的な“アゲ”で影をも照らすビバラッシュ! ──“信じる”ことがテーマの「エンペラータイム」

優河が奏でる、さまざまな“愛”のかたち──わからなさに魅了されて

優河が奏でる、さまざまな“愛”のかたち──わからなさに魅了されて

THE SPELLBOUNDと果てなき旅に出よう──セカンド・アルバム『Voyager』に込められた生命の喜び

THE SPELLBOUNDと果てなき旅に出よう──セカンド・アルバム『Voyager』に込められた生命の喜び

ナリタジュンヤがはじめて語った、自身の「原点」──「Hometown」で描いた、生まれ育った街の情景

ナリタジュンヤがはじめて語った、自身の「原点」──「Hometown」で描いた、生まれ育った街の情景

必要なものは海と人間のあいだにある──踊ってばかりの国が渚にて見つけた“ライフハック”

必要なものは海と人間のあいだにある──踊ってばかりの国が渚にて見つけた“ライフハック”

孤独と痛みを共有した先でなにを歌うか──リアクション ザ ブッタがつかんだ希望の指針

孤独と痛みを共有した先でなにを歌うか──リアクション ザ ブッタがつかんだ希望の指針

いつも全身全霊で楽しんだら、それでうまくいく──結成10周年のTENDOUJIは次のフェーズへ

いつも全身全霊で楽しんだら、それでうまくいく──結成10周年のTENDOUJIは次のフェーズへ

あらかじめ決められた恋人たちへが放つ、もっともタフで、もっともダブな最新アルバム『響鳴』

あらかじめ決められた恋人たちへが放つ、もっともタフで、もっともダブな最新アルバム『響鳴』

猫田ねたこ、共生の尊さをしなやかに描いたセカンド・アルバム

猫田ねたこ、共生の尊さをしなやかに描いたセカンド・アルバム

Atomic Skipperの“軌道”を記録したデビュー・アルバム完成

Atomic Skipperの“軌道”を記録したデビュー・アルバム完成

[レヴュー] OGRE YOU ASSHOLE

TOP