よりシリアスに、赤裸々に、アップグレードした歌詞
――そして今回新曲4曲を含む全8曲のEP『歌葬』がリリースされましたが、やはりまず気になるのはタイトルとジャケットです。
たなりょー:“お願いダーリン”もそうなんですけど、カズシくんの書く曲はポップなのに歌詞に「死」という言葉が入っていることが多いんですよね。カズシくんの死生観もここ最近でどんどん変わってきて、それを受けてメンバーのプレイも自然と変わっていって。
マエダ:自分ではあんまり変わっている実感がなかったんですけど、今思えば能登半島地震の影響も知らず知らずのうちにあったんかな。“一撃の歌”は震災前に書いたものではあるけれど、痛みを感じる歌詞ではあるから、そういうところにどんどん気持ちが持っていかれたところはあるかもしれない。
――『FREESIAN』の楽曲はバンド・マンとしての視点で書いたものが多いですが、『歌葬』はバンド・マンでありひとりの人間であるというスタンスで書いた歌詞が多い印象はありました。
マエダ:ヴォーカルはステージでちょっとかっこつけるのがめっちゃ大事やけど、僕はそういうの得意じゃないから、「俺ってこういう人間なんですよ」と見せるタイプで。ただ歌詞に関しては、ちょっと背伸びをして自分や自分みたいな誰かを助けてくれるものを書いてたんですよね。でも“お願いダーリン”をフリージアンで再録したのも影響してか、もっと自分の素直な気持ちを書いてもいいよなとも思ったんです。今回はそういうのがいろいろ重なって、自分のことを赤裸々に書いた曲が多くなった気はしています。あと今年の2月くらいに、めっちゃ脳がスパークしたときがあったんですよ。
――スパーク?
マエダ:“青瞬”と“怪物”と“海から”の歌詞とメロディを、スタジオに入る前の午前中で一気に書いたんです。それまでなかなか出てこうへんかったけど、急にアウトプットできる感覚があって、一気にワッと書いて。
たなりょー:カズシくんはいつも悶々としていて、作りたいことがめちゃくちゃいっぱいあるけど、いっぱいあるぶん漠然としてしまっているんです。だから〆切みたいなものに追い詰められたほうがアウトプットできるんですよね。
マエダ:だから多分ストレスによる極限状態なんですよね。「やばいやばい! 作らなあかん! 」って追い込まれて、脳みそがビリビリビリッてなる。みんなが作ってくれたコード進行やリズムとかの土台があるのに、1週間もらってもなにもできなくて。でも急にアウトプットのスイッチが入って、ボロボロ泣きながら鼻歌入れて歌詞を書きました。
隆之介:そんな背景があって、カズシの作るものの繊細さがどんどん増していって、歌詞の言い回し、コード進行、コーラスの入れ方、各楽器のフレーズ、すべてに対して「これええやんってさっき思ったけど、ほんまにこれでええんか? 」と悩む局面が増えました。一気に3曲持ってくるから3曲並行して進めなあかんし(笑)、しんどいことも多かったけど、『歌葬』の制作を経てプレイヤーとしても作り手としてもすごく成長できましたね。

――『歌葬』は言葉の力だけでなく、音の力も相まって「このままではいけない」という焦燥感がダイレクトに伝わってくる感覚がありました。
マエダ:ずっと前から「このままじゃダメや」と思ってるんです。もっとたくさんの人に音楽が届くためにはもっと知名度がいるし、もっとたくさんの人に知られてもいいはずやのにという思いもあるし、自分のやってることが間違ってるとも思わんし。そのせめぎ合いがシリアスさを色濃くしていったんかな。久しぶりに会った友達にも「自分の本気を伝える歌詞を書こうとしたらすぐ死を持ち出してくるの、ほんまカズシくんの悪いクセやで」って言われて(笑)。でもほんまそうやなって。
――今のお話で『歌葬』というタイトルが、本当の意味で腑に落ちました。
マエダ:自主企画ツーマンの〈歌遭 "KASO"〉というタイトルが、そもそも「歌葬」になりそうやったんです。でもさすがにツーマン・ライヴのタイトルで「歌を葬る」はちゃうかと思って、ならEPに使おうかなって。やっぱりシリアスさをタイトルでも提示したかったんですよね。
――『FREESIAN』からさらにフリージアンを深掘りしたのが『歌葬』なのかもしれないですね。
マエダ:そうですね。だから『FREESIAN』より内省的やし、聴いてくれた人たちが「こいつこんなこと考えてんねんな」と思ってもらえたらなと思います。
――『歌葬』の楽曲は、変化を求める思いや繊細な歌詞を体現するように、音でも多彩で細やかなアプローチをしているのも印象的でした。
隆之介:“蒼く染まって”とかは今までにないアプローチをしましたね。ちょっと硬派な感じというか。
マエダ:みんな曲の雰囲気に引っ張られてレコーディングではシュッとしてましたね。
MASASHI:いや、みんなお菓子バリバリ食うてたやん(笑)。でもこの曲はかたちになるまでに結構時間が掛かりましたね。
たなりょー:リズム・パターンもめっちゃ変えたね。Cメロも歌詞まで作ってたけどなくしたし、そぎ落とすことに注力したというか。
隆之介:『FREESIAN』は足し算の要素が多かったので、『歌葬』では引き算の思考やアプローチもちゃんと実現できたなという満足感がありますね。“海から”はMASASHIの考えたコード進行が元になっていて、これはほんとMASASHIを大尊敬しました。すごく好きな曲で。
MASASHI:自分が好きなコード進行を出したんですけど、ずっと同じコード進行で、でも同じだと感じさせないオケにしたかったんですよね。美学を詰めました。

マエダ:その時点でめっちゃ良くて。天空のイメージがあったんですけど、歌詞を書いているうちに誰もおらん海みたいやなと思って。
MASASHI:そのカズシの言ったイメージから、デモを固めました。
たなりょー:MASASHIも僕もゲームのBGMが好きで、音からイメージが湧く感覚はすごく好きなんですよね。MASASHIの作ったデモから情景が伝わってきたので、海を表現するならこんな太鼓の音がええかなと意見交換しながら決めました。情景は浮かぶけど説明しすぎない絶妙なラインを考えるのが楽しかったですね。
マエダ:僕もこの雰囲気を邪魔せんようにしたくて歌詞とメロディを作りました。隆さんも最初入れたベースよりもシンプルなものにして、全員で曲の雰囲気にフォーカスして作った曲になりましたね。
たなりょー:あと、僕ら結成からずっと〈STUDIO UMI〉というところでレコーディングしてるんです。最初この曲のタイトルは“海”やったけど、奥行きを出したくて“海から”にして。結果的に〈STUDIO UMI〉から届けているというダブル・ミーニングにもなりました。
――海は生命の始まりの場所でもあるので、死生観というテーマにもぴったりです。
マエダ:全然意図してなかったんですけど、結果いろんなことがいいようにハマったなと思います。なるべくしてなったような、不思議な感覚でした。