AmiideとJyodanが作る曲は、“なんでもいい”んじゃないかな
──“Haunted”はAmiideさんのご友人で、自死されてしまった方の話のようですね。
Amiide:そうですね。LAに自分が住んでいたときの友だちなんですけど、ベルリンで俳優を目指していた子でした。自分は映画の勉強をしていて、その友だちは俳優の勉強をしていたんですけど、アメリカのビザが難しかったのでドイツに行って、ドイツで……って感じです。
──なにがその方を苦しめてしまったんでしょうか。
Amiide:詳しくはわからないですけど……俳優として夢を追いかけていて、その夢を叶えるのが難しかったりしてっていうのが大きいんじゃないですかね。
──そうなんですね。僕のこのEPの印象としては、CIRRRCLEのメンタルヘルスについて歌った”Too Fragile”や”Mental Health”などが、本作の印象と近いなって思いました。
Amiide:あぁ、そうですね。結構そういう内容になってるかもしれない。
──こういった曲が生まれるようになったのは、CIRRRCLE解散に至る辛い経験がリンクするのかなと、遠くから見ている自分は勝手に結びつけて考えてしまいますが、ご本人としてはいかがですか。
Amiide:うーん……CIRRRCLEは、ハッピーなヒップホップっていうテーマがあって、ハッピーな曲しか作れないみたいな雰囲気があったんですけど、自分とJでやるときはなんでもいいんじゃないかなって。Jはずっと「サッド・ソングを作りたい」って言ってたし。
Jyodan:そう。幸せじゃなかったしね。なぜか分からないけど、僕の好きな曲って悲しい曲が多いんだよね。
──例えば、どんな曲でしょう。
Jyodan:ケラーニや、マック・ミラーは悲しい曲も多いよね。内容はハッピーでも、サウンドが悲しい感じ。それが自分にとって年相応に感じるんだと思う。自分の性格については、自分でもよくわからないけど、なにに対しても「別に」っていう感じ。僕と遊んだりすると多分わかると思う。ただ、音楽については悲しい感じになれないんだ。少年のようになってしまう。
──事実、CIRRRCLEの“Talk Too Much”のMVと、最近のOtomodatchiのビデオでは、別人にすら見えるのが気になりました。
Jyodan:そう、別人だよ。何年も言い続けてきたんだけど、僕には二面性がある。アメリカではナイスでクールにしてる。この街はタフだ。嫌なことや、とても辛い事もあったから、その結果だよ。
──つまり、街があなたを変えたと。
Jyodan:そう。誰でも街の一部だからね。日本では幸せだったし、いまも戻りたいと思う。だけど、日本に戻れば僕は英会話スクールの先生でしかない。辞める時は色々な人や生徒も僕を止めようとしてくれたよ。自分だっていつか結婚をしたいし、僕の両親はアートや音楽をやるのを良く思ってない。ガールフレンドも、親も、友達も、皆と戦い、僕は沢山失った。だけど、Amiだけは残った。それは10人の友だちを持つよりも良いことだよ。
Amiide:だから親友っていう名前をこのユニットにつけたんだよね。
──ちなみに、ご自身たちが意識するCIRRRCLEとの違いってなんですか?
Amiide:自分はCIRRRCLEのときはラップをしてたんですけど、ソロになってからは歌がメインになってます。それは大きな違いかな。あとはハッピー縛りじゃなく、ちょっと大人なクールなサウンド作りなのかなと自分は思ってます。ロンドンに来て、知り合いに「ハッピー・ヒップホップって、それは心からのハッピーでやってるの? 」って訊かれて、違うかもって。ほかの人を明るくしたいからやってるのかなって。でも結局、自分もJyodanも根が明るいタイプじゃないので(苦笑)。ね、Jyodanも私も、ハッピー・ハッピーなことなんてないよね。
Jyodan:そうだね。ずっとハッピーでいるのは、めちゃくちゃハードだよ。そうでしょ?
Amiide:そう。私達は幸せを押し付けてた。いまの私たちはもっとオーセンティックな音楽ができると感じてます。
Jyodan:いま、僕らがしていることが全てだと思う。(今作は)ハッピーな音楽じゃないかもしれないし、人を助ける為の曲じゃないかもしれない。それでも聴いてほしいし、皆が戻ってきてくれたら嬉しい。この作品は自分本位な作品だと思うから、次作は人に聴かれるようなものにしたい。
──こうした意見を聞くと、CIRRRCLEの中盤までは誰かをハッピーにさせる為の音楽制作で、いわばベクトルは他者に向いていましたけど、それがだんだんと人が持つ心の弱さを歌うようになり、いまは自分の感情へとベクトルが内側へ向いてる。そんな経緯を聞けて、音楽性の変化も腑に落ちました。
Jyodan:ああ、確かに。だからこそ、このプロジェクトでは友情のあるべき姿を映し出しているとも言える。前回のCIRRRCLEでのインタビューで僕はほとんど喋らなかったのは良くなかった。今回は英語も交えて話せたから、ロングインタビューができた。毎年ではなくても、また声をかけてよ。
──ありがたいです。もし定期的にインタヴューができるとしたら、毎回同じ質問をしたらおもしろいですね。
Amiide:あれですね。Vanity Fairのビリー・アイリッシュのインタヴュー動画みたいな。
──そう、それを思い出してました(笑)。 なんて質問したらいいですかね。「音楽制作が自分にとってどういうものなのか」…ですかね。
Jyodan:その定義は変わったよ。自分にとっては確実に(音楽制作は)救世主だよ。僕にはなにもなかった。ただ、Amiがなんでもいいから音楽を聴かせてくれたお陰で、僕は「Okay」と思えたんだ。僕らはただ、なんでも曲にした。だから悲しい曲が多い。少なくとも今は制作をはじめた頃よりも気分が良いよ。ここ数年は本当に辛かった。今年はこの経験と向き合い、来年は人生を変えたい。いつか、この経験に意義を見出そうとは思うけど、いまはわからない。まだわからないけど、僕はこうしてインタビューに答えているんだ。あの頃のことを話すのはこれがはじめてだよ。何度も何度も人には話すことはない。
Amiide:音楽制作は今ゲームみたいな感覚です。手に取る様に歌詞やメロディーも、そしてプロダクションも上達しているのを感じていて、毎日何かをクリアしていってる感覚が楽しい。多分1年後には、この時何変なこと言ってたんだろうって思う気がします。自分にとっても、「自分は本当に音楽が好きなのかな?」って思うくらいの時期がありましたが、Otomodatchiを通して自分が音楽が好きなことを再確認できたなってすごく思いますね。
──Otomodatchiの次の予定はどうでしょう。日本に来る予定とかってまだないですもんね。
Amiide:年末か2月くらいに行きたいんですけど、オーガナイザーの方、ぜひライヴに呼んでください(笑)。沖縄とかも行きたいです!Jyodanの育った場所なので。
Jyodan:次がどうなろうと、僕らは曲を録り溜めているよ。そのすべてを公開するか分からないけど、いまからミックスする曲はいまより良いプロジェクトになるよ。次作はもっと色々やりたい。落ち込んでいたとしても、今作を作るのは楽しかったけど、いまは更に自分がなにをすべきか更に見えている。他のアーティストから学んだり、ピアノとかコンプレッサーとか退屈な音楽理論も学んでる。それに僕はそういうのも好きだからね。
Amiide:より良くなっているはずです。
編集:梶野有希
Otomodatchi、はじめてのEP『We’re Still Friends』
Amiideのソロ作品はこちらから
PROFILE : Otomodatchi
東京とロンドンを基盤に活動する日本人R&Bシンガーソングライター、Amiideと、LAを拠点とするアメリカ人ラッパー、JyodanによるHiphop/R&Bボーカルデュオ。二人は、2020年12月に解散したCIRRRCLEの元メンバーであり、2022年12月に二人で出演したライブをきっかけにデュオとして活動を再開することを決心した。グループ解散後も、2021年の5月には、au povoのCMで共にラップを披露。YouTubeでは5100万回以上再生され、渋谷スクランブルの大型ビジョンでも楽曲が流れる。
■公式Twitter:https://twitter.com/otomodatchi
■公式Instagram:https://www.instagram.com/otomodatchi/