自然体で、楽しんで、道を切り開くということ──Boris『W』鼎談 : Wata × シュガー吉永 × TOKIE

コロナ禍においてBorisは留まることなくリリースを続けてきた。Bandcamp上での過去作のリイシューからライヴ音源、未発表曲をコンパイルした作品の数々。そして二作品でイマ(NOW)を表した、全くキャラクターの異なるアルバム『NO』と『W』。さらにそのアルバムの間にはアメリカのギター・エフェクター・ブランド、EarthQuaker Devices(EQD)と共同開発したWataのシグネチャーFUZZ 「Hizumitas」を使用した“Reincarnation Rose”のシングルをリリースしている。
連作の2作目であるニュー・アルバム『W』の制作には、サウンドプロデューサーとしてBuffalo Daughterのシュガー吉永、ゲストベーシストにTOKIEが参加。この二方はまた、全身ダークメルヘンなコスチュームに身を包んだMVが印象的な“Reincarnation Rose”において、吉村由加(ex.DMBQ/OOIOO)と共に女性プレイヤー4人からなるBorisとして参加している。国内外ともに幅広い活動をしてきたBoris、Buffalo Daughter、TOKIEは今回いかにして邂逅することとなったのか? 活動期間も近しいWata(Boris)、シュガー吉永(Buffalo Daughter)、TOKIEによる鼎談からは、長年自分自身の道を切り開いてきた鍵となるであろう、ポジティブなクリエイティブへの態度が垣間見える。
INTERVIEW : Boris

BorisはTakeshi(♂)、Wata(♀)、Atsuo(♂)によるロックバンドであるが、Wataのことを(もはやいまとなっては死語に近いが)「紅一点」と語る人をあまり見かけたことがない。中性的というのとは違って、ものすごくヘヴィで凶暴なノイズが鳴っているにも関わらず、腕力勝負のマチズモは希薄、最終的には繊細さや妖艶さが際立っていく印象があるのだ。さらに昨年のシングル「Reincarnation Rose」で彼らは全員女性構成バンドのMVを公開。こちらも「らしいな」と思いはしたが「これってBorisじゃない」とはまったく思わなかった。奇妙な話だ。つまりBorisのジェンダーは玉虫色? それはWataの存在なのか、バンド全体の姿勢から来るものか? ゲストにベーシストTOKIE、プロデューサーにBuffalo Daughter/METALCHICKSのシュガー吉永、アートワークに友沢こたお等、過去最高に女性クリエイター参加率が高い最新作『W』。本作のリリースを機に初の特別鼎談を敢行。ここから見えてくるのはバンドの比類なきユニークさだった。
インタヴュー&文 : 石井恵梨子
写真 : 松島幹
シュガーさんのエレクトロニカはすごいオーガニック
──お三方の出会いから教えてもらえますか。
Wata:出会い……。Borisが『DEAR』ってアルバムを出したときに、シュガーさんは『DEAR』のアートワークをやってくれた河村(康輔)くんと知り合いで、一緒にBorisのライヴに来てくださってたんですよ。そのときはちゃんと話せなかったんですけど。
シュガー:人がいっぱいいたもんね。もちろんBorisの音や存在は昔から知ってましたけど、それまで交流のきっかけがなかなかなくて。だから、出会いでいえばそれが最初。そのときにAtsuoさんとかメンバーと話をして。
Wata:その後に、2019年頃だったと思うんですけど、EarthQuaker Devices──EQDっていうアメリカのペダルブランドがあって、その集まりに招待していただいたんです。この2人ともEQDを使ってるから、そのときにはじめて2人が揃ったんですね。私はそのときにはじめてお二人と話をしました。
シュガー:それこそ隣の隣の席ぐらいにいたから 「はじめまして」って。
Wata:もちろん私も、お二人の存在自体は長らく知ってはいたんですけど。
TOKIE:私もそうです。ある時期から急に友達が「大好きなバンドにBorisっていうのがいてね」って聴かせてくれたり、あとは共通の知り合いがSNSで「Boris」ってつぶやいてたり。そういうことが重なって、なんかすごくBorisが気になってたんです。いろいろ検索して、まずはヴィジュアルから入ったんですよ。作品ごとに全然違うし、アー写とか見ても、メンバーに女の人がいて、毎回すごく気になる方たちだなぁって。それで、EQDのパーティーのときにお会いできて、話をして、すぐ気が合って仲良くなったんですね。
シュガー:そもそも好きなバンドだから。すごくリスペクトがあるからね。
──そこから、今回一緒にやろうと話が進んでいくんですか。
Wata:そうですね。BorisのAtsuoも、シュガーさん、TOKIEさんとは「いつか何かで一緒にやれたらいいね」っていう話をしていたんです。で、コロナに入ってライヴができなくなった時期に、お二方とも普段はかなりスケジュールが忙しい方たちですけど、そこでタイミングがちょうど合って。最初……順番としてはアルバムの『W』の制作が先にはじまって、その後で“Reincarnation Rose”の制作をやることになったんです。
──あ、昨年11月に出た“Reincarnation Rose”が実際は後ですか?
Wata:そうなんです。『W』は、その前の作品の『NO』ができあがったときにはもう制作がスタートしていて。発売は今年の1月だったんですけど、もう2020年にはできあがってました。
──『W』で美しいアンビエントの世界を描き切ったからこそ、次はゴリゴリに鳴らそうというテンションに変わっていったんでしょうか?
Wata:えーっと、その前に、さっきお話したEQDっていうペダルブランドから私のシグネチャーモデルを作っていただける話がスタートしてて。試作機とかも何度か作っていただいて、それが完成したのが2020年の冬ぐらいなんですね。そのファズ・ペダルは「Hizumitas」って名前なんですけど、出たらアルバムと一緒にプロモーションしようって話だったんです。だけど『W』は……全然、ファズを使ってない感じの音になってて。
一同:はははははは!
Wata:これ全然ファズ使ってないしプロモーションにならないね、みたいな(笑)。だからその後で“Reincarnation Rose”っていう、ファズ全開の曲を作ることにしました。
──まさにファズのための一曲だった。
Wata:そうですね。はい。
──先に生まれた『W』。シュガーさんは、Borisがほぼ完成形として仕上げてきたものを渡されて、そこに手を加えていったとか。
シュガー:そうです。Borisってトータル・プロデュースができてるバンドだから、まずアルバム・コンセプトから曲順まで全部決まってるし、「こういうアルバムを作りたい」っていうのが最初から明確で。そこに「なんかやってください」っていわれても「もうできあがってるんですけど」って思うくらい。でも、頼んでくれたのは光栄なことだから、私にできること、もともとあったBorisの世界をより広げていく作業をやろうと思って。その結果なんですよ。
Wata:Borisのメンバーだけでは到達できないところまで、シュガーさんが連れていってくれた。
シュガー:あぁ、そういっていただけると。
Wata:いや、ほんとに。エレクトロニカな感じとか、私は今まで通ってきていない方法なので全然わかんないんです。
シュガー:Borisの音はもう完成されたものがあるんで、そこにもうちょっとスパイスをかけたらもっとキラッとするんじゃないかな、もっと広がった音で聴こえるんじゃないかな、みたいな。最後にスパイスで仕上げたみたいな感覚ではありましたね。
──すごくポップだとも感じましたね。
シュガー:あぁ。その要素って実はこの人たちにいつでも絶対にあるから。どんなにヘヴィな音楽作っても、誰でも聴けるっていうか、ヘヴィな音楽好きじゃない人も楽しめる要素は常にあって。あとは、さっきTOKIEちゃんもいってたけどヴィジュアルもこの人たちにとってはすごく重要な要素ですよね。
TOKIE:ね? 気になっちゃうよね。
シュガー:そう。だから、そういうのを消すんじゃなくて、より伝わりやすくする。ポップって感じてくれたんだったら、そういう部分じゃないかな。より多くのオーディエンスに伝わっていい音だなと思ったので。一部のヘヴィロック・ファンじゃなくて、エレクトロニカのファンでも絶対喜ぶ音だと思ったし。そういうことは考えましたね。
Wata:ただ、シュガーさんのエレクトロニカはすごいオーガニックというか、本当に電子って感じとは違って、すごく自然に馴染んでる。それはいただいた音源を聴いてわかったし、感動しました。
シュガー:Boris自体がオーガニックなバンドだからね。
