
ニューヨークの女性シンガー・ソングライター、メレディス・ゴドルーことグレゴリー・アンド・ザ・ホークが、新作『Leche』を完成させた。「旅」をキーワードにした、極上のポップ・アルバムは、ツアーでの経験が大きく作用しているのだろうか? 彼女のソングライターとしての成長ぶりがうかがえる。アコースティック・ギターとヴォーカルのシンプルな構成に加え、異国情緒ただようバロック調のハープ、耳を惹くフックやノイズの断片が随所にちりばめられている。そして、何といっても歌声が素晴らしい。彼女の息をのむような歌声は、慎ましく、家庭的で親しみやすい。チャーミングであるのだけれど、同時に憂いも感じる。
彼女は手書きの絵を添えた段ボールをケースにしたCD-Rを販売したり、本作にも参加している、アダム・ピアーズ率いるマイス・パレードのミュージック・ビデオを作成するなど、楽曲制作以外の分野でも大いに才能を発揮している。彼女の作り出す作品は、どれも手作りの感覚が残る温かなものばかりだ。その温もりは、どのようにして生まれ、どこへいくのか。
インタビュー&文 : 井上沙織
翻訳 : 川野栄里子
GREGORY AND THE HAWK / Leche
アダム・ピアーズ(マイス・パレード)がプレイヤー&制作スタッフとして参加した、素朴で温もりあふれるアコースティック・サウンド。
1.For the Best / 2.Landscapes / 3.Over and Over
4.Soulgazing / 5.Geysir Nationale / 6.Frebeight
7.Olly Olly Oxen Free / 8.A Century Is All We Need
9.Leaves / 10.Puller Return / 11.Hard To Define
12.Dream Machine / 13.Tin Can Ride
INTERVIEW
——あなたが曲を書きはじめたのはいつ頃からなのでしょうか?
15歳のときに、ギターを弾いて自分の曲を歌う人達をみて、「私もやってみたい! 」と思ったのがきっかけです。曲を書くことにとても情熱を感じたの。それからギターを手に入れて、曲を書きはじめました。
——本名のメレディス・ゴドルーではなく、グレゴリー・アンド・ザ・ホークという名前で活動しているのは何故なのでしょうか?
活動していく上で、本名よりももっと良い名前があるだろうと考えたんです。私は、フォーク・シンガーとしての自分と作品を一緒くたにしたくなかったの。名前よりも音楽そのものが多くを語ることを望んでいるし、それはすべてのアーティストが望むことじゃないかしら。
——あなたが生み出すもの、声、曲、そして音には、温もりを感じます。ルーツはどこにあるのでしょうか?
そう言ってもらえて嬉しいです。きっと、ほっとするような、気持ちが楽になるような曲を書いていることと、演奏しながら自分自身でもあたたかさを感じたいと思っているから、そう聴こえるのだと思います。演奏中は、心を自由にさせるようにしています。
——『Leche』は、エキゾチックなハープの音色や、なじみ深いギターの音ひとつひとつが、とても心地良く感じられました。制作にはどの位の時間を要しましたか?
2年ほど前から、私は自分の練習している時の音を録音することを始めたの。そうすればその中で自分が気に入ったメロディーに出会った時にまた聞き返せるから。PCは記録したデモのおかげで動きが遅くなってしまいました。そこから気に入った楽曲があればオーバーダブを施して完成させたり、それらのいくつかは、『Moenie and Kitchi』のときのように、アダム・ピアーズ(マイス・パレード)とともに様々な方法で磨き上げましたが、今作の大部分は仮のデモ音源から取り上げたものです。面白いことに、今回のこの制作については、いつ出来上がるのかわからなかったの。アルバムの内容すべてが散乱した状態でした。このアルバムのマスタリングは2回もする必要があったの。何故なら私はどの曲を使うかさえ決めることができなかったから。「Leaves」は私のお気に入りのトラックのひとつですが、最初に私たちがマスターを完成させた時には、この曲は書いてさえもいませんでした。どうなるかわからない不安感が、より納得のいく作品を作り上げたのね。

——本作は、旅行から影響を受けたと伺いました。具体的に、どこへ行き、どんな影響を受けたのでしょうか?
私は2年に渡る初めてのツアーに出たわ。日本はすべての場所の中で、一番インスピレーションを受けた場所だった。文化、食べ物、そして気候など、ニューヨークとは全く異なった。一回の旅で、こんなにも笑顔になれたことなんてこれまでになかったわ! そして、日本では英語が十分に通じないから、普段のようにコミュニケーションすることができないでしょう。そこで経験したことは夢のようであったし、たくさんの新たな発見をして家に帰ってきた。『Leche』は、旅を通して経験したことを総括した、これまでで最もコンセプチュアルな作品です。多くの不安、恐れ、そして現実に直面した作品になったと思います。新たなシチュエーションで最善を尽くしましたが、ひょっとしたら未完成な部分を感じるかもしれません。
——ニューヨークの音楽シーンについて教えてください。
ニューヨークにはたくさんのバンドがいて、様々なタイプのバンドのショウを観ることができます。ただ、もしあなたがミュージシャンだったら、ショウは簡単にできるけど、お金をもらうことは難しいと思うわ。ミュージシャンは、周りの人と支え合って活動しています。
——あなたにとって、うたを歌うことはどのような意味を持ちますか?
日々の生活の中で、文章を話すことがばかばかしくなることがあります。けれど、私にとって歌うことはとても心地良いものなの。
——アダム・ピアーズは、前作ではプロデューサー、今回はプレイヤー&制作スタッフとして参加しているそうですね。彼との共同作業は、あなたにどんな影響を与えますか?
私達はブルックリンのショウで共通の友人を通じて出会いました。アダムはおもしろく、クリエイティブな人よ。彼は「完璧である必要はない。音楽は完璧なものじゃないんだ」と言うけれど、彼が創作するところをみてみると、とても正確なの。注意を払う一方で、感情に任せて自由に創作するということは、作品にとても良い影響を与えます。彼は「本当に伝えたいことを音楽が表現しているか? 」と自分自身に問いかけることを教えてくれたわ。
——1月には、マイス・パレードと共に再来日されますね。日本でしたいことは何ですか?
日本でまた演奏出来ることをとても楽しみにしています! 素晴らしい時間を過ごすこと以外はノー・プランよ!
胸に響くヴォーカル
Joanna Newsom / Have One On Me
未曾有の体験、未曾有の感動! ハープを抱いた歌姫ジョアンナ・ニューサム。フル・オーケストラを配し、唯一無二のジョアンナ・ワールドが展開される。10分を超える大曲から、2分弱の小品まで、おそろしく完成度の高い楽曲の充実ぶりに加え、時にジョニ・ミッチェルを彷彿させる、よりいっそう表情豊かになったヴォーカルも実に素晴らしい。
ふくろうず / ごめんね
都内を中心に活動する4人組。既にライヴでも披露している人気曲「マシュマロ」、そして「ごめんね」をリード・トラックとした全9曲を収録。前作同様、スーパーカー、クラムボンやキセル等を手掛けた益子樹氏をレコーディング&マスタリング・エンジニアに迎え、さらにレンジを広げたポップ・センスを堪能できる。
PROFILE
GREGORY AND THE HAWK
2008年末にファット・キャットからリリースした、アダム・ピアース(マイス・パレード)のプロデュースによる正式デビュー・アルバムがロング・セラーとなっているニューヨークの女性シンガー・ソングライター、メレディス・ゴドルー=グレゴリー・アンド・ザ・ホーク。アコースティック・ギターとヴォーカルを中心にしたシンプルな音作りとチャーミングな歌声で、温もりあふれる世界を作り上げている。2011年1月末のマイス・パレード・ジャパン・ツアーのサポート・アクトとして来日決定している。