『For Damage』は、「天国に行きたい」っていう気持ちで作った
──『Estuary』は2枚目のアウトテイクで作られたものということですが
Hyozo:『Estuary』は『For Damage』の長いイントロダクションのようでもあり、パラレルワールドでもあるようなアルバムです。『For Damage』の一曲目は「Up the Creek」という即興演奏で、そのアウトロがフェードアウトしながら二曲目に繋がっていくんですけど。『Estuary』の「Estuary Part1」は「Up the Creek」がフェードアウトした先で本来演奏されていた即興を編集しました。岡田さん、池田さんに来てもらった録音のときに、せっかくセッティングしたし即興でもやりましょうと言ってやった演奏を手直ししたものが『Estuary』のほとんどで。「Uchu Minyo」だけは、現代音楽の大畑くんがフェンダーローズとフルートを両方やってできたものなんですけどね。このトラックは彼のパワーでほとんど完成しました。『Estuary』に入っているのは完全にインプロだから、そのときのみんなのムードとか素質がしっかり出てると思います。
──『Estuary』はインプロだけど、『For Damage』はもう少し指示したりしてるってことですよね
Hyozo:それは参加する人によりますね。アカデミックな人であればカチッとやれるようにするし、ダラダラ付き合ってくれる人はまた違うし。参加する人に合わせてレコーディングの感じも変えています。
──とはいえ一定のムードが漂う作品になってると思うんですが、そこはなにかしらの意図があったんですか?
Hyozo:『For Damage』は全体的に、「天国に行きたい」っていう気持ちで作ってました。俺の私生活が酷すぎて現実逃避を最大限した結果、スピリチュアル・ジャズで天国に行こうと思って。これは個人的な話になるけど、コロナ前に出る予定だったアルバムが出せなくなって、さらにコロナが来てそれまでの活動も終わってしまったり。そういう悔しさや鬱屈としたきもちを4年かけて昇華したものが『For Damage』なんです。この作品を現実離れしたものにするために、徹底して自分も現実離れした存在になっていて。「Shirabe」のベーシックは一発録りで、ほぼ即興演奏なんですけど、水野さんとドラムの伏見くんとパーカッションのアヤスミくんでバチっと決まって。そのときは次このタイミングでフィルが入るな、とかがわかる状態だった。この作品にはそういう神通力が宿ってます。
──流動的な集団ではあるけど、そういった意図によってもこの作品はできてるんですね。バンドへのアンチテーゼとして野流の形態があるわけだけど、それでも曲を作るのってなんでなんでしょう。即興を録音してそのまま出すこともできたわけで。
水野:あった方が存在としてわかりやすいかなというのもあって曲は出してますね。でも作曲者はどうでもいいというか、受け皿だけ用意しておいてあとは自由にやってもらってます。やっぱり演奏する人が主役なので。
Hyozo:それに個人的な趣味として、ポップなものが好きっていうのがある。野流のいまの感じは、身体的なアウトプットが自然とこうなっただけというか。もともとアヴァンギャルドなものも聴くけど、メロディがあって歌があってリズムがあって、というものも好きだから、そこから遠ざかりすぎると不自然かなって。
──元々サイケデリック・ロックのバンドやってたことでアヴァンギャルドな奏法にはなれてるけど、って感じですかね。ニューエイジ自体は好きですか?
水野:ニューエイジの定義自体特によく分かってないな。
こーすけ:僕もそうだな。
Hyozo:思想的な側面が強いからねあれは。僕らもスピってなくはないけど、ちゃんと活動してアルバム作り続けたいとか思うし。でも、ニューエイジって60年代にサイケデリック・カルチャーが盛り上がったあとに一部の人が傾倒していったものだと思うけど、それでいうと自分たちは順当にその道を歩んでる。僕と水野さんは若いうちにサイケバンドをやって、一通り経験してきて、いまそこを発展させてニューエイジ的なものだったりアヴァンギャルドなものだったりスピリチュアルジャズだったりをやっている。向こうのニューエイジのシーンとは直接的な繋がりはないけど、そういう感じで周縁的に進化していったのが僕らだと思います。ただ、野流でこういうジャンルをやりたいっていうのは基本ないから、そのときやりたいことをやっていこうと思ってます。
──すでに次のアルバムを聴かせてもらいましたけど、全然違いますもんね、もう少し実験的で、サンプリングもコンクレート的に使っていてAMMみたいというか。むしろライヴはこっちのイメージが強いですが。
AMM:1966年から活動をはじめた英即興演奏グループ。Cornelius Cardew、Lou Gare、Eddie Prevost、Keith Rowe、Lawrence Sheafが所属。『Ammmusic』が昨年〈Black Truffle〉よりリイシューされてます。
Hyozo:AMMはすきですね。あれはこーすけくんの家で三人で暗い気持ちで朝からシンセをいじり続けたものをエディットしたやつで。
こーすけ:結構短いスパンで作ったのは、『For Damage』で時間をかけすぎたっていうのがあって。軽いノリで僕の家に集まったときにアルバムできるくらいの録音をとっちゃおうかってことで。それをこねくり回して作りました。
──あと、野流はクラブでの出演が多いっていうのが即興演奏集団としては珍しいですよね。インスタレーションの一部とかじゃないっていう。
Hyozo:そこが隙間産業なんじゃないかなって思ったところもあります。自分がクラブで遊ぶようになって感じたこととして、ずっとキックは疲れるなっていうのがあって。そういう時間帯に自分たちがでたら面白いんじゃないかなって。でも本当はもっとレイヴとか呼ばれるつもりでいた。野流はバンドとかアーティストってもののあり方へのアンチテーゼを含んじゃってるから、演奏の見通しがつかなくて呼びづらいんだと思うけど。今後はそういうところにも出たいですね。
イベント情報
〈‘For Damage’ & ‘Estuary’ Release Party〉
日時:2024年12月25日(水) Open 18:00 / Start 18:00
会場:Shimokitazawa Spread
出演:Live: Yaryu (5 Hour Set)
Liquid light: Ruriko Tsukishima
Shop&Flyer: Love & Life
