素材プレビューしながら泣きました
──なるほど。健さんがいま残っていた映像…という話をしていましたが、今回の映画の映像資料はどのように集めていったのでしょうか?
大石 : 正直もともとの素材がすごい少なくて。健さんが所持していた素材と、ずっとfOULのPAをやっていた今井(朋美)さんが持ってる素材を主に構成していて。あとは持っていそうなかたに声をかけて。最初に健さんの素材が100本ぐらいデータで来たんですけど、全部使えないぐらい音が割れていて。かろうじて音として使えるものを探していくというのをずっとちまちま1年半くらいかけてやっていて。そしたらその後に今井さんから素材が70本くらいやってきて。画は下北沢SHELTERの固定カメラなんだけれど、音はPAアウトの音が入っていたり、DATで残っていた音データだけという素材もあって。そうやって集めた映像と音を完全にパズルしていった感じなんです。健さんの素材の方は音が使えないけれど、今井さんの方は画が使えない。でもこれとこれはMCで言ってる内容が同じだなみたいなものがあって、もしかしたら同じ日だぞみたいな(笑)。そういうのをどうにか繋げてったっていう感じだったので、今井さんが音の素材を持ってなかったらこういう風にはならなかったと思います。
──わ、そんなに大変なエピソードがあったとは…! 見た感じでは全然そんな感じは分からなかったですけどね。
大石 : 既存のものを曲だけ繋げたみたいに思う人もいるかも知れないんですけど、結構大変だったんですよ。
──健さんが持っていた映像と今井さんが持っていた音が組み合わさらなかったら、全然違ったものになってますね。
大石 : だからといって、別のライヴと別のライヴを組み合わせてPVのようにすることもやろうと思えばできるじゃないですか。でもそれは絶対したくなくて。それは素材を見ていたらよくわかったんですが、fOULはライヴ毎に同じ曲でも全然違っていて、その日の勢いとか3人のグルーヴが違うから、それをPVみたいに繋ぎ合わせたらライヴとしては伝わらないなと思ったんです。
──そういう意味では、音のミックスに二宮(友和)さん(PANIC SMILE、uIIIn、ex. eastern youth)や今井さんが参加しているのはかなり大きい気がします。
大石 : そうですね。メンバー・プレビューの際大地(大介)さんが「俺らは外から音を聴いたことがないから、こんな音で鳴ってるんだっていうのを初めて知った。」と言っていて。それでいうと、あの現場にいた人しか分からない、あのときの音を再現できないと難しいなとは思っていて。そしたらメンバーから二宮さんでという指定をもらえたので、ばっちりな方にお願いできたなと思いますね。二宮さんもデータのやり取りをしているとき、終わりたくないくらい楽しい作業だったと言ってくれてました。
──fOULとeastarn youthは切っても切れない縁ですもんね。
大石 : 二宮さんとやり取りしていて、同志でもあると思うけど、1人のfOULファンでもあるんだなと思いましたね。

──ちなみに大石さんが現場にいたときの映像はあったりしたんですか?
大石 : 休憩に入るときの〈砂上の楼閣〉34回目の素材があって、私はそれにも行ったんですけど、当時山梨に住んでいて終電の都合でアンコールを見れてなかったんです。そしたら今回の素材で初めてアンコールが見れて。しかも本編までは音が割れちゃっていて、記録としては見辛いんですけど、アンコールからは音の素材がちゃんとあって。
──それはミラクルですね!
大石 : そこは素材プレビューしながら泣きましたね、15、6年越しについに見れたと思って。
──大石さんから〈砂上の楼閣〉の話が出ましたけど、fOULにとってあのイベントはどういう場所だったんでしょうか?
谷口 : fOULが独断と偏見だけで選んだアーティストと、自分たちの世界観だけでやるライヴって感じでしたね。
──健さんのなかでは当時の〈砂上の楼閣〉ではどの回が印象に残っていますか?
谷口 : 覚えてるなかだと、54-71のステージは凄かったし、bloodthirsty butchersとeastern youthが出たときもあったはず。とにかくそのときの体調とか感情とかテンションが全部違っていて。これはすごくfOULっぽいんですけど、ドラムの大地も「俺は毎回ドラムが違う」とか言うし、僕のギター・ソロも毎回違うので、そういうのは演奏していた自分でも合点がいくというか。もっとプロフェッショナルなバンドだったら同一の音作りとか曲の長さとかにしたと思うんですけど、同じ曲でもライヴが違ったら曲の尺も変わるんですよね。そういうのを好き勝手にできるのが自分たちの企画だったと思います。
──大石さんはどうですか?
大石 : 正直私は後期しか行けていないですけど、初めて行った54-71のときですかね。あとは手水との対バンも凄かったですし、休憩に入る1回前のSuspiriaも凄かった。どうやってこの人たちを見つけてくるんだろうって毎回思ってました。
谷口 : 納富高広さんっていうフォークの弾き語りの青年を呼んだのも印象に残ってますね。あとは高校生のころから憧れていたあぶらだこを呼んだ回は緊張しました。リハも僕らとは全然違って、ギターの大國(正人)さんが一音間違えるだけでヴォーカルの(長谷川)ヒロトモさんが睨むんですよね。僕たちはリハーサルの方がテンション高いんで、強烈にリハーサルの方が楽しいんですよ。そういうのが記憶に残ってます。
大石 : すごいですね、緊張感あるあぶらだこと、一方でテンション高いfOULって(笑)。
谷口 : そうなんですよ、俺たちのこの演奏でいいのかな? みたいな。音作りを1音も間違えては行けないというバンドと、1つも同じことをしないバンドの対決は最高でしたね。
大石 : 私も毎回対決感があるんだろうなと思いながら行ってましたね。対バンって戦うものなんだ! っていう目線で見てました。
谷口 : bloodthirsty butchersとやったときなんて僕らより出番前なのに、持ち時間の倍近くやるんですよ(笑)。そこに彼らの戦う姿勢を感じてました。