一番の喜びは、いいライヴができたあと感想をいい合うとき
──もう1曲、大ネタ中の大ネタである「マイ・ウェイ」をカヴァーしていますが、この曲をやろうというのは誰のアイデアだったのでしょうか。
篠田:いまオリジナルとカヴァーが半々のツアーをやってるんですけど、ツアー中にメジャーデビューを発表することになったんですよ。チーフマネージャーから「発表するときにマイ・ウェイを歌ったら盛り上がるんじゃないか」というアイデアが出てきまして。折り返しぐらいにあたる横須賀公演で発表することになり、ツアーの最初からセットリストに入れるようになったんですけど、1、2回やった段階で手応えがあったんですよ。
──それはどういう手応えだったのでしょうか。
篠田:カヴァー曲の場合、妙ちゃんの声にメロディーがハマることがあるんですけど、それにぴったりだったんですね。何度かライヴでその「マイ・ウェイ」を観てくれたレコード会社の担当の方から「これも録りましょうよ」といってもらい、急遽録ることになりました。
伊東:だから最初は「美しき人」だけを配信する予定だったんですよ。レコード会社の担当の方がライヴに何度も足を運ぶなかで「T字路sのお客さんには配信だけじゃ届かないかもしれない」と思ったようで、CDとして出すために社内会議をがんばってくれたんです。この時代、シングルCDを出すのは難しいと思っていたので、嬉しかったですね。
──「マイ・ウェイ」の日本語詞はいくつかあると思うんですけど、この訳詞は布施明さんが歌っていたものですよね。
伊東:そうですね。フランク・シナトラの原曲は死にゆくときに「俺の人生はこれでよかったのだろうか」と自問自答する感じなんですけど、「今 船出が近づくこの時に/ふとたたずみ 私は振りかえる」という布施さんのヴァージョンはこれからの歌なんですね。このタイミングで私たちがやるにはぴったりだと思ったし、自分たちの歌詞のようにすら感じました。
篠田:藤圭子さんもこの歌詞で歌ってるんですけど、それもいいんですよね。
──ここでの妙子さんの声、凄まじいですよね。大ネタにまっすぐぶつかっていく覚悟さえ伝わってきます。
伊東:この曲はなぜか身体が鳴ったんですよね。
篠田:布施明さんもまさに身体が鳴ってる感じがしますよね。マイクを口から離して歌い上げてる感じというか。「マイ・ウェイ」はそういう曲なのかもしれない。
──カヴァー曲のなかには身体が鳴る曲もあれば、鳴らない曲もある?
伊東:そうですね。でも、鳴らそうと思って鳴るものでもないし、その点は自分ではどうすることもできなくて。ある程度は鳴るんですよ。でも、「えっ、どういうこと? いま何が起きてるの? 」みたいなゾーンに入ることもあって、「マイ・ウェイ」はそこにハマりましたね。
篠田:きっとお腹のなかに真空管みたいなものが入ってるんですよ(笑)。あるゾーンに入ると、その真空管が威力を発揮しだすという。
──年齢を重ねるなか、身体がそれだけ鳴るというのはすごいですよね。何か特別なケアなどをしてるんですか?
伊東:それが何もしてないんですよ。ケアといってもノド飴を舐めるぐらいだし、発声練習もしたことがない。それでもずっとやれているのはありがたいですよね。
篠田:年を重ねるごとにコツを掴んでいるところはあると思いますね。力をそこまで入れなくても真空管のスイッチが入るようになったんじゃないかな。ベテランのピッチャーが全力を使わなくてもバッターを打ち取っていくような感じというか。
──もちろん豪速球を投げ続ける妙子さんも素晴らしかったけど、いまは140km後半ぐらいでコーナーをビシバシ攻めていくような感じですよね。以前よりも球種が豊富だから、140km後半でも十分豪速球に感じる。
篠田:そうですね。「美しき人」も160kmで投げられると思うんですけど、140km台のほうが歌詞がしっかり聴こえてくると思うんですよ。そこも含めて計算できるようになってきたのかな。
──昨年の10月から『ダブルサイダーツアー 2024-2025』として各地を回ってきたわけですが、今回のツアーはどんな感じでしたか?
伊東:いやー、今回も楽しいですね。
篠田:一番の喜びはいいライヴができたあと、スタッフと美味しいお酒を呑みながらライヴの感想をいい合うときなんですよね。
伊東:ツアーしてるなーという感じがしますね。たとえいいライヴじゃなかったとしても、だったら明日のライヴで改善しようと話し合うことができるし、そこに充実感を感じるんです。
──そこはT字路sを始めた15年前から変わらないですか。
篠田:うん、変わらないですね。ライヴ後、なんでもない居酒屋でチビチビやるのが楽しいんです。
伊東:あそこが良かった、あそこがダメだった、あそこのMCで噛んだの酷すぎるって(笑)。
篠田:結局はそういうことをやりたいんですよね。
編集 : 津田結衣
ライヴ情報
T字路s ダブルサイダーツアー 2024-2025

2025年4月21日(月)東京都 渋谷CLUB QUATTRO ※追加公演
2025年5月1日(木)大阪府 ユニバース ※追加公演
ディスコグラフィー
PROFILE:T字路s

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