バンド・アレンジは弾き語りの歌から
──SACOYANは3人にどうやって曲を伝えて、どうやってバンド・アレンジを作っている?
SACOYAN : 発表されている宅録の音源を原曲として、それとは別に、コード感がわかるようにギターの弾き語りで押さえている指がわかる映像をiPhoneで撮ります。その両方をメンバーに渡して、あとは投げっぱなしで自由に好きにしてください、ですね。そのあとスタジオに入って、とりあえず合わせてみようかでやりながらイメージを膨らませて。だいたい2、3回のスタジオで、ライヴでできるかな、くらいのかたちになります。
Takeshi : 俺はその原曲と弾き語り映像を貰ったあと、家で結構作ってからスタジオにいきます。一週間くらい考えて準備していきたいタイプ。
みわこ : SACOYAN名義で発表している原曲はどれもすごく良くて、でもそれをあんまり聴いちゃうとそればかりが入ってきちゃうので、原曲は1、2回しか聴かないです。弾き語りのほうで歌を聴いて、そこから膨らんでいくイメージをバンドとして具現化しようと思っています。
SACOYANって歌詞も素敵ですし、歌いまわしも独特ですし、メロディもすごい綺麗で、でも、いっしょに口ずさむと、どれもとても難しいんですよね。それをいっしょに歌えるようになるまで何回も歌って覚えて、歌を自分で口ずさみながら、ひとりでスタジオ入ったり頭のなかで妄想したりしながらフレーズを作っていきます。
原尻 : たぶん俺がいちばんなんも考えずにスタジオに行ってますね。自分もほとんど弾き語りのほうを聴いてます。原曲は後のほうで見て参考にする程度で。原曲を聴いてもベースラインとか正直よくわからないし。弾き語りの映像でSACOYANの手を見てもコードがよくわからない。
Takeshi : ギターとベースのコードが違うことが多いしね。コードのベースを押さえるんじゃなくて、それもひとつの音みたいなかんじ。普通のロックバンドのコードとベースの捉えかたじゃないことがよくあります。
SACOYAN : 宅録を長くやってるので、ギター1本に向き合うんじゃなくて、頭のなかで想像するいろんな楽器の音をギターで表現しようと、いろんなパートをギターで弾いちゃう癖があるんだと思います。頭のなかで鳴ってる音からギターで表現できる音を拾い上げて鳴らしているので、どの弦がベースの音かとか、よく分からないで弾いているのかも。たけちゃんがもともとベースのひとだから、たけちゃんと店長がベースを解読するのにいつも話しあってます。それを聞いてるのが面白い。ベーシストが二人いるバンド。
原尻 : たけちゃんに訊かないとわからないもん。SACOYANに訊いても教えてくれないし(笑)。

SACOYAN : セカンドに入っている “地獄の星” は新曲で、単純でわかりやすくてすぐ終わる曲が作りたくて作ったんですが、作ったらみんなにわかりづらいって言われました(笑)。
原尻 : あれは弾きにくかった。
Takeshi : あれはいちばん間違えそう。
みわこ : そんなことないと思うけど……
SACOYAN : 自分が簡単でシンプルだと思ってる曲ほど独特の癖があるらしくて。バンド結成当時からよく言われてるんですけど、そこの自覚がない。とくにベースとギターを困らせていると思います。
──ドラムは困っていない?
みわこ : SACOYANの癖みたいのはだいぶわかってきました。私はさっきも言ったように歌をいちばん聴くので、ドラムは自然にやれています。みんな難しそうだな、頑張れって思ってます(笑)。
この曲をバンドという理想のかたちで仕上げられた、夢がかなった
──セカンド・アルバムのなかで好きな曲や聴いてほしいところがある曲を教えてください。
原尻 : レコーディングのときは1曲目の “素敵な11月” が、すごいロマンティックでいいなと思ってました。まさか1曲目になるとは思ってなかったけど。いま聴くと良いはじまりだと思います。
みわこ : いちばん好きな曲は “素敵な11月” で、次は “読み解いて” かな。どの曲も好きですけど。“のみものを買いに行こう” をスタジオでアレンジして作っているとき、私はドラムの音が大きいのか他のバンドでは「もうちょっと抑えて」とか言われることが圧倒的に多いんですけど、この曲のときは「もっと来いよ」みたいにSACOYANが言ってくれて。そんなこと言われるのはほとんどないので、すごく嬉しくかったです。思いっきりドラムを叩ける喜びにあふれた曲です。
Takeshi : ギターのフレーズが結構おもしろいかんじで入れられたなと思うのは、“素敵な11月” とか “地獄の星” とか “のみものを買いに行こう” とか。この3曲はもとのコードに対してあまり無いような当てはめかたができたかな、と思っています。あとは炸裂ぎみのノイズ・ギターも聴いてほしいです。
SACOYAN : 1曲選ぶのはとても難しいですけど、“のみものを買いに行こう” は私にとって特別な曲です。二十歳のとき体調を崩して実家に帰ったタイミングで、ふらふらした気持ちのなかで、自分を慰めようみたいなかんじで書いた曲。でも気づいたらこの10年くらいのあいだに、この曲が心の支えだと言ってくださる方や、この曲に特別なものを感じてくださる方が増えて。もともと自分の曲は好きなんですが、この曲は、自分で自分に支えられるというか、特別に好きな曲です。
この曲をバンドでやりたいと思って、今回、録音をして、ミックス、マスタリングしたものをイヤホンで聴いたときに、すごい涙が出かかって……
みわこ : 出てはないんだ(笑)。
SACOYAN : 出てはない(笑)。この曲がかたちになったことに感情が揺さぶられました。この曲はこれが4回めのリリースになるんです。宅録で3回。原曲、原曲のリマスター、アコギ弾き語りと。この曲をバンドという理想のかたちで仕上げられた、夢がかなったみたいな感覚、やりたいことができた達成感がありました。

SACOYANのコーラスが入ると劇的に印象が変わる
原尻 : どの曲もそうだけど、SACOYANのコーラスがすごいんですよ。オケを録って、歌を録って、そのあとにコーラスを録るんですけど、コーラスまで入ると劇的に印象が変わる。SACOYANのコーラス・ワークを聴いたらいいんじゃないかと思います。衝撃やん。
みわこ : ほんとだね(大きくうなづく)。
SACOYAN : 実は、歌を録ったときは妊娠がわかってなくて、コーラス録りは妊娠がわかったあとなんです。このセカンド・アルバムって、“妊娠してる自分” と “妊娠してない自分” の両方がパッケージングされてるんです。つわりがすごくひどくて吐いたりぐったりしながら力がでない状態で録ったのもあるけど、でも、今回のコーラスは、過去にないくらい柔らかい気持ちで録れたんですよ。力まない、悩まない、すっと、「あ、こうしたい。じゃあ録らせてください」って。
お腹のなかに子供がいるのも意識しつつ、母親になる不安な思いもあり。自分のことを客観的に見ていたのかもしれないですね。穏やかというか、身体が元気じゃないから静かな気持ちでレコーディングして。おかげで繊細なコーラスが録れました。妊娠がわかる前に録った攻撃的なヴォーカルとはぜんぜん違う心境でコーラスを録ってる自覚があって、その二面性みたいなものがアルバムに一花添えることになったかなと思っています。
みわこ : コーラス録りのときに、私、スタジオで聞いてたんですけど、普通のコーラスだけじゃなくて、「チュンチュン」とか「ヒョー」とか、いろんな動物の声みたいな声をSACOYANが入れてたんですよ。いろんな生命が渋滞していて、めっちゃ良かったです。 “のみものを買いにいこう” の最後のほうとか「チュンチュン」みたいなのがいっぱい入ってるので、聴いてみてください!
SACOYAN : 私、コーラスは準備しないで、その場の雰囲気で自分の心の状態に応じてでてくるものを歌うんです。セカンドは、たけちゃんのギターがかなり想像力たくましい状態でオケが上がってきていたから、その音の合間を縫ってメロディを入れていくのは、とてもクリエイティブな時間でした。