全然違うものを、同じ熱量と距離感でぶつけ合ってる
──お話を聞けば聞くほど、インナージャーニー、音楽してますね。
とものしん:さすがに2回目の「音楽してる」はいじりすぎですよ(大爆笑)。
──ははは(笑)。以前よりもさらに4人がバンドを楽しんでるなと思います。
とものしん:この3年ちょっとで、メンバーの関係性も変わりましたね。僕ら3人はカモシタサラが〈未確認フェスティバル〉に出るために集めたサポートメンバーで、4人の仲が深まる前にインナージャーニーとしてスタートして、すぐにコロナ禍に入っちゃったからリモート生活が長くて。でも少しずつ一緒にいる時間が増えていって──そう考えると仲は深まったかもね。
カモシタ:会える機会が増えてきたのと、それぞれ個人の活動もあるから、1回1回のレコーディングやライヴで会うとすごく楽しいんですよね。そういうのが今回の『いい気分さ』には出てるのかな。

──そういう「音楽を楽しむモード」だけでなく、バンドとして地に足がついていることを立証するのが“夜が明けたら私たち“と”ラストソング“だと思います。なんだか2部作のような2曲だなと感じて。
カモシタ:同じくらいの時期に作った曲なんです。あまり関連性は考えてなかったけど、確かに“夜が明けたら私たち“の続きが“ラストソング“みたいに聴こえますね。“ラストソング“はライヴで最後に観て「いいライヴだったな」と思ってもらえるような曲が欲しいなと思って、ライヴの最後の曲っぽいという意味で“ラストソング“というタイトルなんですけど。
──“夜が明けたら私たち“の各駅停車で進んでいくような淡々とした雰囲気、夜ならではの内省的な空気感があるからこそ、“ラストソング“のエネルギッシュなムードがより説得力を帯びていると思いました。
カモシタ:“夜が明けたら私たち“は山岳で生活する少数民族の人たちの映像を観たことがきっかけで書いた曲なんですよね。わたしより年下の子たちが、若いうちから親の決めた相手と結婚して他の街に行かなければいけないという内容で。いままで一緒にいた友達との別れの悲しさと、新しい場所にも出会いがあるはずだという希望を持たせた曲が書きたかったんです。人のつながりは呆気なく途切れたり、思い返してみるとあれが最後だったのかと思うことも結構あるし、新しい場所に行くための別れもあるはずだと思ったんですよね。
とものしん:サビも含めてメロディやコード感が淡々としたタイプの曲なので、演奏面でもなだらかな気持ちを大事にしましたね。デモをもらったときに彼女もそういう曲を作りたいんだろうなと思ったし、それをどうやってバンドで魅せる曲にしていくのかを考えるのは結構大変だったかな。ファーストEPの頃は自分のやりたいことばっかりやってたので、大人になったからこそこういう曲もできるようになったんだろうなと思います。
カモシタ:でも“ラストソング“はみんなが好き勝手してる感じがすごくいいなと思っていて。秀がアウトロのギターソロをいろいろ考えてくれて、Kaitoがそこにキメを合わせてくれたことを彼はすっごくうれしそうに話していて(笑)。
とものしん:全員が「この曲の主役は自分だ」と思ってる感じがいいですよね。俺も自分が主役だと思ってこの曲を聴いてるんで(笑)。
カモシタ:この曲もライヴで2回ぐらいやったんですけど、ステージから見るお客さんの表情からも「ああ、いまインナージャーニーはバンドとしてすごくいい状態なんだな」と毎回思うんです。もしこの人たちと出会ってなくて、バンドをやっていなくて、シンガーソングライターとして活動していたらこういう曲ができていなかったかも。
──お話を伺っていて、今作は4人全員がインナージャーニーとして音を鳴らせることに喜びを感じているからこそ生まれた作品なんだろうなと思いました。
カモシタ:活動しはじめて最初のうちは、ライヴで試しながらアレンジを変えてきていたんですけど、今回はお互いのこともわかってきたから、それをイメージしながら4人で集まって音作りをすることが増えて、自分の鳴らしたい気持ちを素直なままに音に乗せられたんだと思います。それぞれ見てる景色が違うぶん、それをどうやって混ぜていこう? と考えるし、それがうまい具合にできたんじゃないかな。わたしたちは4人で全然違うものを、同じ熱量と距離感でぶつけ合ってるなと感じていて。譲るところは譲るし、譲らないところは譲らない(笑)。それがすごく楽しいんです。
とものしん:インナージャーニーのやれることとやれないことが、なんとなく自分たちでわかるようになってきてるなと感じていて。だから『いい気分さ』でやれることの幅が広がったんだと思うんです。そのひとつの指針ができたことで、意味のある作品になったと思いますね。4人ともバラバラだし、4人ともお互いがやりそうなことがなんとなくわかってきた。それが曲になったのが『いい気分さ』だと思いますね。……俺も曲作らなきゃなあ(笑)。「カモシタサラが作曲してなくてもインナージャーニーになる」ということが証明できたことも、今作においてすごく大きなことだと思うんですよね。
──昨年リリースしたファースト・フル・アルバムが自己紹介なら、今作は決意表明かもしれませんね。
とものしん:確かに。決意表明ってすごくいいですね。しっくりきました。もしかしたら次はメタルっぽい曲が入るかも(笑)。この先インナージャーニーは、より自由になっていく気がします。

編集:梶野有希
充実感溢れる、サードEP『いい気分さ』
PROFILE : インナージャーニー
2019年10月1日、10代限定フェス〈未確認フェスティバル 2019〉出場をきっかけに結成。カモシタサラ(Vo/Gt) 、本多秀 (Gt)、とものしん (Ba)、Kaito(Dr) からなる4ピースロックバンド。カモシタが手掛ける幅広い世代の心を捉えて離さない楽曲とやさしく響く歌声、エモーショナルなバンドサウンドが各方面から絶賛され、2020 年にリリースされた1st EP『片手に花束を』はタワレコメンに選出。2021年3月にリリースしたデジタルシングル「グッバイ来世でまた会おう」は数々の公式プレイリストにリストインするなど注目を集め、 同年9月にリリースした2nd EP 『風の匂い』 は大きな支持を集めた。結成僅か1年半で 【 VIVA LA ROCK 2021 】 へ初出演し入場規制。これまで開催したワンマンライブ、主催イベントは軒並みソールドアウトを記録するなど、そのライブパフォーマンスも高く評価されている。2022年9月7日、待望の1stフルアルバム 『インナージャーニー』 をリリース 。 10月1日にduo MUSIC EXCHANGEにて開催した結成3周年記念ワンマンライブ〈インナージャーニーといっしょ vol3 内旅編〉がソールドアウト。2023年3月24日に公開された足立紳監督の最新映画『雑魚どもよ、大志を抱け』へ主題歌「少年」を書き下ろし、現在ヒット中。各メンバーがソロ活動 、サポート活動もおこなっており、ドラム Kaitoは俳優・櫻井海音として、映画やドラマ、舞台などでも活躍の場を拡げている。
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