2024/05/24 19:00

今回の視聴機、Polk Audio Reserve R200、驚きのコスト・パフォーマンス

Polk Audio Reserve R200 Brown

山本 : ということで、今回は全然ハイエンドじゃないですけど、アメリカのスピーカー・メーカー、ポーク・オーディオのR200というモデルを健太郎さんに聴いてもらいました。日本に入ってきているポーク・オーディオは3シリーズあるんですが、これはリザーヴ・シリーズという最上位ラインのスピーカーです。

高橋 : 僕が聴いたたR200が最上位シリーズのブックシェルフ・タイプなんですね。

山本 : はい、なのにこのR200、8万円ぐらいで買えます。ペアで。

高橋 : え? あれが8万円?

山本 : そもそも定価がね、10万いくらいでしたから。

高橋 : それはびっくりです。

山本 : びっくりでしょ。いや、本当にね、日本のスピーカー・メーカーのエンジニア、みんな愕然としてます。うちで作ったら、40万ぐらいすると。

高橋 : ウーファー見ただけで、凝った作りですよね。

ミッド / ウーファー部、インジェクション成形によって作られた表面に凹凸のある6.5インチのタービンコーンという独自の振動板

山本 : そうそうそう。で、ポーク・オーディオもまた面白いメーカーで、創立は1972年、ボルチモアの大学に通っていた3人の男の子たちが作った会社なんですよね。中心人物がマット・ポークっていう人で。それで彼らはあまりお金のない学生だったんで、まずは大学生でも買えるスピーカーっていうのが、創立時のポリシーだったみたいです。安くて良いものをっていうことで、スピーカーの開発、製造を始めた。

高橋 : 1972年に大学生ということは、まさしくロック世代ですね。ちょっと調べてみたら、ローカルなブルーグラス・ミュージック・コンベンションでサウンド・システムをやってたって書いてありました。

山本 : それで僕は90年代にアメリカ取材が多かったんですけど、いわゆるハイエンドのオーディオ・ショップではなくて、日本でいえば、ヨドバシカメラとかビックカメラみたいな、ああいう量販店でたくさん売っているスピーカーでした。オーディオ・ファンというよりは普通の音楽ファンにフィットするメーカーだったと思うんですよ。

高橋 : 僕は名前は知っていましたが、実機を聴いたことはなかったです。

山本 : 日本では全然ダメだったんですよ。で、90年代の音の印象を言うと、すごく低音がたっぷりした、おおらかな音っていえば良い言い方なんですけど、 僕らの耳にはちょっと低音が鈍い印象だったんです。アメリカの普通の音楽ファンはこういう音が好きなんだっていう説明を何度も受けましたけど。日本人とかヨーロッパ人の耳からすると、少し低域が鈍い感じがしてた。が、5、6年前にマシュー・ポークさんがサウンド・ユナイテッドっていうオーディオのコングロマリットに会社を売却して、それから方針が変わったんですね。ヨーロッパの人達が入ってきたようで、このR200聴いても低音が鈍い感じはしないでしょ。

高橋 : いや、むしろ僕は低域がすごく印象的でしたね。低音がよく出るというだけじゃなくて、深みのある低音というか。低域でも定位とか音場感みたいな表現がちゃんと出来ている。奥行きがある感じがして、それが魅力的だと思いました。

山本 : うん、もうその通りだと思いますね。以前はキックとかが入ると、パタッと止まらない感じの音っていうか、ちょっと鈍い感じがしたんですけどね、このR200全然違いますね。僕はこれは傑作だと思いました。色々聞いてます。

高橋 : サイズ的にデスクトップにも置けるかなと思っていたら、ウーハーは17cmくらいですが、エンクロージャーにかなり奥行きがありますね。そして、特徴的な背面のバスレフポートが付いている。だから、置き場所はあまり狭いスペース向きじゃないですね。そこでちゃんとTAOCのスピーカー・スタンドに乗せて、背面も壁から少し離して、セッティングしました。結構、広めのリヴィングで、メイン・スピーカーとして使えるスケール感のある音だと思いました。

山本 : あのバスレフのポートが凄い凝ってて、あのパイプ型のポートの中に消音器、アブソーバーが入ってて、それで、 不要共振を抑えているんですね。これは彼らのパテントみたいです。

こちらがそのバスレフのポート、X-Port。固有音フィルター(Eigentone Filter)を搭載し、歪みのない低音を実現する。新たに特許も取得した機構。

高橋 : 僕は実を言うと、バスレフのスピーカーがあんまり好きじゃないんです。それはさっき山本さんも言っていましたが、キックの音が止まらない。どうしても、バスレフで低域を増強したスピーカーって、低音のディケイ、減衰時間が長くなるんですよね。それが好きじゃないんですが、このR200はそういうバスレフっぽさはなかったですね。それは消音効果のある特殊なバスレフ・ポートの構造ゆえかもしれないですね。

山本 : はい、パイプ型のアブソーバーが相当効いてると思います。

高橋 : サイズからすると低音が下の方までよく出る。でも、ただ出るというだけじゃなくて、その出方が良いスピーカーだと思いました。一方で、ツイーターはまた変な形していますよね。

山本 : あれはリング・ラジエーターと言って、高域の拡散用にウェイブ・ガイドが付いている。普通の安いドーム・ツイーターとは違って、志向性のコントロールをウェイブ・ガイドでうまくやってる感じがします。だから、高域も自然です。

中心から角が生えたような特殊な形状のツイーター、Polk Audioの40年以上にわたる改良・開発のノウハウが凝縮された1インチの高精細ピナクル・リングラジエーター

現代R&Bの細かくコントロールされた低域も描き分ける

高橋 : あと印象としては、今回、ボズスキャッグスの『ミドル・マン』に合わせて、山本さんがこのR200を選んでくださったんですが、いろいろ聴いてみたら、これは現代のR&Bを聴くのに良いスピーカーだと思いました。

山本 : それはそうかも。ネオ・ソウルを聴いても良いですね。

高橋 : 僕らが好きな70年代のサウンドも良いんだけれど、今のR&Bの低音をうまく表現するスピーカーだと思ったんです。現代の音作りって、低音の部分もすごく凝っている。ただ、キックやベースをど〜んと鳴らすんじゃなくて、細かくコントロールされ、デザインされている。そういう部分の描き分けができるスピーカーだと思いました。

山本 : なるほど。

高橋 : 60年代や70年代の古い音源になると、全部の帯域がちゃんと出てくる分、ヴォーカルがちょっと地味になるかとも思いましたが、ただ、それは現代のフラットな特性のアンプで聴いているからかもしれない。そう考えて、1950年代の真空管アンプでも鳴らしてみました。LEAKのSTEREO 20という僕の愛用のアンプですが、そうしたら、びっくりするほど音が豹変しました。デジタル・アンプから真空管アンプに換えたら、音が変わるのは当然ですが、それがまた魅力的な変化。真空管アンプらしい艶やかな音が飛び出てきて、ビンテージな音源を聴くなら、こういう真空管アンプと合わせるのもすごく良いんじゃないかと思いましたね。

山本 : 最近はアクティブ・スピーカー流行りですけれど、パッシヴなスピーカーにはそういう面白さがありますね。手頃な値段ですから、アンプとの組み合わせもいろいろ考えられる。そういうのも趣味として面白いですよね。

高橋 : ハイも伸びているので、50年代の真空管アンプで鳴らしたら、ノイズもよく聴こえて、そういう点ではちょっとシビアにはなりますが、でも、音は真空管アンプで鳴らす方が好きだったかな。

山本 : 僕もこのR200、いろんな鳴らし方しましたが、確かに三極管のシンプルな回路の、10ワットぐらいのアンプで鳴らしたら、すごく良かったですよ。特に古い音源は。そういう組み合わせによって、いろんな表情を聞かせてくれるスピーカーじゃないですかね。これ、大編成のオーケストラとかを聴いてもたまげますよ、凄いスケール感。

高橋 : このポーク・オーディオのシリーズはトールボーイ型もあるんですよね。

山本 : ありますけど、僕はこのR200が一番傑作な気がします。トールボーイになると、ウーファーがダブルになって、値段も2倍くらいになる。僕が買うなら、これかなって思いましたね。

高橋 : ブックシェルフをスタンドに置いた方がセッティングで低域の出方の調整などがしやすいですしね。

Polk Audio Reserve R200、こちらはBLACK

山本 : そうですね。 ただ、さっき健太郎さんがおっしゃった通り、リアポートのバスレフなので、後ろの壁との距離で、低音の聞こえ方が全然変わるんで、そこは壁にぺたっとくっつけないで使ってもらった方がいいかなと思いますね。って言っても、どうしてもね、日本の個人の部屋って割と狭いから、みんな壁にくっつけて置いちゃうんですけどね。できれば50センチぐらい離して使いたい。

高橋 : あと、スピーカースタンドがやっぱちゃんとしたものを使った方がいいですね。

山本 : とか言ってると、8万円じゃ済まなくなる。

高橋 : スピーカーよりスタンドの方が高いみたいな。

山本 : そうそう、ありえます。

高橋 : そのくらいの驚異的な価格ですね。これは本当に聴くのが楽しくなるスピーカーでした。

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今回の機材──Polk Audio Reserve R200

Polk Audio Reserve R200 こちらはホワイト・モデル

ツィーターには、不要な色付けや歪みのない、極めてクリアで鮮明な高音域を実現する精細ピナクル・リングラジエーター、ミッド / ウーファーには元々フラッグシップモデル(Legendシリーズ)のために作られた振動板、タービンコーンを採用。Polk Audio独自のフォームコアとタービン形状を組み合わせで、細部まで聞き取りやすく、スムーズできめ細やかな中音域と余裕のある低音を実現。また背面には、中低域と中域の歪を取り除き、スムーズで高解像度なサウンドを生み出す独自のバスレス=固有音フィルター(Eigentone Filter)を搭載したX-Portを搭載。まさにプレミアム品質のスピーカーを手の届く価格で提供するというPolk Audioのミッションを、設立から40年、先進的な素材や音響に関する広範な研究・開発によって蓄積された技術で具現化したスピーカー。色は、上記の記事にあるように、ブラック、ホワイト、ブラウンを展開している(編集部)。

Polk Audio Reserve R200のその他詳細はこちらの公式ページにて

Polk Audio Reserve R200製品ページ
https://jp.polkaudio.com/shop/polkaudio-bookshelfspeakers/r200

Polk Audio Reserve R200
トランスデューサー
トゥイーター : 1インチ ピナクル・リングラジエーター
ミッド/ウーファー : 6.5インチ タービンコーン
再生周波数範囲 : 39Hz - 50kHz
周波数レスポンス : (-3dB)51Hz - 38kHz
推奨アンプ出力 : 30 - 200W
感度(2.83V/1m) : 86dB
インピーダンス : 4Ω(4~8Ω出力のアンプに対応)

クロスオーバー
トゥイーター/ミッドレンジ : 3000Hz

サイズ
外形寸法(WxHxD mm) : 190 × 359 × 354
質量(1台) : 8.7 kg

キャビネット
エンクロージャー形式リア : X-Port
カラー : ブラウン / ブラック / ホワイト
フット : ラバーパッド
スピーカー端子 : シングル、ニッケルメッキ

『音の良いロック名盤はコレだ!』過去回

第1回ニール・ヤング『ハーヴェスト』──高橋健太郎x山本浩司『音の良いロック名盤はコレだ!』

第2回ジャクソン・ブラウン『Late For The Sky』──高橋健太郎x山本浩司『音の良いロック名盤はコレだ!』

第3回ポール・サイモン『Still Crazy After All These Years』──高橋健太郎x山本浩司『音の良いロック名盤はコレだ!』

第4回ドゥービー・ブラザーズ『Livin' on the Fault Line』──高橋健太郎x山本浩司『音の良いロック名盤はコレだ!』

第5回ダニー・ハサウェイ『Everything Is Everything (Mono)』──高橋健太郎x山本浩司『音の良いロック名盤はコレだ!』

第6回リンダ・ロンシュタット『Prisoner In Disguise』──高橋健太郎x山本浩司『音の良いロック名盤はコレだ!』

第7回 エリック・クラプトン 『461 Ocean Boulevard』──高橋健太郎x山本浩司『音の良いロック名盤はコレだ!』

第8回 リトル・フィート『Dixie Chicken』──高橋健太郎x山本浩司『音の良いロック名盤はコレだ!』

著者プロフィール

高橋健太郎

文章を書いたり、音楽を作ったり。レーベル&スタジオ、Memory Lab主宰。著書に『ヘッドフォン・ガール』(2015)『スタジオの音が聴こえる』(2014)、『ポップミュージックのゆくえ〜音楽の未来に蘇るもの』(2010)。

山本浩司

月刊「HiVi」季刊「ホームシアター」(ともにステレオサウンド社刊)の編集長を経て2006年、フリーランスのオーディオ評論家に。自室ではオクターブ(ドイツ)のプリJubilee Preと管球式パワーアンプMRE220の組合せで38cmウーファーを搭載したJBL(米国)のホーン型スピーカーK2S9900を鳴らしている。ハイレゾファイル再生はルーミンのネットワークトランスポートとソウルノートS-3Ver2、またはコードDAVEの組合せで。アナログプレーヤーはリンKLIMAX LP12を愛用中。選曲・監修したSACDに『東京・青山 骨董通りの思い出』(ステレオサウンド社)がある。

[連載] Boz Scaggs

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