hondaさんのクラスになってくると、俺にはもう分からない
──同時にベテランとして若手を見るっていう視点もありながら、〈俺はまだ若手だと思っているタイプ〉ともラップしていますが、ベテランとして後輩を育てるのも…
(遮って)そんなの考えたことは一度たりともないね。
──あくまでプレイヤー側であり続ける、という事ですね。レジェンドであるdj hondaさんを目の前にして、自分はまだまだだと思う気持ちが伝わってくるリリックが今作に沢山ありましたが、dj hondaさんの功績以外でどんなところがBOSSさんをそうやって尊敬させるのでしょうか?
あの人のビートのストックだけをみても「いままでこんな人いなかった」というくらいビートを持ってる。いまこの瞬間も絶対あの人はビートを作ってるし、明日も作ってるし、昨日も作ってたはず。恐らく30年間休まずビートを作り続けている。こんなに作ってる人はいないと思った。凄いよ、本当に。hondaさんなんて伝説に事欠かないけどさ、結局それは昔の話じゃん。俺もそれで止まってたら一緒にやらない。だけどあの人はいま、誰よりもやってる。俺もいろいろなプロデューサーを見てきたけど、明らかに誰よりもやってるから。自分もやってるほうだと思ってたけど、俺よりもやってる。それでも「みんなもっとやってる」があの人の口癖で、あの人が囲まれていた世界はそういうもので。そういう人を知ってしまうと、俺も50だけど、とてもベテランとは言えないね。食らいついていくしかない。
──まるで修行のような話ですね!
hondaさんも俺も今更これで有名になろうなんて思ってない。「じゃあなんでやるの?」って聞かれたら、良い曲が作りたい、それだけだよね。今回はそこに没頭できたのが新しかった。O.N.Oとやってるときは、THA BLUE HERBがいままでやってきたことを超えていきたいっていうストーリーでやれるんだけど。hondaさんの場合は30年間毎日ビートを作ってるから、色々超越してるんだよ。DJ KRUSHさんもそうだと思う。あの人も今頃ビート作ってると思う。次の制作に追われてるから触るとかそういうんじゃないんだよね。それがその人の業というか、生活そのもの。もはや呼吸とか、禅みたいなものだよ。

──十分に功績もあり、お金にも困らない。そんなdj hondaさんを、何がそうさせるんだと思いますか?
いくら考えても分からない。俺の場合は、THA BLUE HERBで作品を作りたい、出したい、もっとできるって知って欲しい、レーベルもやってるから売りたい。そういうこともあるんだけど、hondaさんのクラスになってくると、俺にはもう分からないね。朝起きてスタジオに向かってるとき、その理由も考えないと思うよ。それが人生というか、ビートを作るってことがあの人にとっての呼吸なんだろうと思う。
──B.I.G.JOEさんとdj hondaさんについて話す動画で、dj hondaさんは「ヒットにすごいハングリー」だと仰っていましたが、dj hondaさんにとってのヒットってなんなんでしょう。
よく聞かせてくれるのはビルボード・チャートだね。そこに叩き込む。それだけだって超はっきりしてる。そういう人も俺は見たことがなかった。ある意味で超シンプル。例えば上下はっきりさせるって意味ではMCバトルだといろんな大会があって、どこの大会で優勝だとか価値観がわかれてるじゃん。だからアンダーグラウンドのシーンだって基準なんて曖昧じゃん。いまはそれでいいじゃん。でも、hondaさんで言うビルボードって、基準はそこだけで、そこで上か下、それしかないから。3位だったら1位と2位には負けてる。hondaさんはずっとそういうシビアなところにいて、俺を含め誰もがその土俵にすら入ってない。そういう感覚でいる人とはこれまで一緒にやったことがなかった。むしろ「ビルボードには乗らない世界があるんだぜ」って俺たちは言ってたから。
──とはいえ、こう言うのは大変烏滸がましいのですが、dj hondaさんらしいビートといえば90年代のヒップホップに根ざしたものですよね。
俺がここでちゃんと言っておくけど、あの人は90年代になんか根差してないから。昔のことなんて全く構ってない。いまのビートが俺の最高のビートってだけ。そう思う。たまたま90年代に作ってたものが90年代に売れたから90年代の音みたいに思ってるかもしれないけど、そんなのに絶対構ってないよ。あの人が90年代アメリカ行ってから30年間ずっとビートを作り続けてる間、色んなものが流行って廃れたかもしれないけど、それらを聴いたことすらないと思う。「自分の作るかっこいいと思うビート、以上。」という感じがするよ。そういう芯があるからアメリカでやれたんだよ。まあ、俺もその思想だね、他がどうとか構ってない。
──ビルボードしか認めてないシンプルな思考回路も、どことなくアメリカ人ぽいですよね。
そう。喋ってて日本人って感じしないもん。
──いまの年齢でギラついていられるのがすごいですよね。
でも、音楽全体で見てもちょうど中盤じゃない? ボブ・ディランなんて何歳だよって話で。一緒にやってる日野皓正さんはhondaさんの親の世代だって言ってたから。hondaさんは日野さんのバンドに参加したくて日本に帰ってきたくらいだし、本人は俺らが思うほど年上だって言う感覚はないと思うんだ。
──まるで武道の達人の話でも聞いているような感覚です。
俺はそう思うよ。これは完全に伝説で終わらせるような話じゃねえって、一緒にいても思うよ。

編集 : 高木理太
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