J-POPを解体する新古典主義者たち──UN.a、5曲連続リリース最終作『INDUSTRIA』ハイレゾ配信スタート

5曲連続の新曲シングル配信というかたちで、2018年6月から『COLOR』『Melt in Dimensions (feat. ermhoi)』『Aggregate』『Stand Alone』を約2ヶ月間に渡りリリースしてきたUN.a。その最後を締めくくる『INDUSTRIA』のハイレゾ配信がスタートした。OTOTOYでは連続配信リリースを終えたUN.aの中村浩之と宇津木紘一のふたりにインタヴューを敢行。これまでの活動や楽曲制作への姿勢を語ってもらった。彼らは互いにさまざまなジャンルの音楽を吸収し、融合させながらも、UN.aの目指す音楽性を明確に捉えている。NYアンダーグラウンド、エレクトロ・アコースティック、アストル・ピアソラ、J-POPの形式美。今回ふたりの口から語られたさまざまなワードは、UN.aの根底にある“古典への敬意”に繋がっていた。彼らの音楽に感じる深さや奥行きの理由を、本インタビューから読み解いてみよう。
5曲連続配信シングルの最終作! ハイレゾ配信中!
UN.a/COLOR/MVUN.a/COLOR/MV
INTERVIEW : UN.a
ピアニスト/電子音楽家の中村浩之と、サックス奏者/ミキシング・エンジニアの宇津木紘一により2011年に結成されたUN.a (ユーエヌエー)。2015年にリリースされたアルバム『Intersecting』は、それぞれがクラシック出身、ジャズ出身でありながら、ともに幅広い音楽に精通しているふたりの懐の深さと射程の長さがうかがえる一枚だった。そんな彼らが6月20日リリースの「COLOR」を皮切りに、5曲連続でシングルを配信リリースし、9月29日にはそのシングル5曲に1曲を追加したEP「COLOR」を発表する。その音楽性はジャズ、クラシック、アンビエント、グリッチ・テクノ、ヒップホップ、ベース・ミュージックなどを貫通するエクレクティックで乱脈なもの。世界レベルで見てもフレッシュで稀有な作品となっている。今回はこのUN.aの中村、宇津木のふたりに話を訊いた。
インタヴュー&文 : 土佐 有明
写真 : 大橋祐希
最初はふたりでモチーフを持ち寄ってこれどうなんだろう? っていう実験を繰り返しますね

──おふたりが知り合ったきっかけは?
宇津木紘一(以下、宇津木) : 僕がエレクトロニクスに興味を持ちはじめたときに、Max/MSPというソフトに興味を持ちまして。でも僕はMaxを使えないので、誰か使える人いないかな? って探していたときに友人から紹介を受けたのが最初の出会いですね。
──UN.a以前のおふたりのキャリアは?
宇津木 : 僕はジャズ・ミュージシャンとしてサックスを吹いていて、オリジナル・バンドを作ったりスタンダードを演奏していたんですけど、途中から作曲もやりたくなって、クラシックの和声学とかも勉強していたんです。あとそのころ、坂本龍一さんとフェネスの共演作を聴いて、大まかにいってこういうことやりたいって思って。ジャズからああいう世界に入っていきました。
中村浩之(以下、中村) : 僕は大学をクラシックで出たんですけど、そのあと映画美学校で音楽を学びました。岸野 (雄一) さんとか菊地 (成孔) さんが講師、大友 (良英) さん等が特別講師にいて、元々そういう音楽に興味があったのですぐ好きになったんです。映画美学校なので映画の音楽やったり、大友さんの影響でノイズ・ミュージックやったりもしましたね。プログラムも自分で勉強してバンドもやっていたですけど、09年にクリストファー・ウィリッツっていう人がアメリカでやっているレーベルから、Maxで作ったEPを発売したのが最初のキャリアになります。それは電子音楽なんですけど、同時に独学でジャズ・ピアノとかも勉強していました。
──宇津木さんはジャズ畑、中村さんはクラシック畑という認識だったんですけど、そう簡単なものでもなさそうですね。
宇津木 : 僕はジャズをやろうと思ってたんですけど、フリー・ジャズまで行ったときにジャズより現代音楽に興味が湧いてきたんです。ジョン・ケージからミニマル・ミュージックに入ってそっちのほうが好きになっちゃって。掘り下げていって、中世のクラシックを聴いたりしてました。

──中村さんは美学校で学んだことが大きい?
中村 : 大きいと思いますね。それまでスタンダードなクラシック・ピアノをやっていて、作曲もアカデミックなほうだったんですけど、美学校でノイズとかおもしろそうだな思って大きく道を外していった。大友さんを恨もうかなと(笑)。僕も宇津木君も坂本龍一さんが好きで、クラシックとジャズ両方やってたから、そういう意味では趣味が合うっていうか。
宇津木 : 僕はECM系が好きで、パット・メセニーから入って、スティーヴ・ライヒ、キース・ジャレットを聴くようになって。ヨーロッパ寄りのものが特に好きだったから、北欧のジャズランドとかも聴いてました。
──作曲のプロセスは?
宇津木 : 最初はふたりでモチーフを持ち寄ってこれどうなんだろう? っていう実験を繰り返しますね。いまでも続いているのは、あえてあべこべに作るっていう。ピアニストじゃないけど僕がピアノのパート作ったり、サックスのメロディを中村さんが作ったり。どっちもやりにくいっていう(笑)。でもそこで力が出てなんじゃこりゃ? っていうものができるんです。
──普段使わない筋肉を使う、みたいなことですか?
中村 : それはありますね。僕は放っておくとつい弾きすぎちゃうから、それを一旦なしにしてもらえるし。そこは一緒にやってておもしろいところで、ひとりでやるのとは全然違うなっていう。
僕らはジャズ的な語法とかクラシック的なテクスチャーの両方を持っていた

──今回の5連続シングルのテーマの生楽器と電子音の融合っていうのは最初から考えていたんですか?
中村 : UN.aを結成した2011年当時はフォークトロニカが流行ってて、でもフォークトロニカにはもっと色んな可能性があっていいんじゃないかって思ってました。フェネスとかジム・オルークがいろんな実験をやっていたけど、もっと肉体的なものがあったらいいなって。
──フェネスの『エンドレス・サマー』がその方面の嚆矢だと思うんですが。
中村 : でも、あれもいわゆるフォークトロニカに回収されてしまうところもあって。僕らはジャズ的な語法とかクラシック的なテクスチャーの両方を持っていたので、そこら辺を加えるともっと新しいものができるんじゃないかっていうことを思ってました。
宇津木 : フォークトロニカ的なものをやるとしても、重い音を出したいなと思ってました。こういう風にすればアコースティックとエレクトロニクスが混ざるというのは分かるけど、もうちょい骨太なジャズ的なものとか、クラシックの伝統的なところががっつり入ってたらおもしろいだろうと。
中村 : 僕は宇津木君がノイズの上にビバップのフレーズをのっけたのがすごい衝撃を受けましたね(笑)。

──初めにどちらかがモチーフを持ち寄る作りかたですか?
中村 : バラバラですね。(5連続リリースシングルの) いちばん最後の『INDUSTRIA』は、宇津木君が4つのコードを用意して、僕がそれを発展させて色を付けました。あるいは僕が作った電子音楽に宇津木君がサックス乗せたり、完全に宇津木君がピアノ曲を作ったりとか。エレクトロニクスは僕がやって、コンポーズは宇津木君がやることが多いんですけど、そこら辺の役割分担は混然としていますね。
──お互いのミュージシャンとしてのスペシャリティはどんなところでしょう?
宇津木 : 中村君は変わらないところは本当に変わってなくて。いい意味で野心的なところが見えるし、つねに毒を持っている感じがします。それが嫌味な毒ではなくて、もう一回食べてみたいっていう毒を提供し続けているのが変わらない。
中村 : 僕から見ると、宇津木君みたいにノイズの上にビバップを乗せるようなセンスは僕にはないので(笑)、すごいなあと思って。僕は考えすぎるところがあるので、宇津木君はアーティスティックだなと。
──サウンド的にはWONKとかyahyelと通じるところもあると思ったんですが。
中村 : それたしかによくいわれるんですよ。変則的なリズムで、ちょっとおしゃれな雰囲気だとそう思われるんですかね。
宇津木 : 僕としてはWONKとかyahyelは周りから見ると近くにいるように見えるかもしれないけど、実はすごい遠くにいると思っています。というのも、僕らはR&B的なものはそこまでがっつりやってなくて、どっちかというとヨーロッパ的なことをやっていると思うんです。たとえばWONKにはハイエイタス・カイヨーテとかスティーヴ・マックイーンズとかを感じるんですけど、僕らはちょっと違うかなと。
──シングルでフィーチャリングしているヴォーカリストはどういう基準で決めましたか?
宇津木 : 2015年に出した『Intersecting』で全員が女性だったので、(5連続シングルの)最初は男性ヴォーカルで行こうっていうのは作る前から話していました。あと『Intersecting』は歌詞が全部英語だったので、最初は日本語がいいよねっていうのも決めていましたね。

僕らは逆に過去に縛られている世代
──英語の曲が多いのは海外のマーケットを視野に入れてのこと?
中村 : そこは難しくて。英語のほうが分かってもらえると思うんですけど、アジアの音楽だっていうのも見せたいところがあります。海外の若い子と話すと日本語を面白がってくれるし、これで英語だけにしちゃうと狙いすぎかと思って。海外の人からすると、日本語、韓国語、中国語ってほとんど差が分からないだろうと思うんですよ。だからアジア圏にいることって今重要だと思っています。あえて日本語と英語を混ぜてふわっとした表現にしたいですね。あと、作りかたは割とJ-POPっぽいんですよね。実は今回のシングルもJ-POPの解体みたいなことを考えていて。まあ、解体っていうのが00年代的ではあるんですけど。
宇津木 : A→B→サビっていう、J-POPの形式美を使っているところがありますね。
中村 : よく歌舞伎からの影響が大きいって言いわれますけど、J-POPの形式美っていうのは洋楽と大きく違うところですよね。で、その美しさは確実にあるし、そこから逃れられないとも思うので、そのなかでクラシック的なものを見せるということをやってみたい。A→B→サビが基本なんだけど、途中で即興が入ってきたり、細かく見るとポリリズムがあったり、ピアノのフレーズがズレていたりする。僕らの音楽が分かりづらいっていうのは、遠くで見るとJ-POPなんだけど、近くで見ると色々な要素が入っているからだと思うんです。別にあえて分かりづらいものを出しているつもりはないんですけど。
宇津木 : J-POPのほうは一定のフォーマットに落とし込んでいくところがありますけど、僕らは形式美を踏襲しながらも、そこで隠してもいいものをわざと出しているところがあります。聴いた瞬間に“なにこれ? ”って違和感を感じるところまで見せてしまうっていう。
中村 : あと歌詞に関していうと、「COLOR」と「Melt in Dimensions」が恋愛が終わったあとの話で、年齢層高めのリスナーを想定しています。どうしても若い人の曲って恋愛が始まる前後を描くことが多いんですけど、そのあとになにが残るかっていうところに興味があったので。そこも結構J-POPありきで考えていますね。既存のJ-POPを踏まえて、ちょっと違う歌詞にしようと。

──中村さんがクラシック畑出身というのは結構サウンド面に反映されているんじゃないですか?
中村 : 周りの人に“ジャズもやっているけど、君の自我はクラシックだよ”っていわれることが多くて、宇津木君もクラシック色出したほうがいいよっていってくれたんです。だから、今回ちょっとオペラっぽい感じにしたいなって思いました。オペラの形式として中間に間奏曲があって、終わりが盛り上がってジャーン! って終わるっていう。そこからの影響はありますね。
──クラシックでは誰からの影響が強いですか?
中村 : ショパンからの影響は結構出ているかもしれないですね。僕はショパンって特殊な作曲家だと思っているんです。というのも、彼は古典をすごく意識して作っていて、要はロマン派よりも古いことをやっているんですよ。あと、「一見食べられそうなキノコと勘違いして採って食べると毒にあたってしまう、僕はそんなキノコのようかもしれないけど、勘違いされるのは僕のせいじゃない」と自分の音楽について話していて、見た目は綺麗なんですけど、よく聴くとわけわかんないっていうところがある。だから、なんでショパンいいんだろう? って考えると、古典的なレイヤーがあるところが逆に新しいっていう。僕と宇津木君は古典をすごく大事にしているところがあって、WONKとかyahyelと違うのはそこだと思います。僕らは新しいことをしているっていう意識が全然ないんですよ。新しいっていうことで言ったら僕らなんかよりも実験的な音楽やっている人はたくさんいるし。特に若い子は過去に縛られていないのがいいなって思うけど、僕らは逆に過去に縛られている世代なので、そういう世代ならではの可能性を探っていきたいというか。
中村 : J-POPの形式を踏まえて古典を使うっていうのもそのひとつだし。たとえばJ・ディラのビートがかっこいいからとりいれてみよう、とかじゃなくて、NYアンダーグラウンドとかエレクトロ・アコースティックとか、古典化されているものをとりこもうと。結局、新しいことよりもいかに残っていくかっていうことのほうが今は大切だと思っています。今ってテクノロジーの進化が速い時代だなと思うので、そこであえて古典を持ちだしたらどうなるだろうって考えたんですよね。今の若い人たちの表現って、過去と断絶してもいいっていう勇気があると思うんですよ。でも、僕らはそこを真似できないし、違うものを見せないといけないっていう覚悟でやってます。WONKとかyahyelとかかっこいいいなと思うんですけど、もっと古典っぽいものがあってもいいんじゃないかと。
宇津木 : ふたりともジャズとクラシックをやっていて、それがクロスしているんですけど、同じ曲を見ても捉えかたは真逆なんですよ。そういう混ぜかたしている人はそんなにいない気がするんですよね。
中村 : お互いストリングス・アレンジできるっていうのも珍しいと思うんですよね。宇津木君も僕もビート・メイキングできるし、そこは珍しいし強みだと思ってますね。
──ちなみに海外のレーベルから出ることになったらどこがいいでしょう?
中村 : (即答で)アメリカン・クラーヴェですね。
──おお、キップ・ハンラハンの! ブレインフィーダーとかじゃないんですね。
中村 : ブレインフィーダーだとありがち……。いや、すごいね、分かるねっていわれるだろうけど(笑)。僕、(アメリカン・クラーヴェから音源を出している)アストル・ピアソラに毒されていて、色々混ぜるのもピアソラの影響なんですよ。あの人も色々混ぜた音楽をやっていたけど全然受け入れられなくて海外に渡って、それでもダメで、結構経ってからアルゼンチンに帰ってきて国賓扱いされるっていう、おもしろい人なんで。ピアソラ見ていると、変なものを色々混ぜるやりかたも、それやり続けるとスタンダードになるって思えるんですよ。今ピアソラが生きていたら電子音混ぜるでしょって思うし。だから僕らも、思った以上に受け入れられてるなって思って。『Intersecting』出したときも思ったより評判よかったなっていうのが正直なところで。僕らみたいな音楽みんなそんなに興味ないだろうなって思ってたんですけど、意外と受け入れられてるな、音楽好きなんだなーって。だから、全然悲観はしてないですね。

『INDUSTRIA』のご購入はこちらから
UN.a 5曲連続リリースシングルと1stアルバムもハイレゾ配信中!
(新→旧)
LIVE SCHEDULE
〈UN.a/COLOR Release Party〉
[9/29(土) at 7th FLOOR]
<出演>
UN.a ”UN.a Chamber Ensemble”
There is a fox
machìna
UN.a ”Chamber Ensemble”
Guest Vo: Utae,ermhoi
Ba: Ryuki
Strings: Hiro Nakaura(Vn)Hiroki Tomiyama(Vla)Takaya Anada(Vc)
OPEN 19:00 / START 19:30
ADV2,500 / DOOR 3,000(D別)
【詳しいライヴ情報はこちら】
http://7th-floor.net/schedules/view/3807
PROFILE
UN.a

ピアニスト、電子音楽家の中村浩之と、サックス奏者、ミキシングエンジニアの宇津木紘一による音楽グループ、プロデュースユニット。
クラシック出身とジャズ出身という違うフィールドの2人でありながら、共同で作曲、演奏、エレクトロニクスを駆使する。 その音楽は、ブラックミュージック、ジャズ、クラシック、アンビエント等と様々な音楽を融合し、膨大な情報量を有している。
2015年9月13日に1st album「Intersecting」を発売。 プロデュース等個々で活動していたが、2018年から活動を再開する。
【公式HP】
https://www.unamusic.info/