「こんなに良くしてくれると思ってなかったから、びっくりした」
──いま下北沢のライヴハウスにいくとインバウンドのひとがたくさんいますよね。あなたこのバンド目当てじゃないでしょう、っていうひとが何人もいて、ライヴを観ている。ライヴハウスに行くこと自体が観光の目的になってる。
藤澤 : 海外のライヴハウスってバーに近いけど、日本はちょっと違うじゃないですか。バーみたいなところかと思って行ったら、なんかみんな前向いて立ってるぞって(笑)。彼らはほんとうに行ってみたくて来てるわけなんで。何組か見て帰るんですけど、「なんかいいかも」って思って帰ってくれたら最高ですよね。
面白い話があって。そういうインバウンドのお客さんが、ライヴハウスのスタッフに「ライヴハウスのグッズが欲しいんだけど、ありますか?」ってきくの。そうするとライヴハウスは、需要がある! と思って作るわけ。で、作ると実際に売れる。でも売るにはスタッフが英語を頑張らないといけない。この一連の流れは海外ではすでにある流れです。だから韓国に行っても台湾に行ってもスタッフが英語を喋れるんです。僕はそれにまず感動した。
〈BiKN Shibuya〉も頑張ろうと。インターナショナルなショーケース、インターナショナルなイベントを目指そうと思って頑張りました。英語や中国語ができるスタッフを結構、会場に配置しました。そもそもプロモーションからして、ひとつの告知を何か国語で出すのかっていう話で。裏でアーティスト対応するスタッフも中国語、韓国語、英語、ぜんぶ配置してるから、通常の4倍ぐらい労力がかかっています。インターナショナルってこういうことだよな、っていう思いもあって、今回はすごい全方位で対応させてもらいました。
──それはすごいですね。
藤澤 : ただそれに対する適正な予算が出せるわけでもなかったので、人伝いだったりとか、〈BiKN〉のコンセプトに賛同してくれそうなひとたちに声をかけて、助けてもらっています。
──来日してくれたアーティスト・サイドは、なんて言ってましたか?
藤澤 : 「こんなに良くしてくれると思ってなかったから、びっくりした」と言って帰りました(笑)。まぁ送迎からなにからぜんぶやってますから。みんな、めちゃくちゃ喜んでました。ただ当日はいろいろありすぎて、インタヴューやビジネス・ミーティングやオファーをいただいていたのですが、ぜんぜん受けられませんでした。次の展開を話したいというのもたくさんあって。そんなにたくさん組めるかなと、ちょっとどうしようかと思ってます(笑)。
──日本のアーティスト・サイドはどうですか?
藤澤 : 日本のアーティスト・サイドも結構話したいって言われたんですけど、当日時間がなくて、なかなか話せなくて。たぶん「なんでこんなイベントやるんだ」って僕らを問い詰めたかったんじゃないかな。お誘いするときもメールなどに気持ちは書いたのですが、同じように可能性を感じてたり壁にぶち当たっていたりするだろうひとたちしか呼んでないから。熱い気持ちをスタッフに告げてくれるひともいて、後でそれを聞いたときもスタッフが同じような熱量になって伝えてくれたことに驚きました。すごく感動しました。

世界に出ていってるバンドはめっちゃギャラが高い
──実際に運営する側に立ってみて、アジアのシーンに対する認識の変化はありましたか?
藤澤 : やっぱり東アジア/東南アジアは特殊なんです。中国というとてつもなく大きな国があって、文化輸出をしたいっていう韓国とか台湾とかがあって。でも全員がそれぞれ問題を抱えていて。しかも抱えている問題がみんな違う。
──そうであっても日本以外は連帯しているシーンがあるわけですよね。どうしてなんでしょう?
藤澤 : 僕もわからない部分はあるんですけど、やっぱり日本以外のアジアって音楽で食っていくのは大変なんです。国内だけでは食えない。だから世界に行くしかないっていうのは、まずひとつあります。で、そもそも食えないところで今回みたいなインディー・ロックやオルタナティヴが好きなひとなんて、変人しかいないじゃないですか。癖すごっみたいな。だから僕からしたら、すごい親しみがあります(笑)。水が合うというか。一緒じゃんっていう。
──逆に日本のシーンの特殊性のようなものは?
藤澤 : 日本のアーティストって、めっちゃ日本なんですよ。これ、よそでも喋ってるんですが、韓国のフェス〈Incheon Pentaport Rock Festival〉で羊文学を観たときに感動しちゃって。日本ではよく観るアーティストじゃないですか。〈BASEMENTBAR〉でやってるころから観ていて、勝手に「デカくなったなあ」って言ってみたり(笑)。でも、欧米のアーティストも韓国のアーティストもたくさんいるなかで羊文学をみると、めちゃくちゃ日本のアーティストなんですよ。そして日本のひとがやってるこういうロックは、ほかのどの国のひとにも出せない。それに超感動する。こんなに音が美しくて、所作が細やかで、スタイリッシュで、静かで、でも内側からふつふつとこみ上げてくるものがある。すごく日本的で、こんなバンドはいないです。海外のアーティストから影響を受けて作っていても、アウトプットしたものはすごく日本的なんですよね。たぶん。
だから、いますぐにでも下北沢から世界に飛び出せるアーティストは山ほどいます。日本のこの積み重ねはすごいなと。この切磋琢磨。何万人というバンドマンたちの裾野があって、その上に立っているひとの強さはすごいです。機会があったら海外で日本のアーティストのライヴを観てみるといいですよ。もしそれが自分の好きなアーティストだったら死ぬほど感動すると思います。
──〈BiKN〉から話がそれて恐縮ですが、今回の〈BiKN〉は日本のバンドをアジアに向けて紹介するショーケースでもありました。同様の目的の他のプレゼンテーションの方法やルートはあるのでしょうか?
藤澤 : 世界に向けて発信するかどうかじゃないですか。すごいシンプルな例として、全員がそれをやれと言ってるわけじゃなく、例えばですが、「我爱你 (ウォーアイニー)」って中国語で歌ったら「私はあなたのことが好きです」って言ってる歌だって一瞬で理解できるひとが10億人いるって話です。あるいは、よりミックス・ランゲージで歌うことかもしれない。ちょうどいま変革の最中にある気がしています。どんどんミックスになっていく。映像の分野でサブリンガル、サブタイトルに慣れているひとが増えているって話もそうです。リーチ力が格段に違いますから。誰でもできるじゃないですか。いまはAIがやってくれるから、やるかやらないかを決めるだけです。
──リーチすれば通じる可能性がある強さを日本のアーティストたちは持っている。
藤澤 : 海外では特定のアーティストしか深みが出せないことが多いです。のべつまくなしに海外を褒めてるわけじゃない。日本のアーティストの歴史の積み重ね、裾野の広さ。街ごとにジャンルが違ったりとかもそうです。ぜんぶ積み重なっているんです。それに裏付けされた実力があるからこそ、日本でウケないことがすべてではない、ということを強く提示したいです。こんなにたくさんの音楽がある国で、アーティストが苦しくなってるって、ぜんぜん納得いってないです。
世界に出ていってるバンドはめっちゃギャラが高いです。中国だと桁が2つ違う。日本のバンドとか超安い。それがもったいない。好きな音楽やってギャラが高いって幸せじゃないですか。アーティストに幸せになってもらいたいです。居場所があれば、その音楽が続けられるっていうのが、やっぱり一番いいんじゃないですか。それを見つけてほしいです。
