常に4人で面白いと思えるものを探してる
──セカンドはいわゆるエモ・リバイバル直系だったファーストのサウンドから大きく音楽性の変化を感じました。エレクトロやダンス・ミュージックの要素を取り入れるきっかけはなんだったんでしょう?
Tomoho : 中学生のころから電気グルーヴやダフト・パンク、エイフェックス・ツイン、デッドマウス、スクエアプッシャーとか有名どころは聴いていたんです。バンド始めてからはそうしたダンス・ミュージック聴く機会は減ってたんですけど、Katoが機材車で流してくれたり、情報交換することが増えて。それで去年の春くらいにPeterparker69を教えてもらったんですけど、1番はそれに影響を受けた感じですね。
Kato : Peterparker69に関しては悔しいです、凄すぎて。日本のアーティストはあんまり共有しないんですけど、このアーティストだけは例外でしたね。

──Tomohoさん的にはPeterparker69を聴いて、自分のバンドでもそういった音楽にトライしてみようと素直に思ったんですか?
Tomoho : そうですね。ジャンルで聴かず嫌いするタイプでもないし、打ち込みの音は好きなんです。ファーストを作ったあと、早いエイトビートやエモ・リバイバルっぽいツインクルなギター・フレーズに飽きちゃって、なにを作っても良く聴こえなくて。そこで1回ダンス・ビートの曲を作ってみたら、すごくしっくりきたんです。
──こうした大きな変化があったうえで、曲作りはどのように進めたんですか?
Tomoho : ファーストで作っていたエモ・リバイバルや変則チューニングのギターって、ハイパーポップとか最近のクラブ・ミュージックの音色に混ぜるのが難しくて。参考になる音源もないですし。正直な話、曲作りという部分ではいまもどうしたらいいのか正解が分かってないんですよね。サンプリングの概念すら知らなかったので。KatoにAbleton Liveでの素材の探しかたと入れかたを教わって、いまは独学でいろいろやっている感じです。ファーストのときはリファレンスがはっきりしていたので、コスプレ感というか真似していて楽しいみたいな感覚があったんですけど、いまはライヴでの音のミックスの仕方だったりずっとメンバーと試行錯誤してる感じです。
──なるほど。今回のアルバムのモードで作った1番最初の曲はどの曲なんでしょう?
Tomoho : “Pure Magic” ですね。打ち込みで作る音楽ってバンドと考えかたが全然違うので、最初は上手くいかなかったです。1回リリースしたんですけど、納得いかなくて録り直してパート2を作りました。
──バンドメンバーとしては、このモードに入るのはスムーズに受け入れられたんですか?
Mikuru : 違和感はなかったです。
Kotaro : 自分も高校生のころからダフトパンクをはじめエレクトロが好きだったんですよね。でもまさかこのバンドがこうなるとは思わなかったです。ただ、加入したときからANORAK!はTomohoがやりたいことをやるバンドだと思っていたので、Tomohoがやりたいように変化していく分には違和感はないですね。
Tomoho : 元から「こういうバンドをやろう!」っていう話で始まったわけではないんです。メンバーはみんないろいろな音楽を聴く人なので、特定のジャンルに向かっていく意識はないですね。
Kato : 仲良くバンドができればいいよね。
Tomoho : 常に4人で面白いと思えるものを探してます。飽き性なので (笑)。
Kotaro : 他のメンバーがいいといったものが刺さるとは限らないんですけど、Tomohoが昇華したものを聴くとかっけえな、って思います。
Tomoho : 最近の曲作りは、メンバーと音楽の話をしていくなかでインスピレーションをもらうことが多いです。作りはじめると僕の独りよがりになるんですけど。

──“Pure Magic” からこのモードが始まったと仰っていましたが、その段階でアルバムを意識した曲作りをしていたんですか?
Tomoho : 音の方向性でいうと行き当たりばったりでした。PerterParker69に触発されて、打ち込みで “Pure Magic” を作ったのはいいけど、ライヴセットに入れたときに1曲だけオートチューンと同期を使った曲があるのが気持ち悪くて。やるんだったらシーケンスとバンドを融合させたセットをフルでやりたかった。途中で飽きてバンドだけの曲を作ったりもしつつ、曲を貯めていきました。リリース時期はなんとなく決まってたので、コンセプチュアルなものを作りたい気持ちを抑えて曲順を決めて。結果的には自分が思ったよりもバンドだけの曲が入ってきた感じですね。
──この前の〈渋谷WWW〉のワンマン・ライヴ〈Birds Nest ANORAK! ONEMAN〉ではファースト、セカンドの曲が完全に1部2部みたいな感じで分かれてたと思うんですが、あれは意図的なものですか? 今後はどうなっていくんでしょう?
Tomoho : ワンマンは時間が長かったのもあってああいうかたちになりました。ファーストとセカンドの曲では、世界観やトーンに圧倒的な隔たりがあるから、新旧の曲を織り交ぜてセトリを組むのが難しくて、2部構成になったんです。アルバム出してからのセットリストは曲調でトーンを揃えてやることになると思います。
──〈FUJI ROCK FESTIVAL'24〉では、セカンドの曲だけだったんですよね。
Tomoho : 大体僕がセットリストを決めてメンバーにLINEで共有して決めるんですけど、フジロックは “SONIC” から始めたいよねって話で他の曲も決めて、メンバーも「いいね」ってなってたんです。でも、いざライヴをやってみるといろんな人に「攻めすぎ」「全部新曲はやばすぎる」って言われて。でもそこは確信犯だったし、メンバーみんなもこのセットリストでOK出したのに、「古い曲やればよかった」って反省してて、「こいつら本当にしばく」って思いましたけれど (笑)。
Mikuru : 俺はなんとも思ってないです (笑)。お客さんがなにを言おうがどうでもよくて、これがいまのANORAK!だぞって思って演奏したんですけどね。
Tomoho : 言いかたは少し強くなっちゃうんですけど、お客さんの反応は本当にどうでもよくて。俺が楽しければいいし、4人が楽しめるのが1番なので。時間の経過とか気分で、飽きたりダサいなって思う部分が出てきちゃったりするから、やりたくないときはやりたくないんです。
Kato : メンバーが楽しいのが1番いいですよね。お客さんもメンバーも楽しいのがベストだけど、一致するのは絶対無理なので。
Tomoho : 俺はフロアほぼ見てないしね。この前のワンマンは特に。すごいアルペジオしながら違うリズムで歌いながらシーケンス聴いて合わせるとなると忙しくて、お客さんを見る余裕もないんですよ。
Kotaro : 僕は見てたんですけど、いい意味でポカンとしててよかったです。