健やかにというひそやかながらのメッセージ

──今回、ミックスまで共同作業をしたhacchiさんや、マスタリングの中村(宗一郎)さんと、最終的な音像のイメージとかそういうのは話したんですか?
ミックスの方向性として『A View』にしても、『horizons』にしても、一般のCDに比べたら、少しだけヴォリュームや音圧が小さめかもしれません。ドーンとしたバキッとした音像音圧の作品とか、最新音響への憧れももちろんあります。なのですが、いまの自分の好みとして、あとは自分の現在の実力と合わせて、hacchiさんともそこは非常に悩んだり、やりとり確認し合う中で、今現在はこのような音に仕上がっているように思います。マスタリングは、今作も中村宗一郎さんにお願いさせていただきました。もうなんと言いますか、自分にとっては、中村さんを通すこと、確認していただき施していただくことで、その作品が世の中に出るということだけで自分の中では安心感があって、もうそれでOKと言いますか、ありがたい限りだと思っております。
──『horizons』というタイトルとジャケットのアートワークなどは。
『A View』=「眺め」からの発展として、地平線という意味合いももちろんあるのですが、どちらかというと、次なる展望、視点というような意味合いをこめたところはあって。そこからの発展として、鈴木(聖)さんが、ジャケット・アートワークを素晴らしく表現して提案していただけたように思っております。アートワークも非常に気に入っております。
そういえば話は少し変わるのですが、『horizons』は最終的にこういう形になったのですが、実は、構想の段階ではヴォーカルやラップを入れれたらというようなこともひそかにイメージしていたんです。ただ、やはりまだ自分のなかで、この音楽に対してどういうやり方でヴォーカルやラップをオファーして取り入れていいのかわからなくて、辿り着けず…… 実現できませんでした。しかし、それもあって今作ではヴォコーダーを使って、トラックを構成する音の一部として機能させてみました。そこで「長寿十訓」のイメージをやんわり伝えることにして。作品全体としての「散歩」というテーマも含めて、やんわりと「みなさん健康でまいりましょう」と、健やかに、というひそやかながらのメッセージをこめさせていただきました。
──さて、ライヴのお話をと思うんですけど、これまでのライヴは演奏の要素としては音源的に『A View』の再現ライヴという側面が強かったと思いますが、今回は住吉清隆さんの映像と内田直之さんのミックスという3人体制は変わらずですが、新しい『horizons』のリリース・パーティというのもあって、そのサウンドとしての要素も加わってきて、変化があると思うんですが。
いま現在自分ができること、プラス、次への展望も含めて鋭意チャレンジできたらと思っております。『A View』と『horizons』のサウンドの要素を元に新たな領域へトライできたらと……あとは当日のお楽しみということで是非ともというところで。〈WWW〉はもともと映画館だったということもありますので、ステージ上あのスクリーンに映し出される住吉清隆さんによる映像世界、そして、新たにデジタル・コンソールが導入されたばかりのあの空間で内田直之さんによる音響と合わせて新たな音楽体験をお楽しみいただけるように鋭意ワクワクに挑めたらと思っております。ベストを尽くしてみます!
──さて今回オープニング・アクトに、滋賀の中学1年の全盲の女性、ANJIさんが出演しますが。脱線3のM.C. BOOさんの紹介とのことですが。
昨年、秋のある日、BOOさんからインスタのDMで、「松永さんお好きかなと思って」とメッセージをいただきまして、ANJIさんのライヴやインスタで発表されている動画作品のリンクを送っていただきました。BOOさんは現在ヘラルボニー(編注3)に所属されていて、ヘラルボニーがサポート契約する滋賀県甲賀市にあるアートセンター&福祉施設「やまなみ工房」、そこにANJIさんのお父様が職員として務められているんですね。
BOOさんがヘラルボニーの仕事で「やまなみ工房」に行かれたタイミングで、そこで施設長さんから、ANJIさんのこと、お父様を紹介していただいたということなんです。そこからBOOさんが自分にANJIさんのことを教えていただいた。という、きっかけはそういった経緯になります。
最初に教えていただいたのは、ANJIさんのライヴ動画で“Reggae UFO”というレゲエの曲があったのですが、なんというんでしょうか……言葉で簡単に表現するのが難しいのですが、すごく魅了されまして、イントロ含めて、無垢でなんともスピリチュアルな感覚と宇宙観、そして決して狙っては出せないような、未完成の危うさと中学1年生らしい純粋な音楽の魅力といいますか。絶妙にフレッシュで豊かな音楽の魅力をそこに感じたんです。
編注3 : ヘラルボニー : 岩手県盛岡に拠点を置く企業。主に知的障害のある作家とライセンス契約を結び、アート作品などを様々な形で世に送り出す、しっかりとビジネスとしてマネタイズすることで障害者の自立を促している。
詳しくは下記WEBページにて。
https://www.heralbony.jp/
──ちょっと“Reggae UFO”はオーガスタス・パブロ感も感じたりしました。
確かにです。なるほどですね。あと“雨の中の散歩”という曲では、琵琶湖のほとりをお母様と一緒に散歩するMV的な映像作品がありまして、そこでの楽曲と映像を合わせてグッと惹き込まれました。
編注4 : 上記のANJIのINSTAGRAM動画は以下に
ANJI「Reggae UFO」https://www.instagram.com/reel/C7JkJAePUq8
ANJI「雨の中の散歩」https://www.instagram.com/p/C81fbUGy4e2/
3月6日の自分のワンマン公演を行うことが決まってから、もしも可能性があるならばと……かなりのチャレンジではあったのですが、ANJIさんにオープニング・アクトとして出演いただけたらと勝手ながらの妄想をさせていただきまして、そこから思いきって各所へ相談させていただいたという経緯になります。そこからBOOさんや〈WWW〉スタッフのみなさんのおかげもありまして念願かなってANJIさんの出演が実現することになりました。当日〈WWW〉のあのステージとPAブースで、ANJIさんと内田さんが向かい合いながら音の対話やりとりする光景を見れることを想像するだけでもたまらなくワクワクしてしまいます。そのパフォーマンスからどんな音世界や音宇宙が広がるのかとても楽しみなんです。
──なるほど。
そして、実は、公演当日に間に合うように、ANJIさんのデビュー作となる7インチ・レコードのEPの制作を進行させておりまして、当日会場で先行発売をできたらと思っております。M.C.BOOさん、hacchiさんと共に少しお手伝いさせていただきました。お楽しみにどうぞよろしくおねがいいたします。そして、この日は、私のアルバム『horizons』のアナログ・レコードLPも当日の会場でようやくお披露目ができそうです。おかげさまでアートワーク、音質共に非常に満足のいくバッチリな仕上がりとなりました。こちらもこの日に会場にて先行発売できたらと思っております。ぜひともよろしければです。どうぞよろしくお願いいたします。
『horizons』ハイレゾ版配信中
その電子音の解像度、空間をそのまま音源へと閉じ込めたような音響はぜひともハイレゾにて、それぞれのサウンドの消えゆく様も含めて楽しむことをオススメします。とくにフォールド・レコーディングにて採録された自然音の微細な空気感と、そのまま空気から生まれでたような電子音が交差するビートレス・トラック“horizons 5”は、高音質の解像度でさらなる音の心地よさがよりよく理解できるはず。
コチラらロスレス(CDと同等音質)版も配信中
3月6日(木)@渋谷WWWでワンマン・ライヴ決定
詳細、前売りチケットなどの詳細は以下、WWWの公式サイトにて。
https://www-shibuya.jp/schedule/018698.php
配信中のCOMPUMA関連作品
選・文 : 河村祐介
夏目知幸のSummer Eye、2023年のアルバム『大吉』より、ブーンバップ的なリズムが印象的な“白鯨”をCOMPUMAがリミックス。『horizons』とも地続きな感覚のヴォコーダー・ヴォイスが印象的な野太いエレクトロへとリミックス。本リミックス・アルバムには、XtalやToreiといったDJ陣とともに、No Buses、近藤大彗が参加。
OGRE YOU ASSHOLEの2019年のアルバム『新しい人』より、“朝”を、ドクター・ニシムラ、アワノ、コンピューマによるDJユニット、悪魔の沼名義でリミックス。どこかスクリュードしたカルトなイタロ・ディスコを思わせる、飛びそうで飛ばない、低速、低空なサイケデリックでコズミックなリミックスへと変換。
Asteroid Desert Songs(A.D.S.)の活動休止後、マジアレ太カヒRAW(故人)、コンピューマ、アキラ・ザ・マインドにより1997年に結成されたエレクトロ・ヒップホップ・ユニット、スマーフ男組。ウィットとユーモアに富んだ、フレッシュなエレクロ・ヒップホップ偏愛に満ちた、2000年代東京アンダーグラウンド・シーンの、世界を見回してもどこにもない、シーンのマスターピースとも言える1枚。
スマーフ男組の初期の音源を含む1998年のエレクトロ・ヒップホップ偏愛コンピレーション。DJビートやライムスターのミスター・ドランク(マミー・D)などヒップホップ・シーンから、中原昌也(ヘアスタ名義)、L?K?O、そしてHIP HOP最高会議周辺まで幅広くユナイト。1990年代後半のアンダーグラウンド・シーンの局所的なエレクトロ・ヒップホップ・リヴァイヴァルのドキュメントでもある。ジャケットは故ラメルジー。
PROFILE
COMPUMA
松永耕一、熊本生まれ、ADS(アステロイド・デザート・ソングス)、スマーフ男組での活動を経て、DJとしては国内外の数多くのアーチストDJ達との共演やサポートを経ながら、日本全国の個性溢れる様々な場所で日々フレッシュでユニークなジャンルを横断したイマジナリーな音楽世界を探求している。自身のプロジェクトSOMETHING ABOUTよりMIXCDの新たな提案を試みたミックス「SOMETHING IN THE AIR」シリーズをはじめ、コレクティヴ「悪魔の沼」での活動でのDJや、楽曲制作、リミックスなど意欲的に活動。2022年には初のソロ名義アルバム「A View」をリリースした。Berlin Atonal 2017、Meakusma Festival 2018への出演、ヨーロッパ・ラジオ局へのミックス提供など国外での活動の場も広げる。一方で、長年にわたるレコードCDバイヤーとして培った経験から、コンピレーションCD「Soup Stock Tokyoの音楽」の他、BGM選曲を中心にアート・ファッション、音と音楽にまつわる様々な空間で幅広く活動している。2024年9月、2年ぶりとなるニューアルバム「horizons」をリリース。Newtone Records、El Sur Records所属。
公式サイト、ショップなどは以下のリンクにて
https://linktr.ee/compuma