トム・ダウトがスタジオ・レコーディングにもたらしたもの
今回、進行用にふたりが用意したプレイリストはコチラ、ぜひ聴きながらお読みください
山本 : 翌年の『安息の地を求めて(There’s One In Ecery Cloud)』というアルバムも同じ雰囲気ですよね。
高橋 : はい、同じ路線だったんですけど、こっちは売れなかったんですよ。地味過ぎたのかもしれません。
山本 : このアルバムもいい曲揃ってますけど。
高橋 : そうなんですよ、2曲プレイリストに選んだんですけど、1曲は「Swing Low Sweet Chaliot」という19世紀の スピリチュアルの曲をレゲエっぽくやっていて、これはこの頃のクラプトンらしい路線ですごくいいし、次の「Better Make It Today」というのがソウルフルな名曲なんですよね。
山本 : いいですね。本当にあらためて、もう1回聞き込みたいレコードだなと思いました。サウンドもすごく良いですね。この頃はもう24トラックなんですか?
高橋 : 『461オーシャン・ブルーバード』から24トラックだと思います。
山本 : なるほど。トム・ダウドのことをちょっと調べてたら、この人、アトランティックのエンジニアになって、1957年にアンペックスに8トラック・レコーダーをオーダーしてるんです。
高橋 : そうです、レス・ポールの次。
山本 : だからマルチトラックで、音楽を変えた人なんですね、この人は、
高橋 : アトランティックは当時は大きなレコード会社じゃなかったんだけど、社長のアーメットアーディガンを説得して、8トラックを買わせたという。ミキサーは自分で作った。
山本 : もともとは物理学者なんですよね。
高橋 : 原子爆弾作るマンハッタン計画に参加してたいたという。
山本 : めちゃめちゃ優秀な理系だったんでしょうね。でも、お父さんはオーケストラのコンサート・マスターで、お母さんはオペラ歌手なんだってね。
高橋 : トム・ダウドは自分ではコントラバスのプレイヤーだったんですよ。だから、ジャズの録音やってた時はベース重視なんです。ヴァン・ゲルダーはドラム重視でしたけれど。
山本 : あー、そうですね
高橋 : アート・ブレーキーのドラムとか、ヴァン・ゲルダーが録ると、細かいシンバル・ワークも凄くクリアーに聴こえる。でも、トム・ダウドはドラムは遠くに置いて、ベースをくっきり聴かせる。トム・ダウドの録ったアート・ブレイキーはあんまり良くないけれど、チャーリー・ミンガスが信頼していたのはトム・ダウドなんですよね。
今回の視聴機、AURA VA 40 rebirth、あえてピュアなアナログ回路にこだわった、原点回帰となるモデル

山本 : なるほどなるほど。というところで、そろそろオーディオの話もしましょうか。今回はAURAのVA 40 rebirthを健太郎さんに試用していただいたんですけれど、どうでしたか、お使いになって。
高橋 : これ、僕は楽しみだったというか、実はAURAのプリアンプを長く使っていたんですよ。CA-200というプリアンプで、90年代の終わり頃から10年くらいは使ったと思います。デザインも今回、お借りしたVA 40 rebirth同じサイズで、同じクローム・シルヴァーのパネルでした。だから、懐かしいというか、馴染みあるオーディオ機器に再会した感じでした。
山本 : オリジナルのAURA VA 40は1989年に出ていて、イギリスのマイケル・トゥというビルマ系イギリス人なんですけれど、彼がAURAという会社を作って、最初に発表したデビュー作がVA 40だったんですよ。
高橋 : このアンプからすべてが始まったんですね。なにしろ、このデザインが良いですよね。
山本 : はい、あの薄型のプロポーション、あれにこだわり続け、今回のVA 40 Rebirthもまったく同じプロポーションでも、そこはこだわって作ったみたいです。 で、このマイケル・トゥのオーラ・デザインって会社は、割とすぐにB&Wに買収されちゃうんです。それから7年ぐらいB&W傘下で、VA 40、VA 80、VA 100、健太郎さんがお使いだったCA 200やパワー・アンプのPA 200、そういうものを作ってたんですけど、90年代半ばにB&Wがスピーカーだけに注力するっていうことになって、この会社を手放した。そこで日本の、今、ユキムの社長をやってる中園さんが、だったら俺がやるって言って、オーラ・デザイン・ジャパンっていう会社を作ったんです。それ以降は日本の会社なんです。
高橋 : あー、そうなんですね。
山本 : 中園さんはものすごく、このAURAのVA 40に思い入れがあるんですよ。そこで来年がAURA創立35周年ということで、このRebirthを作ったんです。
高橋 : オリジナルのVA 40の完全復刻なんですか?
山本 : 見た目はそっくりですけれど、オリジナル機よりも良くできているのは、熱対策ですね。オリジナル機はヒートシンクを使ってなかったんで、結構、発熱したんですよね。鉄板にメイン基板がどかんと乗っているような構造で。Rebirthは中開けるとヒートシンクの真下にメイン基板があって、それもブリッジで持ち上げたような形になっている。だから、熱変動による音質変化がなく、安心して使えるアンプになっています。

高橋 : 僕が使っていたCA 200はプリアンプだったので、発熱はほとんどなかったですが、なるほど、このサイズのプリメイン・アンプだと熱対策が問題になるんですね。シンプルなプリメイン・アンプですけれど、AURAらしい透明感もあり、なおかつ温度感もあるサウンドだなと思いました。
山本 : 温度感、割とウォームなという意味ですか?
高橋 : いや、ウォームっていうと暖かい、丸い音に思えちゃうけれど、そうじゃないですね。高域がとても綺麗に伸びていて、でも、そこに柔らかい光が見えるような、そんな印象です。回路的にはMOS-FETのシングル・プッシュという構成で、オリジナルと同じなんですよね。
山本 : そうですそうです。極めてシンプルな回路のアンプです。
高橋 : だから鮮度の高い音がする。
山本 : そう、出力素子を一杯使って、パワーを稼ごうとすると、どうしても音がにじんだりするんですよね。
高橋 : 真空管アンプでも、プッシュプルよりシングル・プッシュの方が鮮度が高いと言われますね。そういうフレッシュな音がするアンプだと思いました。
山本 : まさにそうですね。それはオリジナル機の時から狙ってるサウンドだと思います。
高橋 : でも、MOS-FETを使ったアンプって、最近はあまり見かけないですよね。
山本 : オリジナルの日立製のMOS-FETはもう使えないんですよ。だから、英国のExicon社のMOS-FETを使っています。これも調べてみると、NAGRAなど高級メーカーが使っている石です。

高橋 : 出力は50W ×2ですけれど、力感もありますよね。
山本 : そうですね、15インチのウーハーのシステムを鳴らしても、何の不満もなかった。
高橋 : 僕もリヴィングにサブ・システムとして置いてみて、いろんなスピーカーと合わせてみたんですが、大好きなロジャースLS3/5Aを鳴らしても、良い感じのブリティッシュ・サウンドで鳴りました。あと相性がすごく良かったのは、Seasというノルウェーのスピーカー・メーカーの同軸ユニットを密閉の箱に入れたブックシェルフがあるんですけれど、これとの相性が良かったですね。ああ、もうこのシンプルなシステムで十分だと思うくらい。
山本 : MM専用のフォノ・イコライザーもついて、25万円ほど。この記事を読んでいる人たちには高いと思われる値段かもしれないですが。
高橋 : でも、このくらいの値段で、デザイン製を含め、こだわりを満足させてくれるアンプがあるというのは良いですよ。フォノ・イコライザーもまったく問題ないクォリティーでしたし。最近はパワード・スピーカーが増えて、こういうプリメイン・アンプって、あまり使われなくなっている傾向がありますけれど、僕みたいにネットワーク・オーディオも使うけれど、アナログ・レコードも聴くし、CDも聴くみたいな人間は、やっぱりDACプリアンプ一台では事足りないですから。

山本 : 僕はオーディオのレビュワーが本職なんですが、最近の10万円クラスから30万円クラスのプリメイン・アンプって、多機能なんですよね。HDMI入力を付けて、テレビも繋げますというのが流行っていたり。
高橋 : USB入力もあるし、Bluetoothも繋げます、みたいな。
山本 : そう、それでまあ、良いものもあれば、ダメなのもあるんだけれど、そういうアンプをたくさん試聴して、テスト記事を書いた後に、このVA Rebirthに出会ったんで、シンプルなアンプの良さをあらためて感じたんです。
高橋 : 技術者の人は多機能を目指しがちですけれど、アナログ・アンプにデジタル入力を持たせると、どうしてもノイズ対策とか、温度対策とかが出てきますよね。
山本 : そう、アンプにはデジタル入力持たせない方が、やっぱり結果はいいんじゃないかなって思います。
高橋 : AURAのアンプの中でも初代のアンプをリイシューしたというところにロマンを感じますね。僕がスタジオで使っているレコーディング機材では、名機とされるヴィンテージのマイクプリアンプやマイクロフォンがたくさんリイシューされたり、レプリカが作られたりしています。そういうリバース・エンジニアリングみたいなことが、コンシューマー・オーディオの世界でも起こるようになったというのは興味深いです。山本さん的にこのVA 40 Rebirthに合わせて、ニアフィールドで聴くオススメのスピーカーってありますか?
山本 : う〜ん、何だろう、僕の使っているELACの330は相性ぴったりでしたね。B&Wの805なんかも絶対良いと思うし。やっぱり、イギリス製のスピーカーが良いのかな。
高橋 : ああ、Harbethのスピーカーなんかも良さそうですね。今回の『461オーシャン・ブールバード』もこのAURAのアンプとそういうブリティッシュ・スピーカーで聴いてみたくなります。
山本 : うん、絶対良いでしょうね。ELACはドイツですけれど、BS312という一番小さいスピーカーとも合いそうです。価格的にも30万円くらいで、バランス良いと思います。
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今回の機材──AURA VA 40 rebirth
VA 40 rebirth
1989年イギリス、ワーシングで創業開始したAura Designのスタートとなったモデル、VA 40。その名前を冠したブランドの35周年モデル、VA 40 rebirth。Aura Designそのものは、創業直後にB&Wの子会社となり、その後、7年間ブライトンで製品製造続けた後、オーラデザイン・ジャパンへとブランド自体は移管され現在に至ります。VA 40 rebirthは、伝統のMOSFETシングル・プッシュプルのアドバンテージを存分に発揮すべく、当時の回路設計を現在の選び抜かれた高品位のパーツで再現。デジタル入力やディスプレー表示もない、奥深い魅力を持つ純粋なアナログ・アンプとして、現代に蘇らせたモデルとい言えるでしょう。またフロント・パネルやシャーシなどは金属加工で有名な燕三条で製作されるなど、高い精度とクオリティを持った日本国内製造で隅々までこだわりのパーツにて構築されている。(編集部)
燕三条で加工されるVA 40 rebirthのシャシー
AURA VA 40 rebirthのその他詳細はこちらのYukimuの公式ページにて
AURA VA 40 rebirth製品ページ
https://www.yukimu-officialsite.com/%E8%A4%87%E8%A3%BD-vivid-premium-black-edition
AURA VA 40 rebirth
形式:インテグレーテッド・アンプ
入力端子:フォノ(MM) ×1、LINE ×3
出力:50W+50W (8Ω 定格)
消費電力:16W(最大210W)
サイズ:W430×H76×D350mm
重量: 7.2kg
『音の良いロック名盤はコレだ!』過去回
著者プロフィール
高橋健太郎
文章を書いたり、音楽を作ったり。レーベル&スタジオ、Memory Lab主宰。著書に『ヘッドフォン・ガール』(2015)『スタジオの音が聴こえる』(2014)、『ポップミュージックのゆくえ〜音楽の未来に蘇るもの』(2010)。
山本浩司
月刊「HiVi」季刊「ホームシアター」(ともにステレオサウンド社刊)の編集長を経て2006年、フリーランスのオーディオ評論家に。自室ではオクターブ(ドイツ)のプリJubilee Preと管球式パワーアンプMRE220の組合せで38cmウーファーを搭載したJBL(米国)のホーン型スピーカーK2S9900を鳴らしている。ハイレゾファイル再生はルーミンのネットワークトランスポートとソウルノートS-3Ver2、またはコードDAVEの組合せで。アナログプレーヤーはリンKLIMAX LP12を愛用中。選曲・監修したSACDに『東京・青山 骨董通りの思い出』(ステレオサウンド社)がある。