この7年間を詰め込んだ記録集──“明日、照らす“、バンドの幅を広げる新作『Permanent Collection』

2006年の秋から活動している明日、照らすが7年ぶりに最新フル・アルバム『Permanent Collection』をリリース! 今作は過去、現在、未来のことや、大人の恋愛、自分自身、友人、社会に対して村上友哉(Vo / Gt)が体感したリアルな感情が歌詞に綴られるアルバムだ。ネガティヴな表現もありつつ前向きなメッセージ性を含んだ歌詞が朗らかなサウンドに乗せられる明日、照らすの楽曲は、自然と身体が揺らめき希望に満ち溢れた感覚になっていく。この7年という期間一体どんな活動や体験をしていたのか。今回も村上友哉によるアルバム全曲解説を掲載。彼らの7年間の思いが詰まった最新アルバム『Permanent Collection』とともに、村上友哉への単独インタヴューをお楽しみください。
明日、照らす7年ぶりの最新フル・アルバム『Permanent Collection』
須田亮太(ナードマグネット)からのコメントも到着!
7年ぶりの新作。まあ7年も経ったら私もさすがにいい大人だしな〜って油断してたけどやっぱりしっかり刺さりました。むしろいまだからこそ刺さる。カサブタになって固まってたのをまた引っぺがされたような。どうしてくれるんすか。作ってるのがアメリカのポップ・パンクを愛する村上さんなので、曲がめっちゃキャッチーなのもタチが悪い。スッと懐に入ってきて気付いたら刺されている。どうしてくれるんすか。
須田亮太(ナードマグネット)
INTERVIEW : 村上友哉(明日、照らす)
日本のフォークと海外のポップパンクからの影響を感じるサウンドを鳴らす愛知県在住の3ピース・ロック・バンド、明日、照らすからおよそ7年ぶりの新作『Permanent Collection』が届いた。名曲“東京サーモグラフィー“の続編に位置付けられる新曲“花も嵐も“や、村上の大学時代の友人を歌った“K”など、まさにアルバム・タイトル通り、この7年の思い出が詰まった、写真アルバムのような作品だ。とはいえ、アルバムの1曲目を飾っている“THE WORLD IS MINE”で「『いつか僕が世界を変える』 / そんな想いをちゃんと持っていよう」と歌っているとおり、彼らの成長は止まっていない。“月と六ペンス“や”Sunday”など、エモーショナルなギター・サウンドが印象深い新機軸のサウンド・アプローチも。7年ぶりの新作となった『Permanent Collection』に込めた想いはどんなものだったのだろうか。ソングライターの村上友哉に話を訊いた。
インタヴュー : 鈴木雄希
文 : 東原春菜
いままでと違うことがしたいという思いはありました。
──7年ぶりのアルバムとなりましたが、この期間バンドとしてはどのように活動していましたか?
ライヴに誘われたり「SHOW BY ROCK!!」というゲームで曲を使ってもらったりして活動していました。あと、メンバーの生活環境が変わってきたので、ライヴを行ったり曲を作ったりするペースがゆっくりになりましたね。
──それはなぜですか?
2ndフル・アルバム『あなた』である意味“やり切った感覚”があって、次の目標を見失った状態でした。実際7年経っているんですけど、バンドとしては2年ぐらいのことしかやっていないんですよ。
──『Permanent Collection』を作ろうと動き出したのはいつごろでしたか?
3年前の2017年ぐらいですね。

──アルバムを作ろうとしたきっかけはあったのでしょうか?
3年、4年ぐらい経つと曲もできてきたので、一度曲を整理してみてからあとのことを考えよう、と思いたったのがきっかけでした。
──そのときには、次はどういう作品にしていこうみたいな目標は頭の中にありましたか?
漠然といままでと違うことがしたいという思いはありました。バンドがいま、延長線上で進んでいるというのを表現したかったです。
大味でグルーヴ感が出やすいリズムというのを目指した
──以前のインタヴューで、基本的に作曲は村上さんが担当して、スタジオで清書していくような作り方をしているというお話をされていたと思うんですけど、作り方はいままで通りですか?
いままでと一緒ですね。スタジオに行って、最初は僕が作ってきた音楽を合わせて、それをどう感じたかを聞きますね。ただ、僕が頭から全部指示しちゃうといままでと同じようになるから、「こんな感じでこういう曲を作りたいんだけど」というところからはじまって、自分が、自分がってならないようにしました。

──今作では、いままでの明日、照らすらしさもありつつ、7曲目の“月と六ペンス”以降の数曲でかなりエモーショナルなギター・サウンドになっていて、サウンドの変化があったように感じました。
そこは意識していましたね。前にやったようなことだったら前のアルバムを聴けばいいと思うので。前とは違う形で作品を仕上げるということを考えたときに、バンドとして楽曲の幅を持たせることを大事にしました。
──その幅とは?
もともと僕がドラムをやっていたというのもあってリズムは特にこだわりました。3ピースで音楽を作るときに、リズムに対してはこういう風にしてほしいと要望を出したり、海外のバンドの曲を聴かせながらスタジオに入ったり、みんなで意識を統一しながらやっていましたね。
──なるほど。メンバーから上がったリズムの意見で印象がガラッと変わった曲はなんですか?
3曲目の “MALL LIKE(Y)”ですね。あの曲は3パターンぐらいあって、その3パターンのうちのひとつが今回収録されています。一度曲を作ってはまた1回冷静になって何ヶ月か寝かして久々に聴いたり、他のバンドの音楽をたくさん聴いたりして、前作と似ていると思ったら辞めて。そんなことを繰り返ししていました。
──他のバンドの音楽というのは?
高校生のときから聴いていたジミー・イート・ワールドとかグー・グー・ドールズですね。“月と六ペンス”はジミー・イート・ワールドとグー・グー・ドールズの曲を参考にしています。わりと緻密に音を刻んでいくリズムよりも、大味でグルーヴ感みたいなのが出やすいリズムというのを目指したのかもしれないですね。
──なるほど。今作で特にお気に入りのフレーズは?
“MALL LIKE(Y)”の「別に意味はないんだ 君に会うからじゃなくて たまたま爪を切っていた」という歌詞ですね。この曲で性的なにおいを出さずに、性的な表現をするっていう目標があったんですよ。これはある意味到達点で“別に意味はないんだ”にすべてが通じていて、この歌詞が気に入っていたのでボツにしたくなくて3回作り直しました(笑)。
──今作を作っていく過程で歌詞の書きかたや考えかたも変化していったのでしょうか。
12曲目の“泣くな、新栄”の1番最後の一行が「悲観することじゃないさ」なんですけど、最初は“ないか”だったんですよ。当然いまでも自分のために音楽をやっているし、自分がおもしろいこととか、感動することがまず1番先に来る。だけどお客さんから「おばあちゃんが亡くなったときに“ダウンタウンヒーローアンドヒロイン”をずっと聴いていたんですよ」とか「彼女に振られて“東京サーモグラフィー”をずっと聴いていました」みたいな、そういうことを言われる機会が増えてきて。自然とそういう気持ちになっていったんでしょうね。だからこれまでよりも外に向けて歌っている感じもあるし、より「聴いてほしい」と思うようになったと思います。
誰かがどこかで聴いてくれたらいいなと
──“月と六ペンス”はなにか具体的なエピソードがあって生れたのかなとも思いました。
昔からお世話になっている方のライヴを3、4年前に観に行って。ライヴの帰りにその方と2人で話して「本当にこのままでいいのかお前は。本当はもっと上を目指したいんじゃねぇのか」「お前がもう1回勝負したいと思うんだったら俺が事務所とかに言うぞ」って言われたんです。そのとき、普通は「お願いします」って言えばいいじゃないですか。だけど「やめときます」って言ったんですよ。当時の自分は何にもやってなかったから偉そうなことばっか言ってたんですよ。あの時も僕はあなたほど才能もないし、あなたほど力もないからとか、言い訳を重ねているだけで情けなくて……。そのときに『月と六ペンス』という本を読んでいたのもあったんですけど、あの夜、情けなくてみっともなかったけど素敵な才能がある人から「本当はもっと上を目指したいんじゃねぇのか」と言ってくれるってことは自分が持っている可能性はゼロじゃないんだなって思ったんです。可能性があるだけマシかと思って、あのとき言えなかったことを曲にしたって感じですね……。
──なるほど。歌詞の「苦しみをちゃんと糧にした新しい僕を待っていて」(“月と六ペンス”の歌詞より)というところは、聴き手によっていろんなストーリーを想像できる。と思います
その歌詞は最終的に「自分のペースで、自分の考えかたや自分の持っているもので、俺は俺で行くから見ていてください」という感じです。海外の音楽ばっかり聴いていた自分が、日本の音楽も聴くようになって、俺もこういうことがしたいと思うようなきっかけになった人でもあるから、あの人に認められたいというのが心強いんです。

──それと“THE WORLD IS MINE”が1曲目にあると、バンドとしての成長が止まっていないんだなっていうことも感じられるし、いまのお話にも繋がってくるのかなとも思いました。
“THE WORLD IS MINE”は酷い日常だけど志しだけは持ってやっているんだっていう曲ですね。
──「2、3人だけが知っている存在が 僕の理想の終着点なのか?」(“THE WORLD IS MINE”の歌詞より)という歌詞にグッときました。
僕自身、一般的に「これ、なに?」と言われるような音楽や映画、本が好きで。僕がそのまま屈折したらアンダーグラウンドに向かっていって、2、3人くらいからしか「いいね」と言ってもらえないようなものを作り続けたと思いますね。でも、本当にそこで突き詰められるのか? という思いもあって。オーバーグラウンドのことと、アンダーグランドのことをやるバランスは難しい。自分としての葛藤でもあるんですよね。
──11曲目の“K”は友人が亡くなった日の曲なんですよね。どのような気持ちで曲にしようと思ったんですか。
亡くなった方は大学の友人で、31歳ぐらいのときなんですけど「人って死ぬんだな」って久々に思ったんですよ。本当に人が亡くなることって、その都度同じぐらい衝撃があって。単純に「自分の友達が亡くなった」、「そんな人がいたんだ」ということを誰かに知ってほしかったのかもしれないですね。人って記憶から消えたときにもう一度死ぬみたいに表現されるじゃないですか。あいつだってもっと長く生きたかったと思うから、曲にして、誰かがどこかで聴いてくれたらいいなと思いますね。これも人の記憶から消えないための1つの方法じゃないかなと思ったんですよね。葬儀の帰りに思っていたことをそのまま歌詞にした曲なんですけど、ある意味、アルバムを作る上でこの曲を世に出したい気持ちが1番大きかったですね。
──村上さんにとって過去のことを歌にする行為は、なにかを求めている感じがあるのかなとも思いました。
自分が作っている曲は全部「つらい」「悲しい」「苦しい」がベースにあると思うんですよ。人の過去話をダラダラ話されても聞いていられないじゃないですか。でも音楽にするとみんな聞いてくれるんですよね。しかも、それを「また聴かせてほしい」とか「あの曲をまた聴きたい。あの曲のあの歌詞が好きで」って言ってくれる。僕からすると音楽を作ることは根本的に「つらい」「悲しい」「苦しい」出来ごとのはけ口と言ったら変ですけど、そういう感覚があって。それでも自分が体験して感じたことを誰かが聴いてくれて求めてくれるっていうのは、音楽をやる上でも1番大きい要因のひとつかもしれないです。
──過去のエピソードを曲で表現し、今作は思い出が詰まった1つの写真のアルバムのようなイメージを抱きました。
年を重ねたからですかね。30歳を超えて懐が深くなっているというのはあるのかもしれないです(笑)。
──いまライヴとかもストップしていかないといけない状況ですが、アルバムを出された後、明日、照らすとしてはどのように活動していきますか?
6、7、8月で東名阪のライヴをやれたらいいですね。今後も歌いたいことや聴いてほしいことがあったら曲を作って、それが溜まったらアルバムを作っていく感じですね。とにかく、このアルバムが売れたらうれしいです(笑)。

明日、照らす 村上友哉によるアルバム解説
01.“THE WORLD IS MINE”
何の実りもない日。今日はなくてもあってもどっちでもよかったみたいな1日。そういう日を過ごすたびに「これはいつか僕がどこかの誰かになるために必要な1日だったんだ。」と自分に言い聞かせています。
02.“自負と偏見”
別れた彼女と彼女が結婚した後に久々に会った日の事。悩みは良き思い出。全ては時間が解決してくれること。結果、僕はプライドが高く、あれからもずっと色々な偏見で世の中を見ていたけど、そんなことは人が人として幸せになるためにはただただ邪魔でしかなかった。彼女にはそれが分かっていた。
03.“MALL LIKE(Y)”
大人になると好きとか嫌いだけじゃなく、なんとなくとかタイミングで誰かと一緒にひと時を過ごす事がある。多分、現代風にいうと「遊び」なんだろうけど、実は相手の方が「遊び」だと思ってたんだろうなって曲。タイトルはショッピングモールで買えるような気軽な愛情という皮肉を込めて。あとtwice。
04.“あ・い・ら・ぶ・ゆー”
別れた彼女とヨリを戻した時にうまくいかなくて、なんかずっと違和感があったって曲。多分それは女はいつも上書きっていうけど、パソコンの上書きじゃなくて、修正液で消した文章みたいに見た目は白でも厚みができているんじゃないかと思った。だって前はそんなことなかったのに、僕と別れた後に付き合った人の影響か、メールで送られてきた「あいらぶゆー」がなぜか平仮名だった。
05.“Sarah”
結婚を考えた女とその男の曲。結局こういう時、なんだかんだで理由をつける男の方が思い切りが弱いと思います。
06.“花も嵐も”
続『東京サーモグラフィー』。恋愛は分かっててもできない事がある。
07.“月と六ペンス”
口ばかり達者になっていく自分。口ばかりなんでも言えるのはただ自分が何もしていないから。それを目の当たりにした日のこと。タイトルはモームの同名作品より。月は夢、六ペンスは現実の意味。到底敵わないにしてもいつまでもちゃんと1人のアーティストとしてあの人の前ではいたいという決意の歌。
08.“「さよなら」を絵に描いたようだ”
何年も経って自分の意図としてないタイミングで不意に昔の彼女との記憶が伻ることがあって、あの瞬間の「あーあ。」という気持ちを書いた曲。30過ぎて悲しいのは、この「あーあ。」だけじゃ済まなくて、好きとか嫌いとか会いたいとか会いたくないではなく、完全にもう2人は終わったという事を相手の結婚や出産として具体的に提示される事が多いこと。変な「あの時こうしてたら、今頃は。」という淡いタラレバが捨てられるからいいはいいけど、切な過ぎて膝から崩れ落ちそうになる。
09.“クラブ、スペード、ダイアモンド”
報われない男女の関係をポーカーのゲームに見立てた曲。勝手な想像ですけど男女の関係において男より女の方がポーカーフェイスがうまい気がしていて、それって多分ほんとにゲーム感覚だからなんじゃないかなって思った。
10.“Sunday”
この世界にはどこかの誰かが決めた暗黙の社会の絶対ルールみたいなものがあって、ネイルをしてると何が失礼なのか僕には良く分からないけど、社会の暗黙のルール上ではアウトとされてる場合があって、ある日そのルールが突然不思議に思えてきたって曲。そのルールと戦うには今の僕は無力過ぎた。
11.“K”
大学の友人が亡くなった日、葬儀の帰り道に思ったこと。彼は僕らのCDを聴いてくれていて、奥さんから「いつも主人が車で聴いていて、よく歌ってました。」と言われた。人は音楽の中で永遠に生き続ける事が出来ると聞いたことがある。それなら僕らが彼を歌い、彼を生き続けさせてあげたい。
12.“泣くな、新栄”
ハンターSトンプソン『ラムダイアリー』、ヘミングウェイ『移動祝祭日』、ビートたけし『漫才病棟』の様な自伝青春小説を読むのが好きで、僕にも青春はなかったのかと思い起こした初めて一人暮らしをした新栄町での思い出を買いた曲。あの部屋の記憶が今もなお眩しいのはカーテンを買うお金がなくてカーテンがなかったからか、今では分からないけど、カーテンを買うお金ができた今でもたまに羨ましく思えます。
13.“未成年への主張(Bonus Track)”
学生の自殺のニュースを見るたびに自分でも異常だと思うくらいにいつも心が痛みます。人生100年時代がくるだろう昨今、学生で自ら死ぬなんて本当に悲しい。本当に人生が面白いのはそこからなのに。教えてもらった教科書とは少し違う人生観かもしれないけど、僕はいつもこう思ってます。
編集 : 東原春菜
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LIVE SCHEDULE
タワーレコード名古屋パルコ店 ミニライブ&特典お渡し会
2020年5月24日(日) @愛知 名古屋 矢場町 名古屋パルコ西館1Fイベントスペース
時間 : START 12:00
TICKET : FREE!!
出演 : 明日、照らす
Permanent Vacation TOUR
2020年6月27日(土) @大阪 南堀江knave
時間 : START 18:00
出演 : ナードマグネット / TheSpringSummer / 明日、照らす
2020年7月12日(日) @愛知 名古屋 今池HUCK FINN
時間 : START 18:00
出演 : GOING UNDER GROUND / 明日、照らす
2020年8月22日(土) @東京 吉祥寺WARP
時間 : START 18:00
出演 : 明日、照らす
※感染症に係る自粛がライヴ当日の2週間前まで要請されている場合、該当ライヴを中止
【詳しいライヴ情報はこちら】
http://asstellus.com/live.html
PROFILE
明日、照らす

愛知県在住の3ピースバンド。名古屋市を中心に全国的な活動を行っている。
2003年、村上と伴を中心に前身バンドを結成。
2006年秋、“明日、照らす”として活動を開始。
2007年9月、ファースト・シングル「MiD/燃える夏」をリリース。
2008年12月、ファースト・ミニ・アルバム『素晴らしい日々』をリリース。
2010年8月、ファースト・フル・アルバム『それから』をリリース。
2011年12月、i GO × 明日、照らす スプリット・シングル「UNDER THE LONG FUN」をリリース。
2013年1月、セカンド・フル・アルバム『あなた』をリリース。
2020年4月、サード・フル・アルバム「Permanent Collection」をリリース。
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