音楽ライターが選ぶ今月の1枚(2022年3月)──石井恵梨子

パンク、ロックをメインに様々なメディアで活躍するライター、石井恵梨子が選んだのは、YUNOWA『What a mess』。YUNOWAはジャズやR&B、ダブなど様々な要素を重んじながら京都を拠点とするバンドだ。石井恵梨子が聴いた瞬間からインパクトがあったという、YUNOWAのEP。即興なセッションからうまれた楽曲を収録をした本作には、どんな魅力があるのだろう。また「YUNOWAとあわせて聴きたい」をテーマにセレクトされた10曲入りのプレイリストには、ジェイムス・ブレイクやdownyなどを収録。あわせてお楽しみください!
REVIEW : YUNOWA『What a mess』
文:石井恵梨子
おすすめ作品のレビューと聞けば、書き手がすでに知っている注目の気鋭、まだ知らない皆様にいち早くご紹介します……みたいなスタンスを想像してしまう。なので、まず、この企画を通じてはじめて知ったことから白状します。なにこれかっこいい! の衝撃のみで筆を走らせているので、いまからはじめてこの音に触れる皆様と目線はまったく同じです。
YUNOWA(ユノワ)。2018年12月に始動した京都のスリーピース・ロック・バンド。地元ライヴハウス、GROWLY店長は2019年夏の段階で「突如現れた」「待ってました感全開」と熱量高く喧伝しているので、おそらく最初から音も存在も突出していたのだろう。次第に研ぎ澄まされていったライヴ現場を想像すると、立ち会えた人たちが羨ましくて仕方ない。
プロフィールには「ジャズやR&B、ダブ等様々なテイストを含みつつも、抑制と隙間を追及したアンサンブル」との一文が。ここに加えるなら、ジェイムス・ブレイク以降のアンビエント感覚があり、プーマ・ブルーあたりの夢心地メランコリーもあり。中性的なヴォーカルと散文的な日本語詞、モノクロの色彩がよく似合うポストロックの音像はdownyにも通じそうだ。約20年前に現れたあの陰影と緊張感に、ソウルやサイケを加えてふわりとアップデート。そんな喩えが私にはいちばんしっくりくる。要は相当ハイセンス。毎度ベースラインに感嘆する。音数を極力減らし、最低限の骨組みを残すことで逆に無限の宙を想像させる構成は、海外では超クールな「禅の精神」と映るのだろう。
そういうセンスの鋭さと同時に、3人の生々しい息遣い、いわばバンドのバンドたる所以がしっかり感じられることが私の耳をいちばん惹きつける。たとえばラストナンバーの“W.A.M.“。3人がどれだけの熱量と集中力で音を交換しあっているか、居合術のごときセッション風景が浮かんでくるし、基本的には淡いトーンのヴォーカルにぐっと力が入り一瞬だけ濁声が混ざってくるところ、まさに魂の振動という感じでゾクゾクする。人間同士が生み出す共振とダイナミズム。やはり、バンドにはこれがなくては。
さらに3曲目“微風“の柔らかさもいい。意外なレッチリ風ギターからはじまる1曲で、歌詞やメロディはなかなかにフォーク寄り。相当ハイセンスと書いたばかりだが、妙に懐かしいこの曲があることでミニ・アルバムの印象はだいぶ変わってくる。気難しい人たちじゃないのね、という感じで。
本作について「こうした時代だからこそ、会うことで生まれるマジックが込められたと思います」とのコメントがある。考えてみればYUNOWAの活動期間は半分以上がコロナ禍だ。いつでもどこでも直接対面可能ではなくなった時代、一緒に居合わせないとなにもはじまらないバンドの、厄介な愛しさ、みたいなものを痛感したのではないか。繰り返すがモノクロの色彩が似合う音。だがそこには差し込む光の気配がたっぷりある。いますぐにでもライヴが見たい。
YUNOWAと一緒に聴きたいアーティスト10組
・James Break「Overgrown」
・Puma Blue「Only Trying 2 Tell U」
・Jeff Backley「Grace」
・downy「夜の淵」
・downy「砂上、燃ユ。残像」
・uri gagarn「Lion」
・Red Hot Chilli Peppers「Snow」
・betcover!!「決壊」
・坂本慎太郎「未来の人へ」
・ermhoi「Dream Land Song」
WRITER PROFILE:石井恵梨子
音楽ライター。1997年からパンク、ロックをメインに執筆活動を開始。
■Twitter:https://twitter.com/Ishiieriko
YUNOWAの過去作もチェック!
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・ Makoto Nagata 『Winter Mute』
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